中学生捜査

杉下右京

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第18話 放送殺人

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今まで数々の難事件を解決してきた久野隆と隆と行動を共にする加納マリアの通う大熊中学校で殺人事件が起きた。
事件が起きたのは昼。生徒たちが弁当を食べているときだった。弁当を食べている時間に音楽が放送されるのだがこの日放送されたのは若い世代の間で人気が高まっている曲で生徒たちのテンションが上がり騒いでいた。
そんな騒がしい昼が終わり昼放課となったころだった。何人かの生徒が教室にいる先生のもとに駆け込んできて
「先生!来てください!城嶋先生が!」
と叫んだ。そう、廊下に血を流している城嶋卓が倒れていたのだ。

「ナイフで腹を一突きってわけか。」
110番通報を受け駆け付けた愛知県警捜査一課の北野はそう言った。
「死亡推定時刻は今から20分ほど前ですな。通報があったのが10分前ですから昼ご飯の時間に殺害されたということです。」
そう説明するのは愛知県警鑑識課の沼田であった。
「しっかしまあこんな廊下で物騒な話っすね。」
犯人に対する怒りをにじませたのは愛知県県警捜査一課、北野の後輩の沢村だった。
「その時の様子についてお話ししましょうか?」
その時後ろから嫌な声が聞こえてきた。声の主は久野隆である。
「あのねえ!勝手に首突っ込まないでください!」
ブルーシートで囲われた現場の外で北野と沢村と隆は話していた。
「遺体はナイフで刺されていたようですねぇ。」
「はい。腹部を刺されたことによる失血死です。」
余計なことをペラペラ話す沢村の頭を北野が叩いた。
「いずれにしろ、事件当時の情報はあなた方としても得たいでしょうから僕から話を聞いてはどうでしょう?」
隆にそう言われると困った北野は仕方なく隆に聞きこむことにした。沢村は第一発見者の生徒の話を聞きに行った。

「まず被害者の城嶋先生ですが城嶋先生は国語科の先生でD組の担任の先生でした。優しい先生として生徒からの評判は良かったと思います。」
そう語る隆に北野はやりにくそうに聞き込みをしていた。
「つまり、恨まれるような人物ではなかったということですね。」
「ええ。1つ質問ですが、殺害現場はこの場所で間違いありませんか?」
「私が質問をしているんです。立場を逆転しないでください。」
嫌味ったらしく北野は言ったが隆が「申し訳ない」と言うと話始めた。
「凶器のナイフが刺さってましたから殺害現場はここで間違いありませんよ。血の様子などを見てもね。」
「なるほど。そうですか。凶器がナイフとなると計画的犯行と考えられますがとなると疑問が1つ、なぜ先生はこの廊下と言う見つかりやすい場所で殺害されてしまったのか。ですね。」
隆が疑問を言うと北野も頷いた。
「ええ。一応教室からは死角となってはいますが刺されたんだから叫び声や音がしてもおかしくありませんからね。って、そんなことは我々が考えることですから。もうお帰りいただいて結構ですよ。」
隆は北野に追い返された。

「すげえ騒ぎになってるな。殺されたの城嶋先生なんだって?」
隆が自らのクラスのC組に入ると山田が一番にそう聞いてきた。
「ええ。そのようですねえ。」
「えっ!嘘だろ!俺城嶋先生に提出しなきゃいけないプリントがあるんだけど。」
山田のその言葉に隆は思わず
「そう言う問題ではないでしょう。」
と突っ込んでしまった。

学校から山田の家に帰った隆は先に来ていたマリアと話していた。
「それにしてもひどい話ですね。まさか城嶋先生が殺されてしまうなんて。」
マリアが残念そうにため息をつくと
「なぜD組の人たちは気づかなかったんでしょうね。」
と続けて言った。
「もしかすると何も聞こえなかったのかもしれませんねぇ。」
と隆は言う。
「どういうことです?」
「昼に放送された曲あれは人気の曲のようですねぇ。生徒たちは盛り上がっていたし放送委員もそれを見越して音量を上げていました。」
隆が言わんとしていることの意味がマリアにも分かった。
「なるほど。放送の音楽がうるさくて城嶋先生が殺害されたことに気が付かず昼放課まで発見されなかったってことですね?」
とマリアが言うと隆は
「だと思いますよ。しかし。腹を一突きしたのであれば犯人は相当な返り血を浴びていると考えるべきです。どこかで着替えなくてはいけません。」
と言った。マリアが推理する。
「でもあの場所からだと教室の横を通ることになる。いくら何でも返り血を浴びた状態で教室の横は通れませんよね。そう考えると・・・」
隆とマリアはやがて同じところにたどりついたようだった。
「あそこで着替えるしかなさそうですねぇ。」
「ええ。そうですね。」
隆とマリアは小部屋の中で頷いた。

翌日に隆とマリアが向かったのはトイレだった。隆は男子トイレをマリアは女子トイレを調べた。
「特に不審な点はありませんねぇ。」
「こっちもです。」
どうやら収穫は無いようだった。
「そういえばそちらは窓は開いていましたか?」
隆が突然マリアにそう質問すると
「開いてませんね。」
「妙ですねぇ。男子トイレの窓は開いていました。」
「どういうことです?」
マリアがそう尋ねると
「窓の下は芝生になっています。もしかすると着替えは窓から落として回収したのかもしれませんねぇ。」
と隆が言った。
「ちょっと待ってください。隆さんのその推理だと犯人はこの廊下をわざわざ犯行現場に選んだってことですよね。こんなリスクのあることできますかね?」
とマリアが異論を唱える。
「ええ。僕もそこが気になっていました。こう考えてみてはどうでしょう。犯人は何らかの事情で廊下で城嶋先生を殺害するしかなかった。なので犯人は犯行を目撃されないように最大限の努力をしたのではないでしょうか。」
「最大限の努力って?」
「放送です。昼の放送ではクラシックなどの穏やかな音楽が主に流れていました。しかし、あの日に限って有名な人気曲が放送された。犯人が犯行をばれないようにするために仕組んだとしか思えません。」
「なるほど。」
隆の仮説にマリアは納得した。
「だとすると犯人は放送委員ですかね。」
マリアがそう言うと隆は
「当たってみましょうか。」
と言った。

その日の午後、放送委員会が行われた。隆はマリアの放送委員の友達に紛れ込んでいた。
放送委員担当の教師、八坂昇は委員会が始まるや否や怒声を挙げた。
「おい!水島!昨日の放送、あれどういうことだ!」
叱責を受けたのは水島瑞樹という中学1年の女だった。
「昼の放送は聞く人たちに楽しんでもろう為に安らかなクラシックにしろって言ってるだろ!」
矢坂の叱責に瑞樹はただうなだれているのみだった。
「もういい。始めてくれ。」
八坂はそう言って椅子に座ると放送委員長が気まずそうに
「放送委員会を始めます。」
と言った。放送委員会は八坂の叱責から始まった。

「しかし、随分お怒りでしたね。八坂先生。」
マリアは山田の家に戻るとそう言った。
「ええ。あの人気曲を流したのは水島瑞樹さんの独断の判断だったということでしょうかねぇ。」
隆はサイダーの蓋を開けた。
「そうなると犯人は、水島瑞樹。」
「動機を探る必要がありそうですねぇ。」
隆はそう言ってサイダーを飲み始めた。
その時、電話が鳴った。
「もしもし。久野です。」
「沼田です。耳寄りな情報を与えましょう。」
電話を掛けてきたのは沼田だった。
「はい?」
「城嶋の着信履歴を送信します。」
「どうもありがとう。」
沼田から城嶋の着信履歴が送られてきた。
「最初からメールで送ればいいのに。」
マリアがそう言うと
「全くです。」
と隆は返して沼田から送られてきたメールを見た。マリアもそれを覗き込んだ。
「ほかの教師への電話が主ですねぇ。業務連絡でしょうか。最後の電話は田中敏行となっていますねぇ。」
「誰ですか?」
「君、知りませんか?学校の事務員として今年学校にやって来た方ですよ。」
隆がそう言うとマリアは少し思案して
「ああ、あの人ですね。」
「メールに書いてありますがどうやら田中さんは現在取り調べを受けているようですねぇ。」

愛知県警では北野と沢村が田中を任意で引っ張って事情聴取をしていた。
「殺された城嶋の通話履歴にあんたの名前があった。城嶋から発信しているな。時間は死亡推定時刻のぴったりだ。」
「ええ。確かに着信がありました。」
「何を話したんだ?」
田中の正面に座った北野は田中を睨みながらそう言った。
「何も話してません。」
「あ?」
北野がヤクザのような反応をした。沢村も追及する。
「どういう意味だ。」
「事務室で弁当を食べているときに急に着信がありました。何だろうなと思って出ましたけど何も言わずに電話を切られたんです。だから私は何も知りません。」
田中があまり北野に睨まれているので動揺しながらもそう言った。
「嘘つけ!今更そんな言い訳が通用すると思うなよ!」
「本当なんです!通話時間を調べられませんか?そうすればわかるはずです!」
確かに通話時間は10秒も無かった。
「はあ。」
田中は白なのか?自信満々に連行した北野だったがここで疑問が生じ1つため息をついた。

「我々は別の角度から事件を調べてみましょう。」
隆はマリアの人脈を頼りに水島瑞樹の自宅を訪れていた。
「しかしなんで瑞樹ちゃんを調べようとなさるんです?」
「君も以前言っていたではありませんか。放送委員が犯人だろうと。一番怪しいのは瑞樹さんです。」
「ああ、そうでしたね。」
「しかし彼女が犯人だというのは少し考えにくいです。城嶋先生は大の大人です。中学生の女子が一人で殺害するにはかなり骨が折れますよ。」
隆はそう言うと少し頬を緩めて
「しかし君の人脈は侮れませんねぇ。」
と言った。
「いや、まあ、それはどうも。」

瑞樹の自宅は守山区の住宅街にあった。閑静な住宅街に紛れ込んだその一軒家は意識しなければ通り過ぎそうになるほど、あまり目立った家ではなかった。
隆はインターホンを鳴らした。
「あなた達は。放送委員の時にいた。」
ドアを開けた瑞樹は少し疲れたような顔をしていたがそれよりも隆とマリアが来ていることに驚いているようだった。
「ええ。久野隆と申します。」
「加納マリアです。」
2人は自己紹介をすると隆が口火を切った。
「実は少し話を伺いたいと思いましてね。」
「はあ。」
瑞樹は小さく頷いた。

家の中には親がおり聞きにくいため瑞樹を近くの公園に誘った隆とマリアは話を聞いていた。
「昨日の昼の放送なんですがなぜ人気曲を流そうとなさったんです?そんなことをすれば八坂先生がお怒りになるのは火を見るよりも明らかではないですか?」
マリアがそう尋ねると
「自分が浅はかだったんです。」
と瑞樹は答えた。マリアが畳みかける。
「その放送中に城嶋先生が殺害されたのはご存知ですよね?あなたは何らかの理由で城嶋先生に恨みを抱いた、そして廊下で殺害に及んだのではありませんか?」
「何を言うんですか。私は放送室にいたんですよ?」
「曲を流している間は移動可能です。どうなんですか?」
マリアにそう尋ねられると
「じゃあ動機は何ですか?私は城嶋先生にはお世話になっていましたから。」
と瑞樹は答えた。そこまで瑞樹とマリアに背を向けていた隆が振り返り瑞樹に尋ねる。
「おや、お世話になっていたというのは具体的にどのような世話でしょうか?」
すると瑞樹は少し黙ってやがて意を決したように
「盗撮を報告したんです。城嶋先生に。」
「はい?」
「女子更衣室にカメラが仕掛けられていたんです。それを城嶋先生に報告しました。そしたら【解決するから安心して】と言ってくれたんです。」
「なるほど。それはいつのことですか?」
「つい2週間ぐらい前です。」
隆は小さく頷くとマリアに
「お暇しましょうか。」
と耳打ちをしてその場を立ち去った。

翌日、学校で隆とマリアは他の放送委員を訪ねた。
「水島瑞樹さんと言う放送委員はご存知ですか?」
「ええ。もちろん知ってますけど。」
「彼女。昨日八坂先生にかなり叱られていましたねぇ。見る限り瑞樹さんはよく八坂先生に怒られているように見えました。」
「ええ。良く怒られてましたよ。だけどほとんど難癖でしたけどね。八坂先生が瑞樹ちゃんに因縁づけて叱っているようにか思えませんでしたけどね。2週間ぐらい前だったかなそれくらいからそんな風に怒るようになって。」
「因縁、ですか。」
隆は納得したように頷くとその場を立ち去った。

山田の家に戻った隆とマリアは推理をしていた。
「少し事件が見えてきました。」
「どういうことです?」
「まず事の発端は瑞樹さんが盗撮のカメラを見つけたことからです。瑞樹さんはその事を城嶋先生に報告しました。そして城嶋先生は独自に調べたのでしょうねぇ。そして八坂先生が盗撮犯だと分かった。」
「なんで盗撮犯が八坂先生だと思うんです?」
「おや、君、気が付きませんでしたか?瑞樹さんが盗撮に気が付いた同じころに八坂先生から瑞樹さんへの風当たりが強くなっています。」
マリアは納得したように
「なるほど。」
と頷いた。隆が続ける。
「つまり、城嶋先生は八坂先生が盗撮犯だと気づいたのでしょうねぇ。それで八坂先生は盗撮に気が付いたのが瑞樹さんだということを突き止めて風当たりを強くした。瑞樹さんを黙らせることはできても城嶋先生を黙らせることはできなかった。それでいったん廊下に呼び出された八坂先生は城嶋先生を殺した。」
「だとすると昼の放送を流したのは瑞樹さんの独断ではなく。」
マリアのセリフの先を隆が言った。
「八坂先生に指示されたということでしょうねぇ。あの性格です。従わざるを得なかったのでしょうねぇ。」
「じゃあ前の放送委員会のやり取りは何なんです?」
「恐らく昼の放送を流したのは瑞樹さんの独断だと周知徹底させるためでしょう。」
隆はそこまで言うと部屋を出て行った。マリアも後に続いた。

「今度は何ですか?」
瑞樹がそう言うと
「事件当日の放送は八坂先生に指示されてやったことではありませんか?」
「は?」
「そしてその間に八坂先生は城嶋先生を殺した。」
瑞樹は黙った。
「八坂先生の呪縛から逃れるなら今しかありません。すべて本当のことを話していただけますね?」
隆は静かに瑞樹を睨んだ。
「事件当日、私は昼の放送で若い世代に熱狂的な人気のある音楽を流してくれと頼まれました。理由を尋ねましたが答えていただけませんでした。そしてその後、曲を流したのは私の独断だということにしてくれと頼まれたんです。だけど冷静に考えれば八坂先生が犯人だと思います。私が知っているのはこれがすべてです。」
瑞樹は唇を噛み締めながらそういった。
「そうですか。ありがとうございました。」
隆は礼を述べるとその場を立ち去った。マリアもその後に続いた。

瑞樹から証言を得た隆とマリアは山田の家に戻った。
「これで犯人は八坂先生で決まりですね。」
マリアがそう言うと隆は苦言を呈した。
「しかし、証拠がありません。」
「確かに証拠がありませんね。」
マリアが頷く。
「そういえば現場には足跡が残っていましたねぇ。沼田さんが言ってました。」
「そうでしたっけ?」
「ええ。犯人の足跡と思われますがそれが証拠になるかもしれませんねぇ。」
隆はサイダーを飲むと少し嫌な予感を抱えつつ部屋を出た。

「八坂先生。少しよろしいですか?」
八坂にマリアが声をかけた。
「なんだ?どうした?」
「実は盗撮の件でお話がありまして。」
隆の盗撮と言う言葉が出た瞬間に八坂の顔が曇ったのが分かった。
「なんのことだ?」
「あなたは女子更衣室を盗撮していましたねぇ。瑞樹さんによってそれが発覚して城嶋先生が調べ始めた。それで犯人があなただと分かった。城嶋先生はあなたを追求しようとしてあなたに殺害された。それが我々の考えた筋書きです。」
隆が推論を披露すると
「そんなことはない!確かに盗撮は認めよう。だけど人は殺してない!着替えなんて持ってきてなかった!」
マリアがすかさず
「着替え?なんのことですか?」
八坂は自らの手で墓穴を掘ったことに気づいた。
「おや、犯人は着替えたのですか?そんなことは一切報道されていませんが。もしあなたが犯人でないとするならばあなたの車を調べさせてもらえますか?」
隆のその言葉に八坂は驚いた顔をした。
「く、車?」
「ええ。車です。現場には一人の血痕のついた足跡が残っていました。さすがに靴のことまで考えていなかったのでしょうねぇ。その靴のまま一日を過ごしたとなれば車に血痕が付いているはずです。もちろん綺麗にふき取ったあるいは靴を洗い流したという可能性はありますが科学捜査はそこまで甘くありません。どんなに微量な血痕にも反応する試薬があるのですよ。」
隆が最後のとどめとしてそう言った。いつもならこれで犯人は大体観念するのだが八坂はそうではなかった。
「ふっ。大したものだ。君たち中学生なのにそんな事調べてどういうつもりだ?」
「個人的興味。と言ったところでしょうか。」
「ふざけるなっ!私は君たちの個人的興味に付き合わされている暇はない!」
八坂が声を荒げた。
「僕は真実に興味があるだけです。」
「ふん。車とかなんでも調べればいい。すぐに自らの過ちに気が付くだろうよ。」
八坂はそう言うと隆とマリアを車まで案内した。
「沼田さん。」
隆が呼んでおいた沼田によって車の中が調べられた。その結果は・・・
「特に血痕の反応は見つかりませんでした。」
思いもよらぬその結果にマリアは慌てた。
「そんなはずはありませんよ。ちゃんと調べたんですか?」
「そんなこと言わないでくださいよ。手塩にかけて反応を探しましたがありませんでした。」
「あ、そうだ。現場には足跡が残ってたんですよね?その足跡と八坂先生の足跡が同じだと証明できないんですか?」
そのマリアの言葉を否定したのは沼田だった。
「見つかった足跡と八坂先生の足はサイズから違いますな。」
「そんな・・・」
マリアが無念そうにそう言うと八坂は高笑いをした。その笑い声はマリアに胸糞悪く響いた。

「どういうことですか?」
そのあと山田の家に戻った隆とマリアは話をしていた。
「八坂先生は犯人ではないということでしょうねぇ。」
「最初の方は動揺してるように見えたのでこれは間違いないなと思ったんですけど。」
「そう言う意味では八坂先生も分かりやすい人物かもしれません。」
隆がそう言った。
「え?」
「動揺していた部分は事実と言うことですよ。」
「ということは着替えや盗撮については事実ってことですか?」
「自ら着替えについて墓穴を掘ったぐらいですからそうだと思いますよ。」
隆はサイダーを飲みながらそう言った。そしてサイダーに蓋をすると部屋から出て行った。
「どこに行くんですか?」
「1つ、確かめたいことがあります。行きましょう。」

2人が向かったのは瑞樹の家だった。
「いい加減にしてください!この前私の知っていることは全てお話したはずです。」
瑞樹は以前と違って怒っているようだった。
「何度も申し訳ありませんね。1つ、確認したいことがありまして。」
隆がそう言うと瑞樹はため息をついて
「なんですか?」
と尋ねた。
「盗撮を発見されたとおっしゃいましたね。カメラは1つでしたか?」
「いいえ。2つです。自分の目の前にあったカメラと棚の奥にあったカメラです。目の前にあるカメラはすぐに気が付きましたけど棚の奥のカメラはまだカメラがあるんじゃないかと思って探したら見つけました。」
「それぞれカメラの機種は違いましたか?」
隆の質問に瑞樹は戸惑った。
「それを聞いて何になるんですか?」
「不躾な質問。ひらにご容赦を」
マリアがそう謝ると
「機種は違ったと思いますよ。」
と瑞樹は言った。
「そうですか。ありがとうございました。」
「もう2度と来ないでくださいね。」
瑞樹がそう言い残して立ち去ろうとすると隆が呼び止めた。
「ああ、最後に1つだけ。」
「はい?」
「盗撮の騒ぎが起きてから会うと気まずくなったりした人物はいますか?」
隆は最後にそう質問した。

「恐らく盗撮犯は八坂先生以外にもう一人います。」
そこからの帰り道に隆はそう言った。
「カメラの機種が違っただけで他の盗撮犯がいると決めつけるのは早計ではありませんか?」
マリアが異議を唱えると隆もそれを肯定した。
「ええ。確かにそうですが瑞樹さん自身が心当たりがあるようですからねぇ。」
「あの人が犯人ってことですか?」
「ええ。犯人はあの方です。」
隆はそう言って早歩きになった。

「犯人はあなたですね?」
隆とマリアは八坂と事務員の田中を呼び出していた。隆は田中を見つめてそう言った。
「何を言うんですか?私がなんで城嶋先生を殺害しなきゃならないんです?」
「なんの犯人かはわかるみたいですね。」
マリアにそう言われた田中は
「犯人と言ったら城嶋先生のことぐらいしかないでしょう。」
と返した。八坂が首を突っ込む。
「田中さんの言う通りだ。我々は殺人など犯していない。」
「おや、我々というのは?」
八坂はまたしても墓穴を掘ってしまった。
「そう、あなた方は協力関係だったのです。」
「協力関係?」
田中が素っ頓狂な声を上げて驚いて見せた。
「あなた方をつないだのは盗撮と言う点でした。ああ、八坂先生は盗撮については認めていらっしゃいましたねぇ。警察に逮捕してもらっても構いませんよ。警察がよく使う手、別件逮捕。他の容疑で逮捕するものの追及したい罪は他にあるという意味です。そしてそれは殺人の共犯と言う罪です。」
「あれ?俺盗撮なんか認めたっけな?」
八坂はすっとぼけて見せると
「俺、盗撮なんか認めてないよ。」
と隆を睨みながらそう言った。
「そうですか。分かりました。では事件について説明します。事は八坂先生と田中さんが盗撮を始めたことから始まりました。そしてそれに瑞樹さんが気付いてしまった。瑞樹さんはそれを城嶋先生に相談しました。それで城嶋先生が独自に調べてあなた方が犯人だということが判明。自分たちの身を守るためにあなた方は城嶋先生を殺害した。と言ったところでしょうか。」
隆がざっと説明すると田中が
「私は盗撮なんかしたこともありません!盗撮犯呼ばわりは心外です!」
と言った。だがこの言葉は隆によって打ち消された。
「田中さん、あなた、前に勤めていた学校でも盗撮騒ぎを起こしていたみたいですねぇ。証拠がなくおとがめなしと言うことでしたが。」
田中が黙り込むのを見て八坂がフォローするように話に入ってきた。
「ふん、馬鹿馬鹿しい。どうやって殺害したって言うんだよ。」
「八坂先生。あなたが手を下したわけではありません。あなたは犯行の準備に協力したんです。」
「協力?」
「あなたは犯行時に若者に絶大な支持を得ている曲を流せと瑞樹さんに命じました。そして、着替え。田中さんをトイレの個室で着替えさせた後着替えを窓から投げたんです。そして田中さんはそれを回収して車などに入れたのでしょうねぇ。」
隆がそう言うと八坂は
「いい加減にしろ!これ以上濡れ衣をかぶせられるのは不愉快極まりないね!」
と言ったが隆はそれには構わず
「しかし、八坂先生、あなたは田中さんを穏便に裏切りましたね。城嶋先生の携帯から田中さんに電話をかけて田中さんが疑われるように仕向けたんです。自分が疑われないようにするために。まあこれは僕の想像ですので照明の使用はないのですがね。」
と言った。田中が八坂を睨んだ。
「あの無言電話はあんただったのか。」
八坂は黙って下を向いている。
「ふざけるな!あの電話のせいで俺は警察の事情聴取まで受ける羽目になったんだぞ!」
田中は語気を荒くした。
「田中さん。あなたの車を調べさせてもらえますか?あなたの車から城嶋先生の血痕が出れば揺るぐない証拠になりますよ。」
田中は先程の暴言が一変床に崩れ落ちた。
「俺はただ盗撮したいだけだった。なのにあの女カメラに気が付くなんて・・・」
「あなた、相当なろくでなしだな。」
マリアが思わずそう言うと
「うるさいっ!それが俺の生きがいだったんだよ!」
「八坂さん、田中さん。本当のことをすべて話していただけますね?」
「仕方なかったんだ。こうするしか・・・」
八坂はそう言って崩れ落ちた。
「よし、後の話は警察でじっくり聞かせてもらうか。」
物陰に隠れていた北野と沢村が2人を連行していった。
「終わりましたね。」
「ええ。」
隆とマリアは山田の家へと戻った。

「いやあお手柄だったね。八坂先生を逮捕するなんて。」
もはや恒例となりつつあるフレーズを山田は言った。
「八坂先生に何か恨みでもありましたか?」
隆がそう尋ねたがそれに答えたのはマリアだった。
「厳しい先生で有名でしたからね。しかし裏で盗撮をしていたなんて許せませんね。」
「ええ。盗撮を隠すために殺人までも犯してしまう。結局は自らの犯した罪を大きくしてしまっただけです。」
「これは大きなニュースになるだろうな。教師が殺人を犯していただなんて。」
「ええ。盗撮も立派な社会問題になるかもしれませんねぇ。」
隆はサイダーの蓋を開けた。
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