上 下
8 / 10

第8話

しおりを挟む
 そこからの日々はめまぐるしかった。

 ここは妹が預けられた修道院だった。妹は毎日わたしの病室に来ていろいろ話した。いままで話さなかった分を埋めるように。動けるようになると、エドワードに再会した。彼女はシッポをぶんぶん振ってわたしに飛びつこうとしたので、妹がそれを制した。わたしがけが人だからだ。

 お父様は今裁判をしているらしい。孤独で不安じゃないだろうか。どうにか助けられないだろうか。

 そしてやっと婚約破棄の顛末を聞いた。「悪役令嬢が」「ゲームのシナリオが」などという妄言は相変わらず言っていたが、要約するとこうだった。

 学園に入学しても王子との仲は良かったが、ある日、転入生がやってきた。なんの変哲もない子だったが、なぜか周りの男子学生たちは彼女にメロメロになってしまった。転入生は図に乗り、気に入らない学生を取り巻きを使って陰でいじめているようだったため、一度だけ注意したら、王子に泣きつかれ、そこからはあっという間に悪者にされ、彼女のすべての悪事を妹のせいにされてしまったのだという。

「それはひどい」

 わたしは怒りに燃えたが、妹は微笑んだ。

「でも、もういいんですの。こうやって人のために生きることは幸せに思いますわ。それに本当に大切なものは学園でも王子でもございません。あなたです、お姉様。いなくなったと聞いて、ずっと探してましたわ。でも、こうして会えた。もう二度と離しません」

 妹はそう言って泣いて、わたしを抱きしめた。わたしも思わず泣く。森の中、ひとりぼっちで孤独だったとき、どんなに家族に会いたかっただろう。その気持ちが彼女も一緒だったと知って、嬉しかった。そして、言った。

「わたし、逃げてた。お母様が亡くなられてすごく悲しかったけど、お姉ちゃんだからしっかりしなきゃって思って、でもそう思うほどあなたの純粋な目が怖かった。しっかり者のメッキが剥がれるんじゃないかと思って。だから婚約者と過ごすことで紛らわせていたんだわ。本当は、お父様と、あなたともっと話さなきゃいけなかったのに」

「いいえお姉様。謝るのはわたくしのほうですわ。わたくしはいつも自分のことばかり優先して、家族に向き合おうとしませんでした。自分が追放されることばかり心配して、家族も巻き込むなんて考えが及びませんでしたもの。弱さも情けなさも、わかり合うべきでした。本当にごめんなさい」

 わたしたちは泣いて謝り合って、そして最後に情けなくて笑った。久しぶりに心の底から笑った。
しおりを挟む

処理中です...