100万回生きた悪役女王

さくたろう

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彼女は何度も生まれ来る

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 ――どうしてこうなったんだろう。

 人々の目が私に集まる。好奇、驚愕、だけど多くは、憎悪。

 歴史上に名を残すほどの、残虐な女王モニカ。突如として従順な国民は私に対して怒り狂った。憎しみはついに、女王を断頭台に送る。
 
 人々の呪いの言葉が聞こえる。否定はしない。人々を虐殺したのは、結局私の命令だった。

 処刑台の先に、元婚約者のオーウェンとあの憎たらしいイザベラがいた。この二人の前で首を刎ねさせるなんて、神様も趣味が悪い。

 両手と首を断頭台にかけられる。イザベラが私を見つめている。私の婚約者もかすめ取って、女王の座も奪った従姉妹。

 死の淵で、私は見た。あいつの口が、わずかに歪むのを。瞬間、理解する。ああ全部、あいつが仕組んだことだったんだ。

「私を殺すこと、いつか後悔するがいい――!」 

 それが最後の言葉だった。
 私の首は彼方へ飛んだ。

 私は死んだ。


 ◇◆◇


 そんな夢を見て、目が覚めた。きっと寝る前にしていたゲームの影響だ。
 起きたらやはりいつもの白い天井。

 ここは病院で、小学生になる前から今日まで入院を繰り返しているからもはや家のようなものだった。

 友達は看護師さんたちだけ。
 その中の一人に勧められたゲームがその乙女ゲームだった。暇を持て余してやり出したけど、見事にハマって、相当やりこんでいる。
 そして昨日、達成度が達し解放された隠しキャラのオーウェンを攻略した。ライバルキャラは女王モニカ。他のルートで彼女は別の派閥により幼くして殺されているのだが、隠しキャラ攻略ルートでは、史上最悪の女王として君臨し、彼と婚約を結んでいるのだ。

 ヒロインではなくモニカになっている夢を見るなんて、面白いな。
 
 こうやって、小さな楽しみを見つけている。

 残り少ない大切な自分の命を、精一杯楽しませることが、私の生きる意味だった。



 私の寿命が長くないなんてことなんて、とっくに知っていた。胸が苦しくて、両親が泣いて、ああ死ぬんだと思ったとき、神様に願ったのはこんな事だった。

 ――もし生まれ変わるなら、たとえ十年しかいきられなかったとしても、健康な体をください。

 私は死んだ。



 ◇◆◇


「モニカ殿下。お誕生日おめでとうございます!」

 大使が、目の前で恭しくお辞儀をした。

「ありがとうございます、お目にかかれて光栄ですわ、大使」

 私は子供らしくはきはきと、そして王女らしく慎ましくスカートの端を持ち上げてお礼を言った。
 次に彼は言うだろう、なんて素晴らしい王女様だろう、と。

「なんて素晴らしい王女様でしょうか!」ほらね?

 カーテンの隅に黒く光るものが見える。拳銃だ。
 私に向けられている。
 それは間違いなく私の頭を撃ち抜くのだ。

 ――バン。

 ほらね?
 私は死んだ。



 ◇◆◇


 健康な体をくださいと願ったし、確かにたとえ十年しか生きられなくても、とも思った気はする。だけどどうしてそれがこうなるのだろうか。
 
「おぎゃー」

 私は生まれた。

 王女様です。なんとお可愛らしい。神の祝福を。あらん限りの幸福を。あら首がお据わりに。ほら掴まり立ちを。初めて話した言葉はぱぱですわ。なんて愛らしい。頭がよろしくて、きっと天才です。ああ本当にお美しくなられて。もう十歳ですか。時が経つのは早いですね。バン。私は死んだ。

「おぎゃー」

 私は生まれた。

 バン。

 私は死んだ。

 この繰り返し。何度も何度もおぎゃーバン。
 いつもこうだから、途中で数えるのをやめてしまった。

 数回生き延びようと試みたけど、殺されなくても事故で死ぬだけだった。馬に蹴られたり、高いところからい落ちたり。結局、拳銃で撃たれるのが一番手っ取り早いし痛みすら感じる間もなく済むのだと分かった。

 あのゲームでもモニカはいつも死んでいた。ゲーム開始時点で既に十歳で死んでいるか、隠しキャラルートでも首を刎ねられる。この死の運命は変えられないのだ。


 ◇◆◇


「モニカ殿下。お誕生日おめでとうございます!」

 大使が、目の前で恭しくお辞儀をした。

「ありがとうございます、お目にかかれて光栄ですわ、大使」

 私は子供らしくはきはきと、そして王女らしく慎ましくスカートの端を持ち上げてお礼を言った。
 次に彼は言うだろう、なんて素晴らしい王女様だろう、と。

「なんて素晴らしい王女様でしょうか!」ほらね?

 カーテンの隅に黒く光るものが見える。拳銃だ。
 私に向けられている。
 それは間違いなく私の頭を撃ち抜くのだ。

 バン。周囲の悲鳴。
 私は――死なない。

「くせ者だ! 王女を狙っていた!」

 嘘! 生きてる! どうして! 

 驚いて辺りを見渡した。
 もしかして、運命というものが変わったんだろうか。しかし素直に喜んでいいものか。

 確かに銃声はした。一体誰が誰を撃ったのか。それはすぐに分かった。

「お怪我はありませんか? モニカ殿下」

 まだ白煙を上げる拳銃を持ったまま私に笑いかけたのは、彼だ。オーウェン・メフィリア公子、二十歳。彼がくせ者を殺したらしい。
 私に近づき跪くと手を取りそっとキスをした。

「我が国の太陽に祝福を――。お誕生日おめでとうございます、モニカ王女様」

 人を殺したのに平然としているのだから、ただ者ではない。憎たらしいほど爽やかな笑顔が放たれる。

 彼のことは知っている。だってゲームでモニカの婚約者になっていた人なんだもの。
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