断頭台のロクサーナ

さくたろう

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最終章 奇跡の世界でわたしは生きる

逃げようとあがく蝙蝠を、赤毛の騎士は追い詰める

 ルーカスにも、未だ鮮烈に脳裏に焼き付いている映像がある。女王ロクサーナの首を切り、喜びに沸く群衆の姿。それは単なる夢と片づけるには、あまりにもリアルな光景だった。

 レットの指が、ピクリと動く。ルーカスは言う。 

「だから、どんなことをすればどう世界が動いていくか、知っていたんだ。別の世界のあんたは、国を導くためにそうしたけど、この世界のあんたは、国を滅ぼすためにそうした。人は押さえつければつけるほどに反発する、それを逆手にとったんだ」

「あり得ない。現実主義者の君が、そんなことを口にするなんて驚きだ」

「ロキシーから、別の世界の話を聞いたんだろ。ブラットレイの屋敷に泊った時に」

「彼女は君には何でも話すんだな」

「はぐらかすな」 

「聞いたとして、そんな話を信じるか? 常識的に無理がある」

 反論は徐々に具体性を欠いていく。ルーカスは追及をやめない。

「それに、ロイ・スタンリーの件がある。どうしてモニカに、彼の遺体が葬られたと嘘の報告をしたんだ?
 確かにロイ・スタンリーはクリフ様に匿われ、国へは死んだと報告をしたよ。だがあんたの部下が遺体の処分を見届けるのは不可能だ。だって、遺体なんてなかったんだから」

 なぜ報告の内容を知っているのか、レットは疑問に思ったようだ。視線が再びルーカスに向けられる。

「まだあるぞ。リーチェのことだ。彼女に高地に行くように進言したのはあんたらしいな?」

 ある人に、とはじめリーチェは誤魔化したが、後にレットに言われたのだと告白した。どうやらロキシーに気を使い、黙っていたらしい。

「不穏が広がる王都での出産は危険がある。あの地は金持ちが多いし、治安もよい。いい医者もいるしな。おかしなことではないだろう」

「確かにおかしくはない。でも一番の理由は、地方に追いやられたクリフ様がそこにいるからだった」

 一般に居場所の知られていなかったクリフがどこにいるか、国の中枢にいたレットは当然知っていた。

「いつかリーチェがクリフ様と会えば、ロキシーに会いたいと手紙を出すと踏んだんだろ。ロキシーが行くなら、オレも行く。そこにロイ・スタンリーを送り込めば、きっと暗殺は失敗する。
 そうだ、オレたちがあの地へ旅立ったと知った後で、スタンリーに命じたはずだ。クリフ様はああいうお方だ。スタンリーを殺すはずがない。あんたの罪を告発する、証言者を得ることができる」

「まさか。それほど勝率の低い賭けに出ることはしないさ」

「結果としてうまくいったんだ。全てその通りに運ばなくてもいいと考えていたんだろ。他にも手駒はある。ロイ・スタンリーは潤滑油でしかない」

 ロイの証言により話は素早く終わったが、仮に彼がいなくとも、どの道、女王から主権を取り戻すまで革命の波は止まらない。
 ひたすらにフィン一派の怒りを煽り、貴族すら敵に回したのはレットだった。

 誰によって、その結末に向けて糸が集められたのか。それは、彼以外にいない。

「だが矛盾がある」

 鋭い視線を、レットは隠そうとしない。

「モニカを殺したぞ。私がモニカを操っていたと、すでに暴かれている。生きていたら彼女は、極刑の重罪は免れたはずだ。もし私が善人で、先の先まで読んでいたのであれば、彼女だって生かした」

 ルーカスは押し黙った。その先を言うべきか、迷いがあった。あまりにも人の深部に触れてしまうことになる。だがそれでも、全てを明らかにすることこそが正義だと信じている。

「レット・フォードという人物にとって、死は究極の救いだったんだ。……だって、そうでなければ、あんたの家族は永遠に救われていないことになる。あんたは、モニカも、その手で救ってやったんだろう――?」

 独善的で、普通、理解はできない。生きているのが正常で、死んでいるのが異常だ。だが彼は、まるで逆の価値観を持っていた。
 その死が、モニカの救いになったと今も信じている。なぜなら彼にとって自分の死が救いになるからだ。

「……月日が経つのは、なんと早いんだろうな。君と初めてあった時、体の小さな少年だったのに、本当に立派になった」

 懐かしむように目を細めるレットに、ルーカスも思い出した。初め、彼が憎かった。だけど彼の人となりを知るにつれ、憧れた。強烈に。
 レットは、わずかに微笑んだ。
 
「そう……。君の言った通りだ。ロキシーを、愛していた。いや今もなお、愛している」

 ようやく、彼はそう認めた。
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