6 / 8
第6話 そんな展開、ありなのかしら
しおりを挟む
パァン!
と乾いた音が響き渡り、私は顔に熱を感じると共に地面に尻餅をついた。
なんてことはない。レイアに平手打ちされたのだ。
遅れて痛みがやってきた。ほほがひりひりする。ぶたれたのは生まれて初めてで、びっくりして動けなかった。
転んだ拍子に足首を捻ったみたいでそれも痛い。結局お姉様とハリルは両思いだったし、私がしたことが徒労に終わった上に、この仕打ち。心が虚しくなった。
レイアは鬼の形相をしている。
「このー! ぶす! あんたさえいなければ、このハリルはもう少しで婚約破棄して私に落ちるはずだったのに!」
「いや、お姉様にぞっこんのハリルさんにそれは無理じゃない?」
思わず言ってしまった。
だって、やや歪んでるけど真実の愛っぽいもの。
でも怒り狂ったレイアはまた私の胸ぐらを掴んで揺さぶる。
「笑っちゃうわ! あんたみたいのが貴族の娘? ミシェルは確かに美人と言えば美人だけどあんたはまるで醜いわね! あんたのせいで台無しよ、このでぶす!」
そしてまたレイアの平手打ちが飛んできそうになった。でも、
「その辺りで止めておけ」
止めに入ったのは、どこかに隠れていたクロだ。クロはレイアの手を掴んでる。レイアが振り解こうとしてるけどびくともしない。
クロはすごい怖い顔をしていた。それでもレイアの怒りは収まらない。
「離しなさい! このぶすにお仕置きをしなければならないのよ!」
「ぶす? ぶすだって? 言っとくけどマグリナの魅力が分からないなんて君は愚かだ。この場にぶすは一人だけ、それは君だよレイア嬢。鏡が家にないのか?」
「な、なによ! このちびは本当にでぶじゃないの!」
「うるさいな!」
クロが大声を出した。
「マグリナを馬鹿にしていいのはこのオレだけだ! お前にはその資格がない、この性格ぶす!」
「なによレディに向かって! 性格ぶすはそっちじゃないの!」
「ぶす!」
「ぶーーーす!」
なんと醜い言い争いだろう。性格に関して言えば、どっこいどっこいに思える。
レイアの手から逃れた私はお姉様に抱き留められる。お姉様はおろおろとしていた。
「やめろ!」
二人を止めにはいったのはハリルだった。レイアは勝ち誇ったような顔になる。
「ふふん、わたしの事を好きな男が今からあんたをぶちのめすわ!」
でも、ぶちのめされたのはクロじゃなかった。
「やめるんだレイアちゃん!」
レイアは驚いた顔になる。まさか自分が怒られるとは思っていなかったようだ。ハリルは、というと顔面蒼白だった。
「無礼は君の方だぞ!! この方は……、なぜここにいるのかは分からないが、この方は、隣国のクロフォード殿下だ!! 次期王だぞ!」
「な、なんですってーー!!」
叫んだのは私だった。そしてお姉様も。
クロが、隣国の王子? この、クロが?
クロの頭のてっぺんからつま先まで見る。
確かに綺麗な顔はしているし、尊大な態度をとることはあるけど。いつもはその辺にいそうな青年だ。
当の本人は涼しい顔をしてハリルに笑いかけた。
「ハリル、久しぶり」
「え、ええ。驚きました、あなたがここにいるなんて」
ハリルとクロは顔見知りのよう。ああ、正体がばれたくなかったからずっと隠れていたのね。なるほど。
でも、ええ? 信じられない。
我が儘で俺様なクロが、いずれ一国の王様になるって? そしたら国の破滅じゃないの?
あ、そういえば実家が金持ちって言ってたっけ。親父って王様のこと?
そんな展開、ありなのかしら?
私とお姉様は顔を見合わせた。お互い、全然知らなかった。
レイアは即座に笑顔を作り、腕をクロに絡めた。
「なんだあ。王子様だったのね? そしたら許してあげるわ。ねえ、今日の夜空いてる?」
レイア、すごい。タフな女だ。
そんなレイアをクロはウジ虫をみるような表情で見つめた後、体を抱えて、そのまま池に放り込んだ。
「池の水でその魂も洗ってもらえ!!」
クロの叫びとレイアの悲鳴が池に響き渡った。
こうして、お姉様が婚約破棄されないように奮闘した私の物語は終わったのである。
はあ。真実の愛ってなんなんだろう?
ハリルは歪んでるけど、お姉様が幸せっぽいからいいのかしら。お姉様を見ると真っ赤な顔してハリルと微笑み合っていたからまあいいということにした。
でも、この話はもう少しだけつづくのだ。
ここからは私とクロの物語。
と乾いた音が響き渡り、私は顔に熱を感じると共に地面に尻餅をついた。
なんてことはない。レイアに平手打ちされたのだ。
遅れて痛みがやってきた。ほほがひりひりする。ぶたれたのは生まれて初めてで、びっくりして動けなかった。
転んだ拍子に足首を捻ったみたいでそれも痛い。結局お姉様とハリルは両思いだったし、私がしたことが徒労に終わった上に、この仕打ち。心が虚しくなった。
レイアは鬼の形相をしている。
「このー! ぶす! あんたさえいなければ、このハリルはもう少しで婚約破棄して私に落ちるはずだったのに!」
「いや、お姉様にぞっこんのハリルさんにそれは無理じゃない?」
思わず言ってしまった。
だって、やや歪んでるけど真実の愛っぽいもの。
でも怒り狂ったレイアはまた私の胸ぐらを掴んで揺さぶる。
「笑っちゃうわ! あんたみたいのが貴族の娘? ミシェルは確かに美人と言えば美人だけどあんたはまるで醜いわね! あんたのせいで台無しよ、このでぶす!」
そしてまたレイアの平手打ちが飛んできそうになった。でも、
「その辺りで止めておけ」
止めに入ったのは、どこかに隠れていたクロだ。クロはレイアの手を掴んでる。レイアが振り解こうとしてるけどびくともしない。
クロはすごい怖い顔をしていた。それでもレイアの怒りは収まらない。
「離しなさい! このぶすにお仕置きをしなければならないのよ!」
「ぶす? ぶすだって? 言っとくけどマグリナの魅力が分からないなんて君は愚かだ。この場にぶすは一人だけ、それは君だよレイア嬢。鏡が家にないのか?」
「な、なによ! このちびは本当にでぶじゃないの!」
「うるさいな!」
クロが大声を出した。
「マグリナを馬鹿にしていいのはこのオレだけだ! お前にはその資格がない、この性格ぶす!」
「なによレディに向かって! 性格ぶすはそっちじゃないの!」
「ぶす!」
「ぶーーーす!」
なんと醜い言い争いだろう。性格に関して言えば、どっこいどっこいに思える。
レイアの手から逃れた私はお姉様に抱き留められる。お姉様はおろおろとしていた。
「やめろ!」
二人を止めにはいったのはハリルだった。レイアは勝ち誇ったような顔になる。
「ふふん、わたしの事を好きな男が今からあんたをぶちのめすわ!」
でも、ぶちのめされたのはクロじゃなかった。
「やめるんだレイアちゃん!」
レイアは驚いた顔になる。まさか自分が怒られるとは思っていなかったようだ。ハリルは、というと顔面蒼白だった。
「無礼は君の方だぞ!! この方は……、なぜここにいるのかは分からないが、この方は、隣国のクロフォード殿下だ!! 次期王だぞ!」
「な、なんですってーー!!」
叫んだのは私だった。そしてお姉様も。
クロが、隣国の王子? この、クロが?
クロの頭のてっぺんからつま先まで見る。
確かに綺麗な顔はしているし、尊大な態度をとることはあるけど。いつもはその辺にいそうな青年だ。
当の本人は涼しい顔をしてハリルに笑いかけた。
「ハリル、久しぶり」
「え、ええ。驚きました、あなたがここにいるなんて」
ハリルとクロは顔見知りのよう。ああ、正体がばれたくなかったからずっと隠れていたのね。なるほど。
でも、ええ? 信じられない。
我が儘で俺様なクロが、いずれ一国の王様になるって? そしたら国の破滅じゃないの?
あ、そういえば実家が金持ちって言ってたっけ。親父って王様のこと?
そんな展開、ありなのかしら?
私とお姉様は顔を見合わせた。お互い、全然知らなかった。
レイアは即座に笑顔を作り、腕をクロに絡めた。
「なんだあ。王子様だったのね? そしたら許してあげるわ。ねえ、今日の夜空いてる?」
レイア、すごい。タフな女だ。
そんなレイアをクロはウジ虫をみるような表情で見つめた後、体を抱えて、そのまま池に放り込んだ。
「池の水でその魂も洗ってもらえ!!」
クロの叫びとレイアの悲鳴が池に響き渡った。
こうして、お姉様が婚約破棄されないように奮闘した私の物語は終わったのである。
はあ。真実の愛ってなんなんだろう?
ハリルは歪んでるけど、お姉様が幸せっぽいからいいのかしら。お姉様を見ると真っ赤な顔してハリルと微笑み合っていたからまあいいということにした。
でも、この話はもう少しだけつづくのだ。
ここからは私とクロの物語。
26
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!
白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。
婚約者ではないのに、です。
それに、いじめた記憶も一切ありません。
私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。
第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。
カクヨムにも掲載しております。
失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます
天宮有
恋愛
水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。
それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。
私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。
それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。
家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。
お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。
私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。
だってお顔がとてもよろしいので
喜楽直人
恋愛
領地に銀山が発見されたことで叙爵されたラートン男爵家に、ハーバー伯爵家から強引な婿入りの話がきたのは爵位を得てすぐ、半年ほど前のことだった。
しかし、その婚約は次男であったユリウスには不本意なものであったようで、婚約者であるセリーンをまったく顧みることはなかった。
ついには、他の令嬢との間に子供ができたとセリーンは告げられてしまう。
それでもついセリーンは思ってしまうのだ。
「あぁ、私の婚約者は、どんな下種顔をしていてもお顔がいい」と。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる