だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう

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わたくし、皇女の悩みを聞きますわ

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 翌日になって、わたくしは部屋から一人、窓の外を眺めておりました。どうやってウィルと連絡を取ればよいのか、そればかりを考えました。
 部屋の窓ガラスを割ろうと椅子を投げてみましたが、憎たらしいことにびくともしませんでした。
 キースさんの学校へ手紙を送る手も途絶えてしまいました。かくなる上は、信頼できる誰かを買収し、お城の外へ直接手紙を届けていただくしかありません。ですが誰が信頼できるというのでしょうか……。

 知っている人を思い浮かべながら候補者を選んでいると、ふと外に、知った顔が歩いているのを見かけました。
 なんと、皇女アリエッタ様ではありませんか。

 侍女も付けず、お一人でいらっしゃいます。
 遠目からも、彼女の表情が分かりました。憂いを帯びた、浮かない顔です。アリエッタ様といえば恋多きお方ですが、恋をされている間はとても一途でいらっしゃる方でした。そうして恋をしている間は、そのことしか考えられない方でもありました。

 これはユーシス様との間に何かあったのですわ……! 事件の匂いがいたしました。
 ピンときたわたくしは、さっそく彼女のところへと向かいました。

 外は晴れておりましたが、やはりアリエッタ様の顔は曇っておりました。
 お兄様がわたくしに付けている見張りに距離を置くように言いつけた後で、彼女にゆっくりと近づきます。彼女の様子を遠巻きに見守っていた侍女たちがわたくしに気づきましたが、止めることもありませんでした。

 アリエッタ様は足音に気づき顔を輝かせた後、わたくしを見てすぐに元の暗い表情に戻り大きなため息を一つ吐きました。まるで目当ての人ではなかったかのように。
 わたくしは爽やかに話しかけました。

「ごきげんようアリエッタ様、よい日ですね」

「メイベル、一体なんの御用?」

 歩き始めたアリエッタ様に歩調を合わせながら、話しかけます。

「お姿が見えましたので、ご一緒に散歩でもいかがかと思ったのですわ。お城のお庭をご案内いたしますわ」

「案内は不要よ。ユーシス様にしていただいたもの」

「そのユーシス様と、今日はご一緒ではないのですか?」

 問うと、アリエッタ様は愕然とした表情を浮かべ、次には見る間に目が潤んでいきました。
 やはり彼との間で何かあったようです。ユーシス様のご気質からして、そろそろアリエッタ様から別の女性に目が移り始める頃でした。
 
「あら、もしかして喧嘩でもされたのですか? 昨日はあれほど仲睦まじいご様子でしたのに」
 
 知らんぷりして尋ねると、アリエッタ様は突如立ち止まり、目から大粒の涙を流しました。

「いいえ、喧嘩ではないわ……だって、だって、話してもくださらないのだもの……!」 

 それから限界だったかのように、彼女は一気にいいました。

「昨日のパーティだって! ユーシス様の気を引きたくて、ジャスティン様を踊りに誘ったのよ。そうしたら、丁度セレナ様に見られてしまって、あんな騒ぎになってしまって……。
 ユーシス様は不機嫌になってお部屋に戻ってしまうし、わたくしとはそれきり、口も利いてくださらないわ! 当てつけのように、わたくしの侍女の一人を呼び寄せて、ずっと彼女を口説いているのよ!」

 ユーシス様らしい行動でありましたが、熱烈に愛を囁かれた翌日に別の女性を口説かれるのは、慣れていない女性からすると、確かに驚くものだと思います。
 
「わたくし、恋多き人間で、その噂ばかり広がって、結婚相手がいないのよ! ユーシス様は気にしないと言ってくださっていたのに。わたくしは他の女とは違う、真実の愛だって……。ようやく結婚できると思ったのに! わたくし、今年二十七歳になってしまうのよ! 姉様たちのいい笑い者だわ!」 
 
「お相手はいくらでもいますわ。アリエッタ様は美人でいらっしゃいますもの」
 
「メイベル、あなたはまだ若いからそんなことが言えるんだわ!」

 帝国の皇女様となれば、引く手数多でいらっしゃるでしょうに、きっとご自分で選ばれたお相手でないと納得できないご性分なのでしょう。そういった点はわたくしと同じでございました。
 アリエッタ様は、静かに首を横に振ると、小さく唸ります。 

「だけど、そうね……。女遊びは殿方の嗜みだわ。これは恋の神様の試練だと思います。わたくし、耐えてみせるわ」

 果たして、ユーシス様が耐えるお相手に足りるかどうかは別の話ですが、ウィル以外の男性を考えられないわたくしは、口を挟めた立場ではありませんね。
 どの道、注ぎ込まれたグラスの水が、いつか限界を迎えこぼれてしまうように、アリエッタ様の恋の結末は一つしかありません。ではわたくしが水を注ぐのを早めたって、許されるはずでございました。
 だけど、タイミングとしてはもう少し後の方がよろしいでしょう。アリエッタ様には悪いですけれど、あとちょっと、耐えていただくことにいたします。



 その日のうちに部屋に戻り、その手筈を組みました。
 わたくしが持つ財産は皆無に等しいのですが、いくつか宝飾品を持っておりました。殿方や、ユーシス様の婚約者でいた際に皆様からいただいたものでした。
 当時、わたくしの侍女であり、今はレティシアの侍女となった信頼できる令嬢にそのいくつかを渡すと、ウィルへの手紙を届けることを引き受けてくださいました。彼女は友人でもあったので、この部屋に呼ぶことを、お兄様が付けた見張りも咎めることはありません。
 初めから、こうしていれば良かったのですわ。

 ウィルの現状が気がかりでした。
 今、彼は何を思っているのでしょうか。わたくしのことなど、忘れてしまっているのかもしれません。

 だけど彼は、わたくしと体の関係がないと言っていました。それは明らかな嘘でした。
 なぜそんな嘘を吐いたのか――理由は分かりきっていることでした。
 あんな危機が迫る中でさえ彼は、わたくしの未来を案じてくださって、そんな嘘を吐いたのです。きっとそうすれば、わたくしがエドワード様や、他の殿方と結婚できると踏んだのでしょう。
 全てはわたくしのために。
 あの場で彼がわたくしに向かって吐いた暴言こそ。それこそが、愛の証でした。

「わたくしの夫は、あなただけだと言うことを、いい加減に分かっていただかなくては」

 彼を思って、胸がときめきました。
 そうして同時に、愛おしさが溢れました。

 彼を取り戻して、今度こそわたくしの手で幸せにして差し上げるのですわ。何度だって幸福を諦めてしまう彼に、何度だって幸福を与えるのです。幸福を諦めることこそ諦めるべきだと彼が気づくまで、何度だって。
 気持ちが通じ合った、あんなに幸せな日々を、そう簡単に諦めることはできませんでした。
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