22 / 52
邂逅編
第二十一章 エリウ
しおりを挟む
オグマ国のやや西側に人間と龍族の共和国「エリウ」は位置している。エリウの街は黄色い屋根を持つ建物が多い。エウロスの街中では殆んどの龍族が人型をとっている為、見た目はオグマ国と相違ない。エリウの場合人型をとれない龍族が多く存在する為、龍体のままで生活する者も多くいる。人間と龍族の共存を正に絵に描いたような国である。
空には羽を持つ龍が何頭も飛行しながら移動しており、道をゆけば傍を蛇のように這って移動する龍族の姿も見られる。二足歩行の小柄な龍が買い物籠をぶら下げて街中を闊歩している風景は日常茶飯事である。
ベレヌスとエリウの間に山があり、その傍に人里離れた小高い丘があって、そこに一戸大きな屋敷が建っている。それはラスマン家傍系龍族の屋敷であり、そこにアシュリンは連れ去られていた。
「……私、本当に拉致されたのよね? 牢屋に放り込まれるよりマシだけど……」
アシュリンは自分の今居る部屋の戸に手を掛けてノブをそっと動かしてみたが、言うまでもなく戸はびくともしなかった。
月白珠はアシュリンの胸元にぶら下がったままで、取り上げられることはなかった。手枷足枷といった拘束具も特にない。身動きはとれるが戸に鍵が掛かっている為、部屋から出られない。客室にしてはやや広い部屋である。暖炉からパチパチと薪が割れる音が響いている。
食事は普通に出るし、寝台、机、燭台もある。逃亡防止の施錠がしてある為か窓は開かないが換気はされている為、息苦しさは特にない。用がある場合は呼び鈴を鳴らせば使用人が来てくれる。部屋から出られないこと以外特に不自由さは感じられなかった。寧ろ居心地は不思議な位良い方だ。監視はいるようだが、こちらが逃げ出す素振りを出さなければ特に何もなさそうである。待遇が良すぎて却って薄気味悪い。
アシュリンはこの部屋に連れて来られた昨日のことを思い出していた。
⚔ ⚔ ⚔
ヒュドラはエリウのラスマン家傍系龍族の屋敷に辿り着くと、ホールにドサリと音を立てて着地した。触手を解き、アシュリンを下に降ろす。そして、自分の主人に一礼すると静かに下がっていった。
アシュリンの目の前に、一人の青年が立っている。
黒装束を身に纏い、輝く銀色の髪、切れ長の目で瞳は灰白色。ブラックホールのように吸い込まれそうな美貌の青年だ。
「……貴方は……誰!? 此処は何処なの!? 」
アシュリンは身構える。
「私はエレボス・ラスマン。ラスマン家主家の者だ。此処は龍族と人間の共和国・エリウにあるラスマン家傍系龍族の屋敷だ。――ああ、そうか。エウロス上空での時私は龍体だったから、人型では初見だったな。失礼した」
エレボスは表情のない硬質な声で答える。
「私を此処に連れて来て、一体どうするつもり?」
アシュリンはエレボスを睨みつける。
「……そう睨むな。誰も貴殿をとって食うと言ってはおるまい。まぁ、でもそうとられても致し方ないか。いきなり手荒なまねをしてすまなかった。私も父の命に従って動いているものでな」
「貴方のお父様って、そんなに厳しい方なの?」
「ああ。父の命は絶対だからな。父は昔から人間をずっと憎んでいる。しかし何故か貴殿には興味があるようだ。父から貴殿を連れて来るように命が出たから、私はその命に従っただけのこと。ずっと此処に居るわけにはいかぬ故、貴殿を今から部屋に連れて行く。部屋の周りには監視の目があちこちある。逃げ出そうと思っても無駄だ。大人しくしていれば害を加えん」
「……それ本当……?」
アシュリンは眉を顰めた。
「……信じる信じないは貴殿の勝手だ。私の後について来るが良い」
エレボスはアシュリンを伴い屋敷の中に入っていった。
⚔ ⚔ ⚔
「……本当にこの部屋、逃げ出さなくさせる工夫でもしてあるのかしら? ……却って怖い……」
寝台に腰掛けたアシュリンは背中に妙な寒気を感じて身震いする。ガウリア家の建物内から強引に連れて来られた為、アシュリンは外套を持たなかったのだ。このままだと少し寒い。何か羽織るものはないかとクローゼットらしい棚を開けてみると、中に黒い外套が丁度一着入っているのを見つけた。サイズは丁度良い為拝借し、防寒用に羽織ることにした。
連れて来られた当日は疲労も相俟って寝台で死んだように眠ったが、それ以降はこれといってすることがない。
誰かが呼びに来るか、助け出されない限り、この部屋でずっと過ごさないといけない。
何も出来ない、何もすることがない……となると、考え事しかすることがなくなる。
「……サム……」
サミュエルのことを想うと胸が苦しくなる。自分を守ろうと奮闘して負傷したハンナ達のことも心配だ。そして、今迄当たり前のように発動していた筈の月白珠が突然発動しなくなった理由が分からない。
――今迄私の意思に反応しないことはなかった月白珠だったけど、一体何故だろう……
胸元の月白珠をひとなでしてみたが、特に何の反応もなかった。誰にも分からない。
ふと目を右前にやると小さな本棚があった。
その本棚には本が何冊かある。勝手に見るのは如何なものかと思ったが、取り敢えず時間つぶしにはなるかとアシュリンは手を出してみた。
調べてみると、ラスマン家の歴史の本が殆どのようだ。これはガウリア家の屋敷にはなかったものだ。歴史を知るのは悪くない。
――そう言えば、ガウリア家とラスマン家には因縁があるとテオドール様がおっしゃられていたわね。何らかの形でサミュエル達の役に立てるかもしれない。
ふと本棚の下に目を落とすと、大きな箱が置いてあった。本棚の幅と同じ位の幅を持ち、龍の模様が描かれている、頑丈そうな箱である。
――箱? 一体何の箱かしら。模様と雰囲気はこの屋敷にあってない気がする。元々所持された箱ではなさそうね。
アシュリンは手にとった本を棚に戻し、箱に手を伸ばしてみた。カチャリと音がして、その箱は案外簡単に開いた。中には右綴じで綴じてある一冊の本が入っていた。外気にさらされていなかった為か変色や損傷はあまりないが、装丁からしてとても古そうな本である。ページを開いてみると、流麗な文字が踊っていた。日付けを見ると、今から四百年以上昔のものだった。
アシュリンは吸い寄せられるかのようにその本のページをめくり始めた。
それは、四百年以上昔に起きた事件の記録だった。
空には羽を持つ龍が何頭も飛行しながら移動しており、道をゆけば傍を蛇のように這って移動する龍族の姿も見られる。二足歩行の小柄な龍が買い物籠をぶら下げて街中を闊歩している風景は日常茶飯事である。
ベレヌスとエリウの間に山があり、その傍に人里離れた小高い丘があって、そこに一戸大きな屋敷が建っている。それはラスマン家傍系龍族の屋敷であり、そこにアシュリンは連れ去られていた。
「……私、本当に拉致されたのよね? 牢屋に放り込まれるよりマシだけど……」
アシュリンは自分の今居る部屋の戸に手を掛けてノブをそっと動かしてみたが、言うまでもなく戸はびくともしなかった。
月白珠はアシュリンの胸元にぶら下がったままで、取り上げられることはなかった。手枷足枷といった拘束具も特にない。身動きはとれるが戸に鍵が掛かっている為、部屋から出られない。客室にしてはやや広い部屋である。暖炉からパチパチと薪が割れる音が響いている。
食事は普通に出るし、寝台、机、燭台もある。逃亡防止の施錠がしてある為か窓は開かないが換気はされている為、息苦しさは特にない。用がある場合は呼び鈴を鳴らせば使用人が来てくれる。部屋から出られないこと以外特に不自由さは感じられなかった。寧ろ居心地は不思議な位良い方だ。監視はいるようだが、こちらが逃げ出す素振りを出さなければ特に何もなさそうである。待遇が良すぎて却って薄気味悪い。
アシュリンはこの部屋に連れて来られた昨日のことを思い出していた。
⚔ ⚔ ⚔
ヒュドラはエリウのラスマン家傍系龍族の屋敷に辿り着くと、ホールにドサリと音を立てて着地した。触手を解き、アシュリンを下に降ろす。そして、自分の主人に一礼すると静かに下がっていった。
アシュリンの目の前に、一人の青年が立っている。
黒装束を身に纏い、輝く銀色の髪、切れ長の目で瞳は灰白色。ブラックホールのように吸い込まれそうな美貌の青年だ。
「……貴方は……誰!? 此処は何処なの!? 」
アシュリンは身構える。
「私はエレボス・ラスマン。ラスマン家主家の者だ。此処は龍族と人間の共和国・エリウにあるラスマン家傍系龍族の屋敷だ。――ああ、そうか。エウロス上空での時私は龍体だったから、人型では初見だったな。失礼した」
エレボスは表情のない硬質な声で答える。
「私を此処に連れて来て、一体どうするつもり?」
アシュリンはエレボスを睨みつける。
「……そう睨むな。誰も貴殿をとって食うと言ってはおるまい。まぁ、でもそうとられても致し方ないか。いきなり手荒なまねをしてすまなかった。私も父の命に従って動いているものでな」
「貴方のお父様って、そんなに厳しい方なの?」
「ああ。父の命は絶対だからな。父は昔から人間をずっと憎んでいる。しかし何故か貴殿には興味があるようだ。父から貴殿を連れて来るように命が出たから、私はその命に従っただけのこと。ずっと此処に居るわけにはいかぬ故、貴殿を今から部屋に連れて行く。部屋の周りには監視の目があちこちある。逃げ出そうと思っても無駄だ。大人しくしていれば害を加えん」
「……それ本当……?」
アシュリンは眉を顰めた。
「……信じる信じないは貴殿の勝手だ。私の後について来るが良い」
エレボスはアシュリンを伴い屋敷の中に入っていった。
⚔ ⚔ ⚔
「……本当にこの部屋、逃げ出さなくさせる工夫でもしてあるのかしら? ……却って怖い……」
寝台に腰掛けたアシュリンは背中に妙な寒気を感じて身震いする。ガウリア家の建物内から強引に連れて来られた為、アシュリンは外套を持たなかったのだ。このままだと少し寒い。何か羽織るものはないかとクローゼットらしい棚を開けてみると、中に黒い外套が丁度一着入っているのを見つけた。サイズは丁度良い為拝借し、防寒用に羽織ることにした。
連れて来られた当日は疲労も相俟って寝台で死んだように眠ったが、それ以降はこれといってすることがない。
誰かが呼びに来るか、助け出されない限り、この部屋でずっと過ごさないといけない。
何も出来ない、何もすることがない……となると、考え事しかすることがなくなる。
「……サム……」
サミュエルのことを想うと胸が苦しくなる。自分を守ろうと奮闘して負傷したハンナ達のことも心配だ。そして、今迄当たり前のように発動していた筈の月白珠が突然発動しなくなった理由が分からない。
――今迄私の意思に反応しないことはなかった月白珠だったけど、一体何故だろう……
胸元の月白珠をひとなでしてみたが、特に何の反応もなかった。誰にも分からない。
ふと目を右前にやると小さな本棚があった。
その本棚には本が何冊かある。勝手に見るのは如何なものかと思ったが、取り敢えず時間つぶしにはなるかとアシュリンは手を出してみた。
調べてみると、ラスマン家の歴史の本が殆どのようだ。これはガウリア家の屋敷にはなかったものだ。歴史を知るのは悪くない。
――そう言えば、ガウリア家とラスマン家には因縁があるとテオドール様がおっしゃられていたわね。何らかの形でサミュエル達の役に立てるかもしれない。
ふと本棚の下に目を落とすと、大きな箱が置いてあった。本棚の幅と同じ位の幅を持ち、龍の模様が描かれている、頑丈そうな箱である。
――箱? 一体何の箱かしら。模様と雰囲気はこの屋敷にあってない気がする。元々所持された箱ではなさそうね。
アシュリンは手にとった本を棚に戻し、箱に手を伸ばしてみた。カチャリと音がして、その箱は案外簡単に開いた。中には右綴じで綴じてある一冊の本が入っていた。外気にさらされていなかった為か変色や損傷はあまりないが、装丁からしてとても古そうな本である。ページを開いてみると、流麗な文字が踊っていた。日付けを見ると、今から四百年以上昔のものだった。
アシュリンは吸い寄せられるかのようにその本のページをめくり始めた。
それは、四百年以上昔に起きた事件の記録だった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる