月龍伝説〜想望は時を越えて〜

蒼河颯人

文字の大きさ
23 / 52
月白珠誕生編(過去編)

第二十二章 幼馴染み(挿し絵あり)

しおりを挟む
 


――それは遠い昔。まだベレヌスが龍王族支配だった頃の物語――

 嘗てベレヌスは一つの大国だった。最高権力を持つ一つの龍王族が統治していた。

 やがてベレヌスは分裂し、複数の龍王族によって支配されるようになってゆく。

 当時人間の国も龍族の国と同様に王族が統治する世で、龍族の国同士、人間と龍族の国同士と互いに争いが絶えなかった。

 酷い時には血生臭い匂いが籠もる年もあった。

 ※ ※ ※

 現在から遡さかのぼること四百年より少し前、龍王族の中でもラウファー家とセヴィニー家が特に最優力を誇っていた時代。この時代は、龍王族支配時代の中でも比較的平和な年が多かった。そして、龍王族支配最後の時代でもあった。

 よく晴れた春の日。草原で、小さな三頭の龍が仲良く遊んでいた。

 白い子龍と黒い子龍が二頭じゃれ合っており、別の黒い子龍がシロツメクサで首飾りを作りながら二頭の子龍達を優しく見守っている。

 ラウファー家のリアム王子とセヴィニー家のアルバート王子、彼の妹のアデル姫である。

 三頭ともお互いに「リア」「アルビー」「アディ」と愛称で呼び合う程懇意にしていた。ラウファー家とセヴィニー家は付き合いも長かった。

「やめろよ。くすぐったいだろうリア! 」

 アルバートは身を捩よじってリアムから逃げようとする。

「擽っているんじゃないよ。アルビー。お前の角に蝶が止まっているから捕まえようとしただけだ。あ~逃げられた! お前が動くから蝶が逃げちゃったじゃないかぁ」

「そういうお前の尾に何かいるぞ! 僕が捕まえてやる」

 アルバートはリアムの月白色の尾を黒い前足の四本の指でつついた。蝶はひらひらと逃げ出した。

「あははは! 擽ったい! アルビー止めてよ! 擽ったくて堪らない! 」

「ほら見ろ、変わらないじゃないか」

 リアムは笑いながらアルバートから逃げようとする。アルバートはリアムを追いかける。にわか鬼ごっこが始まった。

 そこへアデルの一声がかかる。

「ちょっと二人共、そろそろ午睡の時間よ! みんなで寝っ転がろうよ! 」

「アディの言うとおりだ! そろそろみんなで昼寝するか! 」

 三頭とも大の字になって草の上にごろんと寝転がった。大きく深呼吸すると青臭い匂いが身体の隅々にまで行き渡り、清々しい気持ちになる。

 この草原はきちんと管理されており、龍王族以外の者は入れないようになっている。その為、非戦時中であれば子龍達だけで来ても特に外敵はおらず、比較的安全な遊び場とも言える。

 白と黄色の蝶がひらひらと飛び回り、桃色の花の上にそっと止まった。

 風がゆっくりと吹いてきて、蝶が花ごとゆうらりと動いている。

 彼らは草原でただ遊んでいる訳ではない。この草原は土の“気”がほかの土地に比べ抜群に優れている場所の一つである。龍族の子供達はこの草原で遊びつつも体内に“気”を養っているのだ。特に成長期の龍族はこの“気”を積極的に取り込むことが大事とされていて、取り込む力が特に旺盛おうせいなこの時期にしっかり溜め込んだ“気”を元に成長し且つ魔術を使いこなせるようになる為、さぼるとその分実力に差が出る。勿論身体の成長にも“気”は影響する。彼らは遊びながらも同時に修行をしているのだ。

 ラウファー家とセヴィニー家は特に優れた魔術を持つ龍王族家系である為、魔術の種類も幅広い。彼らはいち早く家系特有の魔術を使いこなせるようになる為、ほぼ毎日競うかのように草原に来ている。龍体の方が“気”を溜め込むのに非常に効率が良い。それ故彼らは殆ど人型をとることなく龍体で過ごしている。

「ここのところ、久し振りに平和な日々が続いているな」

「そうだね。こんな日々がもっと続くと良いよね」

 仰向けに転がったリアムの薄桃色の腹の上にアルバートが黒い顎を乗せながら、リアムに話しかける。あかるい灰白色の瞳はキラキラと輝いている。

「僕達これからもずっと一緒にいられると良いな」

「そうだね」

「そうだ! アディがお前と一緒になれば、三人ずっと一緒にいられるんじゃないかな。兄弟になれるし! そうすれば名実ともに家族になれる」

 途端にアデルは頬を真っ赤に染めた。

「……ちょっとやめて兄上!いきなり私の将来を勝手に決めないで頂戴ちょうだい。私は心から好きになった方と一緒になりたいの。自分で決めたい。リアだって自分で決めたい筈よ。そうよね、リア」

 リアムは飴玉のように艶々とした琥珀色の瞳をアデルに優しく向けた。

「……ということはアディ、君にはもう好きな龍が居るのかい?」

「何? いつの間に……? アディ、一体どこの王族の龍だ!? 僕にもきちんと説明して」

 アルバートはやや焦った表情でアデルに尋ねた。

「もう! 二人して私をからかうのをやめて頂戴!」

「あいたたたた! 乱暴はよせやいアディ。ちょっとからかう位、いつものことじゃないか」

「あははははは!」

 アデルはリアムとアルバートの肩をぽかぽか叩いた。二頭とも肩を震わせて笑っている。

 アデルのその仕草も愛らしくてたまらない。

 アデルはアルバートの唯一の妹だ。アルバートはアデルを宝物のように溺愛している。アデルが大人になったら是非とも王国一の婿君と結婚させて、幸せになって欲しいとずっと思っているのだ。

 気候は穏やかで、心地良い風が草木を優しく撫でてゆく。ぽかぽかと暖かい。

 空にはふんわりとした真っ白な雲がゆっくりゆっくり動いている。

 静かで優しい時間が過ぎてゆく。

 ずっとこんな穏やかな日が続くと良いと三頭は願っていた。

  
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

廃城の泣き虫アデリー

今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって… 表紙はフリー素材です

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...