月龍伝説〜想望は時を越えて〜

蒼河颯人

文字の大きさ
30 / 52
月白珠誕生編(過去編)

第二十九章 激化

しおりを挟む
 歴史は繰り返すとよく言ったものだ。
 遠い昔からずっと絶えることのなかった、人間と龍族の戦い。
 領地、食糧……開戦の切っ掛けは様々である。何かと理由やら言い掛かりをつけては戦争まで発展していた。

 生きとし生けるものは何故に争いを止めぬのか。
 何故に共存の道を選べぬのか。
 争いが起こる度憎しみが生まれ、それが一層憎しみを呼び、怒りや悲しみの連鎖を引き起こす。
 ここ数年暫く平和な世が続いたと思われたが、再び戦いの火蓋が切って落とされた。

 ディーワン家を主とする人間と龍族の幾度目かの戦いである。

 今までは一から二ヶ月と案外短期間で決着がつくことが多かったが、今回は四ヶ月を越える長丁場となっている。

 絶え間なく続く鬨の声。
 ぶつかり合う武器の音。
 響き渡る攻撃魔術による炸裂音。
 折り重なる死体。
 鉄の匂いを纏う風。
 戦場は阿鼻叫喚地獄と化していた。

 ※ ※ ※

 二ヶ月前から外出不可のお触れが出ている為、リアム達は自分達の居城から出られない状態が続いた。王から要請が出れば戦場に駆け付けて戦う日々。それでも、三人は互いに“伝達術”を用いて互いの安否を気遣うやり取りをしていた。

 アルバートからは今の戦況と体調の気遣い、アデルからはその後の進捗状況の知らせである。

 アルバートからの知らせによると、アデルは体調が落ち着いた辺りで婚約解消に関して父であるジュード王と討論の末、喧嘩をしたそうだ。自分の意志を曲げない、如何にも頑固なアデルらしい。

「アデルと一体何かあったのか? お前達が不和とはとても思えないのだが」

 アルバートは心配して伝えてきているが、事情を知らぬ彼にはっきりとした返事を返せないリアム。

「彼女なりに事情が色々あるようで、私にも何とも言えないのだ」

 と適当にはぐらかすしか、言い訳を思いつけなかった。胸中は鉛の様に重い。

 リアムは開戦前の時期に何とかして龍族と人間の婚姻を認めてはもらえないかと奔走していた。しかし物事は上手くいく筈も無く、そのまま戦争に突入してしまった。婚約解消の話題を出して以来、父であるダニエル王とは一切口をきけていない状態だ。

 クレアに対し手紙を送るという、一方的にしか連絡がとれなかったリアムだったが、アデルは気を回してくれていたらしい。

 彼女はクレアと連絡をとれるようにしてくれていて、クレアからのメッセージを受け取ったら、リアムにそのまま伝えてくれる。クレアが今のところ生きていることだけは確かだ。

 先方も居城から一歩も出られない状態である挙げ句、常に厳重警護が張り付き、息が詰まりそうな状態だそうだ。今はリアムに会えなくて辛いが、いつかまた会える日を楽しみにして日々を送っていると、クレアの声はアデル経由でリアムの元に届けられた。

 健気なクレアの返事に堪らなく愛おしさを感じるリアム。彼はクレアに対し、いつも通り伝達術を応用した手紙を用いて返事を送った。勿論彼女にしか読めず、彼女が読了した後消える様にしている為、影も形も残らない。

 リアムは特別なことをしている訳ではないが、何処か虚しさを感じていた。

 まだ平和だったあの舞踏会の日。森で偶然クレアと出会い、世界が広がった様に感じられた。しかし、人間と龍族の恋は秘匿すべきと分かっているから表沙汰にはせず、ひたすら隠れるように会うことしか出来なかった。姿、声ですら、周囲に悟られぬ様に常に気を張り続けねばならない。押し込まねばならない鬱屈した想いも、クレアがいつもつけていた薔薇の香水の香りが掻き消してくれた。クレアと会っている時は、どこか窮屈に感じていた日常を忘れる事が出来た。

 ――いつか死を迎える時が来たら、私達の想いもこの手紙の様に跡形も無く消え失せてしまうのだろうか? 生命は脆く儚い。まるで蜃気楼の様だ。

 窓から見える空を眺め、リアムは嘆息をついた。

 ――この手は今まで何人の人間を殺しただろうか。クレアと同じ種族なのに……。

 ――好きになった者が同種族である龍王族であれば、私はこのような思いをしなくて良かったのだろうか? 何故異種族同士では駄目なのだろうか? 考えれば考える程、胸が詰まりそうになる。嗚呼、こんな時こそ姫……貴女に会いたいのに……。

 血の様に燃えるような夕陽が、地平線に向かって静かに消えてゆく。回りから闇のような紺色の幕が息を潜め、静かに降りようとしていた。

 ※ ※ ※

 現在の戦争が始まって半年の月日が流れたある時、事態が急変する出来事が起こった。

「隊長! 怪しい者を捕らえました!」

 ラウファー家の居城に近衛の声が響き渡る。

「何事だ!?」

 近衛隊長の元に一人の近衛が駆け付ける。

「門の近くでふらついていた者を衛兵が捕らえたのです。妙な笑みを浮かべ逃げようともしない、誠に奇妙な奴でして……」

 近衛は近衛隊長にそっと耳打ちした。近衛隊長は表情を変える。

「人間……? しかもあのディーワン家の者だと? 連れて来い」

「それが……! とんでもない虚言を申しておりまする」

「申してみよ」

 近衛は複雑な表情で口をもごもごさせていたが、改めて周囲を見渡し自分達二人以外居ないのを確認後、決意して小声で話し始めた。

「殿下が……リアム殿下がディーワン家の者と内通していると、この者は申しておりまする」 

 近衛隊長は裂けんばかりに大きく目を見開いた。勿論、声は小声である。

「何!? それは何かの間違いでは無いのか? 殿下はここ半年殆んど城から出られてはおらぬぞ」

「詳しくは存じませんが、この者は『ラウファー家のリアム王子こそが内通者。龍王族の裏切り者だ! 』としか言わないのです。何という無礼な奴……危うく即八つ裂きにするところでしたよ」

 近衛隊長は少し考えた後、鼻息の荒い近衛に指示を出した。

「……その者を別の部屋に連れてゆけ。詳細を聞き出さねばならぬ」

 近衛は驚嘆の声を上げた。非難の響きがある。

「隊長!? 隊長は殿下を疑っておられるのですか!? 心外に御座います!」

 近衛隊長は近衛を宥めるように言う。

「静かに。私は物事を公平に見極めたいだけだ。戦時中だからこそ情報収集は必要。何故今なのか? その理由は? 分からぬであろう。ひょっとしたらわなかもしれぬ。それゆえ、ここは騙されたと思って先ずはこの者から話しを聞こうと思っている。見たところ怪しい魔術も持たぬ者の様だ。連れてゆけ」

「はっ! 畏まりました」

 近衛は指示を出しに不審者を捕まえた衛兵の元に向かった。

  
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

廃城の泣き虫アデリー

今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって… 表紙はフリー素材です

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...