8 / 82
第一章 逃亡者
第六話 アルモリカ王国の手記より──侵略
しおりを挟む
嘗て、人間と人魚は平和に暮らしていた時代があった。
人魚族の国、アルモリカ王国──
海の近くにある王国だ。
鮮やかな青い空と紺碧の海。
白壁で青い屋根を持つ建物が特徴だ。
アルモリカ王国は資源の宝庫で、必要な物質の大半を補うことができた。
南国特有の暖かい気候に恵まれていた。
作物も充分に採れ、食糧に不自由することがなかった。
そこに住む人魚達は人の姿もとれる。性格も温和な者が多かった。
彼等は、陸の上で生活する時は二本の足を持つ人間の姿となり、水中では二本の足をひれに変え、自由に泳ぎ回っていた。
朗らかな雰囲気とあふれる笑顔。
みんな楽しい日々を過ごしていた。
あの日が来るまでは……──
⚔ ⚔ ⚔
アルモリカ王国から北の方角にカンペルロ王国がある。
それは人間達が住む王国の一つで、他国と友好的な外交を重んじており、アルモリカ王国も友好条約を結んだ国の一つであった。
その王が急に謎の死を遂げた後、日を待たずして現国王が即位した。
彼は利用すべきものは利用しつくし、甘い蜜を吸い尽くした後は容赦なく投げ捨てた。今まで友好関係を結んでいた国とも、利害が一致する国以外は属国として手中におさめていったのだ。
カンペルロ人とアルモリカの人魚族との間にも、いつの日の頃からか諍いが生じ、その溝は深くなる一方だった。
「人魚は人間と似た外見をしているが、人間にあらず。所詮は獣と同じ。彼等は人に所有されるべきである」
と王からお触書が出た為、カンペルロ人は次第に人魚を虐げるようになったのだ。
愛玩動物や奴隷のように我々を売買し、使役する。
今まで対等だった扱いが、売物同然レベルに落とされてしまった。
たまったものではない。
カンペルロ人に見つかっては命が幾らあっても足りぬと、我々人魚族はやがて人間と接点を持たぬように、且つ、自国から出ないようになった。
距離を置いたならば、友好条約決裂の意ありと、それを大義名分として、カンペルロ王国現王は兵を指揮した。
そして宣戦布告することなく、アルモリカ王国を急襲したのだ。
彼等は我らが王と王妃を殺し、王子を始めとするその他人魚達を無理やり連行していった。民衆の人魚達は奴隷商人へと引き渡され、売られてゆく。アルモリカ王国はあっという間にカンペルロ王国によって侵略されてしまった。
連れ去られた人魚達は両腕に枷をつけられ、罪人のように牢へと繋がれた。たまに招集されたと思いきや、終日凌辱や暴行の限りを受け、無理矢理落涙を促されたのだ。
──人魚の涙は真珠を始め数々の宝石へと変わる──
それをもとでに国内の運営資金とする為、我々は強引に泣かされていたのだ。
悲しみの涙。
怒りの涙。
屈辱の涙。
怨嗟の涙。
我々の涙は床に落ちては瞬時に結晶化し、得も言われぬ輝きを持つ美しい宝石へと姿を変えた。
舌を噛み自殺を図ろうとしても猿ぐつわを噛まされている為死ぬことも出来ず、逃げ出そうにも枷によって行動範囲は限られ、脱出すら出来ない。我々にとって毎日が生き地獄そのものだった。食事も満足に与えられず、牢獄内はうめき声で常に満ち溢れており、生きた心地はしなかった。
人間によって捕らえられた人魚達はまるで荷物のように次々と送られてくる。
そして弱りきった者は一人、また一人と命を落としていった。
死んだ仲間達は集められ、油をとって蝋燭や灯りの原料とされた。彼等の油は低温で燃焼し、一滴でも数日間燃え続けるとも言われている為だ。
──このままだと我が国は本当に殲滅させられてしまう。
十年前に滅亡させられた、某王国の二の舞いは避けたい。
だが、拘束された身ではどうすることも出来ない。
誰か、誰か我らにご加護を……!!
我らは絶望の日々を送っていた。
ただ一人、第一王子だけは別室に幽閉されていた。
王家の血を引く彼の持つ力は強大だ。
幾ら枷をつけられようと、力を完全に封じ込められることはないだろう。
彼さえ無事であれば絶滅を避けられる。
何とかして彼だけでも外へ出せないか。
それだけが、我らの望みだった。
⚔ ⚔ ⚔
──そして後日。
第一王子が人知れず脱出し、牢獄内にその情報が飛び交うと、我らは生きる気力を何とか持ち直すことが出来た。
王子が我々を助けに戻って来て下さる、その日を夢見て……──
人魚族の国、アルモリカ王国──
海の近くにある王国だ。
鮮やかな青い空と紺碧の海。
白壁で青い屋根を持つ建物が特徴だ。
アルモリカ王国は資源の宝庫で、必要な物質の大半を補うことができた。
南国特有の暖かい気候に恵まれていた。
作物も充分に採れ、食糧に不自由することがなかった。
そこに住む人魚達は人の姿もとれる。性格も温和な者が多かった。
彼等は、陸の上で生活する時は二本の足を持つ人間の姿となり、水中では二本の足をひれに変え、自由に泳ぎ回っていた。
朗らかな雰囲気とあふれる笑顔。
みんな楽しい日々を過ごしていた。
あの日が来るまでは……──
⚔ ⚔ ⚔
アルモリカ王国から北の方角にカンペルロ王国がある。
それは人間達が住む王国の一つで、他国と友好的な外交を重んじており、アルモリカ王国も友好条約を結んだ国の一つであった。
その王が急に謎の死を遂げた後、日を待たずして現国王が即位した。
彼は利用すべきものは利用しつくし、甘い蜜を吸い尽くした後は容赦なく投げ捨てた。今まで友好関係を結んでいた国とも、利害が一致する国以外は属国として手中におさめていったのだ。
カンペルロ人とアルモリカの人魚族との間にも、いつの日の頃からか諍いが生じ、その溝は深くなる一方だった。
「人魚は人間と似た外見をしているが、人間にあらず。所詮は獣と同じ。彼等は人に所有されるべきである」
と王からお触書が出た為、カンペルロ人は次第に人魚を虐げるようになったのだ。
愛玩動物や奴隷のように我々を売買し、使役する。
今まで対等だった扱いが、売物同然レベルに落とされてしまった。
たまったものではない。
カンペルロ人に見つかっては命が幾らあっても足りぬと、我々人魚族はやがて人間と接点を持たぬように、且つ、自国から出ないようになった。
距離を置いたならば、友好条約決裂の意ありと、それを大義名分として、カンペルロ王国現王は兵を指揮した。
そして宣戦布告することなく、アルモリカ王国を急襲したのだ。
彼等は我らが王と王妃を殺し、王子を始めとするその他人魚達を無理やり連行していった。民衆の人魚達は奴隷商人へと引き渡され、売られてゆく。アルモリカ王国はあっという間にカンペルロ王国によって侵略されてしまった。
連れ去られた人魚達は両腕に枷をつけられ、罪人のように牢へと繋がれた。たまに招集されたと思いきや、終日凌辱や暴行の限りを受け、無理矢理落涙を促されたのだ。
──人魚の涙は真珠を始め数々の宝石へと変わる──
それをもとでに国内の運営資金とする為、我々は強引に泣かされていたのだ。
悲しみの涙。
怒りの涙。
屈辱の涙。
怨嗟の涙。
我々の涙は床に落ちては瞬時に結晶化し、得も言われぬ輝きを持つ美しい宝石へと姿を変えた。
舌を噛み自殺を図ろうとしても猿ぐつわを噛まされている為死ぬことも出来ず、逃げ出そうにも枷によって行動範囲は限られ、脱出すら出来ない。我々にとって毎日が生き地獄そのものだった。食事も満足に与えられず、牢獄内はうめき声で常に満ち溢れており、生きた心地はしなかった。
人間によって捕らえられた人魚達はまるで荷物のように次々と送られてくる。
そして弱りきった者は一人、また一人と命を落としていった。
死んだ仲間達は集められ、油をとって蝋燭や灯りの原料とされた。彼等の油は低温で燃焼し、一滴でも数日間燃え続けるとも言われている為だ。
──このままだと我が国は本当に殲滅させられてしまう。
十年前に滅亡させられた、某王国の二の舞いは避けたい。
だが、拘束された身ではどうすることも出来ない。
誰か、誰か我らにご加護を……!!
我らは絶望の日々を送っていた。
ただ一人、第一王子だけは別室に幽閉されていた。
王家の血を引く彼の持つ力は強大だ。
幾ら枷をつけられようと、力を完全に封じ込められることはないだろう。
彼さえ無事であれば絶滅を避けられる。
何とかして彼だけでも外へ出せないか。
それだけが、我らの望みだった。
⚔ ⚔ ⚔
──そして後日。
第一王子が人知れず脱出し、牢獄内にその情報が飛び交うと、我らは生きる気力を何とか持ち直すことが出来た。
王子が我々を助けに戻って来て下さる、その日を夢見て……──
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜
ソニエッタ
ファンタジー
森のはずれで花屋を営むオルガ。
草花を咲かせる不思議な力《エルバの手》を使い、今日ものんびり畑をたがやす。
そんな彼女のもとに、ある日突然やってきた帝国騎士団。
「皇子が呪いにかけられた。魔法が効かない」
は? それ、なんでウチに言いに来る?
天然で楽天的、敬語が使えない花屋の娘が、“咲かせる力”で事件を解決していく
―異世界・草花ファンタジー
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる