蒼碧の革命〜人魚の願い〜

蒼河颯人

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第三章 奪われし国

第二十四話 ある王女の記憶

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 あるはれたひ。
 ぽかぽかとあたたかいひのことだった。
 
 おとうさまがおしごとで、うみのきれいなくにへでかけられるときいたから、わたしはついおねだりしちゃったの。
 
「わたしもつれていってください。おとうさま。うみというものを、みてみたいの」
 
 だって、うみってみたことがないんだもの。
 よんでもらっているえほんのなかでしかしらないわ。
 おおきくて、ひろいって、どんなかんじなの?
 なみってなぁに?
 かもめってなぁに?
 うみってどんなもの?
 
 すると、おとうさまはゆるしてくださったの。
 
「とものものといっしょならいいよ」
 
 ですって。
 とってもうれしかったわ。
 
 おとうさまは、そのうみのきれいなくにの、いちばんえらいかたとおはなしするためにいかれるんだって。
 
 ここでまっていなさいって、あんないされたおへや。
 そこはこじんまりとしているけど、とってもきれいなの。
 まどからそとをみてみると、あおいものがひろがってみえたわ。
 
 ざざーっ ざざーっ。
 なんか、すながながれていくようなおとがきこえる。
 うるさくないけど、きいているとなんだかねむたくなってくる。
 ふしぎね。
 ひょっとして、これが〝うみ〟というものなの?
 おしろよりとってもひろいわ。
 きらきらひかっていて、すっごくきれい。
 
 せっかくだから、ひとりでみてみたい。
 〝うみ〟というものを、もっとまぢかでみてみたい。
 そんなきもちが、むねのなかでおおきくふくらんじゃった。
 
 だから、わたしはだめといわれていたけど、
 おへやをこっそりとぬけだして、いっかいにあるばるこにーから、そとをもういちどのぞいてみたの。
 
 すると、とつぜんつよいかぜがふいてきて、ぼうしがとばされてしまったの。
 
 たいへん。だいすきなおとうさまがくださったおぼうしなのに!

「ねぇまって!!」
 
 わたしはとばされたぼうしをとろうと、てをのばし、さくからみをのりだしたら、あっというまにしたへとまっさかさま!
 
 どっぽーん!!
 
 わたしはばるこにーのさくからおちてしまったの。おもったよりたかくなかったから、いたくなかった。
 うみのまぢかにおしろがたててあったことをおもいだしたけど、あらためておどろいちゃった。
 
 ほんとうにおしろのそばがうみだなんて!
 
 〝うみ〟におちてしまったわたしは、さいしょどうしたらいいのかよくわからなかったの。
 うみのみずはおもったよりあたたかかった。
 でも、おようふくきているからか、からだがとてもおもたいの。
 じっとしているとしずんでしまうから、てあしをばたばたと、うごかすしかなかった。
 
「だれかたすけてーっ!」
 
 こえをだしても、まわりにだれもいない。
 いきばもなく、ただじたばたとふゆうするあしがさびしくて、みょうにたよりなかったわ。
 
 だんだんつかれてきて、からだがしずみそうになったそのとき、とつぜんみずおとがして、だれかにうでをつかまれたの。
 
「だいじょうぶ?」
 
 きれいなおとこのこがひとり、わたしをみつけてくれたの。
 いろじろで、おひさまのひかりのようなきんいろのかみで、うみのような、あおみどりいろのめが、とてもきれいだった。
 でもなぜか、おなかからうえははだかで、おへそからしたはおさかなさんだったの。
 
「ぼくにつかまって。りくまでつれていってあげる」
 
 わたしはかれのせなかにてをまわしてしがみついた。
 かれはわたしがおちないように、りょううででしっかりだきよせてくれたの。

 とてもあたたかかったわ。

 かれはおなかのしたにあるあしのひれをうごかして、まっしろなしらはままでつれていってくれた。
 ほっぺたにあたるしぶきがちょっといたいのと、くちにはいったおみずがしょっぱかった。
 うみって、あまりのみたくないあじなのね。
 
「たすけてくれてどうもありがとう」
「きみはどこからきたの?」
「となりのくに。おとうさまがおしごとでときどききているから、あなたのおとうさまはしっているかも」
「そうなんだ。きみがさがしていたのこれでしょ?」
 
 かれは、そういってぼうしをてわたしてくれたの。
 おはなでかざられたきれいなぼうし。
 わたしのたいせつな、たからもの。
 
「うれしい! どうもありがとう」
「きみは……その……にんげんだろ? ぼくはにんぎょだからおよぐのはへいきだけど、きみはあぶないからきをつけて」
「にんぎょ?」
「きみはにんぎょをみるのは、はじめて?」
 
 しらないことだらけだったけど、かれはいろいろおしえてくれた。
 かれは、このくにのおうじさまだった。
 これがかれとのであいだったの。
  
 わたしはまたこのくににあそびにいきたかったけど、おとうさまはなかなかくびをたてにふってくれなかった。
 そうよね。いいつけをやぶってかってにおへやをでたし、うみでおぼれかけるようなむすめを、ゆるしてくれるおやはまずいないはず。
 しんぱいかけてごめんなさい。
 おとうさま。
 きれいにとかしてもらっていたくろいかみも、おようふくごとずぶぬれにしちゃって、ごめんなさい。
 わたしがわるいの。
 でも、このくにのおうさまからていあんされて、ようやくおとうさまはゆるしてくれるようになったの。よかった!
 
 このくににくると、わたしはかならずおうじさまといっしょにあそんだの。
 どこまでもつづくひろくて、おおきなすなはまをはしりまわったり、おおきないわかげでかくれんぼしたり。
 すこしはなれたところで、とものものたちがみはってくれていたけど、ふたりであそべるじかんは、とてもたのしかった。

 こんなひがずっとつづけばいいのに。
 おうじさまといっしょにいたい。
 わたしはそうおもうようになったわ。
 
 そんなあるひ、かれはわたしにやくそくしてくれたの。
 
「おとなになったら、きみをむかえにいくよ」
 
 わたしもかれのことが、だいすきだったから、とてもうれしかったわ。
 わたしがいくつになったらむかえにきてくれるのかしら。
 きっと、かれはかっこいいおうじさまになっているんじゃないかしら。
 むねがどきどきして、とてもいたかったわ。
 
 そのひから、ゆびおりかぞえてたのしみにしているの。おうじさまがわたしをむかえにきてくれるひを。

 はやく、おとなになりたい。 
 あのあおみどりいろをした、きれいなにんぎょのおうじさまにはやくあいたい──。
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