44 / 82
第四章 西の国へ
第四十二話 途上
しおりを挟む
アリオンとアーサーはテーブルに地図を広げ、今いる場所を再確認していた。今自分達がいる所は、どうやらパンロンという土地らしい。
(ここは、あの時果たして通っただろうか? )
アリオンは記憶を探った。
ランデヴェネスト牢獄を脱出して、カンペルロ王国を出たあの時は、ただ逃げ出すことしか頭になかった。右も左も分からず何日もの間森を彷徨い続け、動けなくなるまで歩き続けてたどり着いたのが、ラルタ森――コルアイヌとサビナの間にある――の入り口付近だった。その森は、丁度カンペルロの国境近くにも繋がっていた。ひょっとすると、気付いていないだけで、パンロンはその近くにあったのかもしれない。
(何にせよ、あの頃の僕は外の情報とは無縁の状態だった。外の人間から話しを聞くのが一番に変わりないな)
アリオンは丁度通りかかった女性店員の一人に声をかけた。
「お忙しいところすみません。少しお時間宜しいですか?」
「はい。何でしょうか?」
「仕事の都合で僕達今からカンペルロに立ち寄るのですが、色々教えてくれませんか? あなたが知っている限りで構わないのですが」
その店員は目を丸くして口元を手で押さえている。何かありそうだ。
「お客さん。これからカンペルロに向かわれるのですか?」
「ええ。そうです」
「今のあの国は正直あまりおすすめ出来ませんが、お仕事では仕方ないですね。どうぞお気を付け下さいまし」
店員の微妙な反応に、アーサーは片眉だけ引き上げ、訝しげな表情をした。やはり、モナン町で聞いたことと大きな違いはなさそうだ。確か何人か亡命してモナン町へ逃げ込んでいるカンペルロ人もいるとか、そんな話しだった気がする。
「今情勢が不安定だと他の地でも聞いていますが、そんなに悪いのですか?」
「ええ、あまり大声では言えませんから……」
店員は少し身をかがめてアリオンとアーサーに耳打ちするかのように小声で話した。
それを耳にした二人は、表情一つ変えずに全て聞いていた。小声だったので、残念ながらレイアとセレナまでは聞こえていない。
「アーサー。アリオン。私達、後で聞くから教えてね」
「ああ。分かった」
店員からの話しを聞きつつ、アリオンは再び色々と思い出していた。
アルモリカで突然拘束され、無理矢理カンペルロ連れて行かれた時は目隠しをされていた為、国の入り口たるランデヴェネスト城門付近の状況は彼の記憶にほぼない。カンペルロを脱出した際は真夜中だった為、暗くて良く分からなかったのだ。
(一度はカンペルロ王国内にいたわりには、使える情報がほぼないか……仕方ない)
ランデヴェネスト牢獄内に幽閉されていた時は身も心も限界まで追い詰められ、外の様子をうかがい知ることさえ出来る状態ではなかった。
だが、今は状況が違う。
今いるところに己を脅かすものはないし、一人ではない。話し合える仲間だっている。
(何とかしてこの腕輪を外し、国を取り戻してみせる。 目に映る守らねばならぬ者達を見殺しにせねばならぬ状況は、もうたくさんだ)
僕は絶対に諦めない。
一度は屈したが、二度と屈しはしない。
これから先どんなことがあろうとも、
例え途中で倒れても、
何度でも立ち上がってみせる。
守りたい者を、この手で守るため。
守らねばならぬ者達を、この手で救い、守るために――
大粒の涙をこぼしていたヘーゼル色の瞳の少女の姿が脳裏にゆらりと浮かんだ。
(彼女にこれ以上涙を流させたくない……)
アリオンは心に強く誓った。
(ここは、あの時果たして通っただろうか? )
アリオンは記憶を探った。
ランデヴェネスト牢獄を脱出して、カンペルロ王国を出たあの時は、ただ逃げ出すことしか頭になかった。右も左も分からず何日もの間森を彷徨い続け、動けなくなるまで歩き続けてたどり着いたのが、ラルタ森――コルアイヌとサビナの間にある――の入り口付近だった。その森は、丁度カンペルロの国境近くにも繋がっていた。ひょっとすると、気付いていないだけで、パンロンはその近くにあったのかもしれない。
(何にせよ、あの頃の僕は外の情報とは無縁の状態だった。外の人間から話しを聞くのが一番に変わりないな)
アリオンは丁度通りかかった女性店員の一人に声をかけた。
「お忙しいところすみません。少しお時間宜しいですか?」
「はい。何でしょうか?」
「仕事の都合で僕達今からカンペルロに立ち寄るのですが、色々教えてくれませんか? あなたが知っている限りで構わないのですが」
その店員は目を丸くして口元を手で押さえている。何かありそうだ。
「お客さん。これからカンペルロに向かわれるのですか?」
「ええ。そうです」
「今のあの国は正直あまりおすすめ出来ませんが、お仕事では仕方ないですね。どうぞお気を付け下さいまし」
店員の微妙な反応に、アーサーは片眉だけ引き上げ、訝しげな表情をした。やはり、モナン町で聞いたことと大きな違いはなさそうだ。確か何人か亡命してモナン町へ逃げ込んでいるカンペルロ人もいるとか、そんな話しだった気がする。
「今情勢が不安定だと他の地でも聞いていますが、そんなに悪いのですか?」
「ええ、あまり大声では言えませんから……」
店員は少し身をかがめてアリオンとアーサーに耳打ちするかのように小声で話した。
それを耳にした二人は、表情一つ変えずに全て聞いていた。小声だったので、残念ながらレイアとセレナまでは聞こえていない。
「アーサー。アリオン。私達、後で聞くから教えてね」
「ああ。分かった」
店員からの話しを聞きつつ、アリオンは再び色々と思い出していた。
アルモリカで突然拘束され、無理矢理カンペルロ連れて行かれた時は目隠しをされていた為、国の入り口たるランデヴェネスト城門付近の状況は彼の記憶にほぼない。カンペルロを脱出した際は真夜中だった為、暗くて良く分からなかったのだ。
(一度はカンペルロ王国内にいたわりには、使える情報がほぼないか……仕方ない)
ランデヴェネスト牢獄内に幽閉されていた時は身も心も限界まで追い詰められ、外の様子をうかがい知ることさえ出来る状態ではなかった。
だが、今は状況が違う。
今いるところに己を脅かすものはないし、一人ではない。話し合える仲間だっている。
(何とかしてこの腕輪を外し、国を取り戻してみせる。 目に映る守らねばならぬ者達を見殺しにせねばならぬ状況は、もうたくさんだ)
僕は絶対に諦めない。
一度は屈したが、二度と屈しはしない。
これから先どんなことがあろうとも、
例え途中で倒れても、
何度でも立ち上がってみせる。
守りたい者を、この手で守るため。
守らねばならぬ者達を、この手で救い、守るために――
大粒の涙をこぼしていたヘーゼル色の瞳の少女の姿が脳裏にゆらりと浮かんだ。
(彼女にこれ以上涙を流させたくない……)
アリオンは心に強く誓った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜
ソニエッタ
ファンタジー
森のはずれで花屋を営むオルガ。
草花を咲かせる不思議な力《エルバの手》を使い、今日ものんびり畑をたがやす。
そんな彼女のもとに、ある日突然やってきた帝国騎士団。
「皇子が呪いにかけられた。魔法が効かない」
は? それ、なんでウチに言いに来る?
天然で楽天的、敬語が使えない花屋の娘が、“咲かせる力”で事件を解決していく
―異世界・草花ファンタジー
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる