骨董屋と黒猫の陽だまり日記帳

蒼河颯人

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第十三話 ひなまつりって、なぁに?

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 最近、風を冷たく感じることもあるけど、お昼間は暖かくなる日が出てきた。それなのに、雪が降ってる地域もあるんだって。
 ねぇ、最近のお天気って何かおかしいと思わない?
 暖かい日と寒い日が交互に来ているようだけど、体調を壊さないようにしなくちゃいけないわね。身体中の毛を逆立てたり、毛布を探したり、暖かい場所を探すのも一苦労。猫だって、大変なんだから! あ、でも、柳都のお膝の上に乗せてもらう良い言い訳になるから、その点は悪くないと思っているけどね。

 そんなある日、玄関で不思議なものを見つけたの。何と言えば良いのかしら? 二体のお人形のようね。片方は頭に縦長のお帽子を被ってて、もう片方は、キラキラ輝く花びらみたいな飾りをつけてたの。どちらも何か、古めかしい格好をしているのよね。片方は濃ゆい青っぽいので、もう片方は赤っぽいのを着ているわ。時々お客さんで着ているものに、少し似ている。きものというものかしら? 一体何だろう? それにしても、どちらも透明なケースに入れられていて、まるで鳥かごのようね。息苦しくないのかなぁ?

 あたしは、そのお人形さん達にそっと近付いてみた。下から覗いているだけでは良く見えない。箱を足台にして、下駄箱の上によじ登り、背伸びをしてみたの。すると、ちょうど視線の同じ高さにある真っ白なお顔が、あたしをぎらりと見つめてきたの!

「ふにゃああああっっっ!?!?!?」

 あたしったら、すっかり驚いてしまって、下駄箱の上から転がり落ちそうになってしまったわ。そうすると、お家の奥からばたばたと足音が聞こえてきたの。

「ディアナ!? 一体どうしたのですか!?」

 そう、駆け付けてくれたのは、あたしのご主人様だったの。心配そうに、ちょっと柳眉を八の字にしている。銀縁眼鏡の奥から覗く榛色の双眸。柳都ったら、こう言った顔も、うっかり見とれてしまう位、美しくてとっても素敵なの。ついつい顔がにやけてしまいそうになっちゃう。

「なぁ~ご~ぅ……」

 だめね、あたしったら。柳都を困らせてばっかり。そんなあたしを彼は大きな手でひょいと抱き上げ、腕の中に入れてくれた。あ~ん。あったかぁい! やっぱりここが一番落ち着く~! ついつい背伸びをしそうになったあたしを、目を細めて眺めていた彼は、ふとあたしが覗いていた場所へと視線を動かしたの。

「……ディアナ。これにいたずらしようとしませんでしたか?」
「にぃ~!」

 違うの! 違うのよ柳都!! いやぁ~ん誤解しちゃやだぁ!! あたしはただ覗いていただけなの!

 あたしはじたばた前足と後ろ足を動かして、彼の誤解を解こうとした。でも、疑われても仕方がないか。あたしったら、彼のお店の商品を落として、壊しちゃったりしてるものだから。ちょっとしょんぼりしているあたしに気が付いたのか、柳都はその薄い唇にそっと弧を描いた。

「……まぁ、これはあなたが興味を持ってもおかしくないものですからねぇ。でも、このケースの上に乗ってはだめですよ。これは大切なものですから」

 この二体のお人形さんが? 変なの。でも、改めて良く見ると、何だか可愛い気もする。今の人間とちょっと違った格好をしているけど、良く見ると、どちらも笑顔を浮かべているし。先ほどはどうして睨まれていると、思ってしまったのだろう?

「ディアナ。これは、三月三日のひな祭りに飾られる人形です。ひな祭りは、古くから『桃の節句』とも呼ばれています。 桃の節句は三月三日、春の訪れとともに、女の子が健やかに成長することを祈る行事です。この時に飾られる桃の花は、厄を払う象徴とされているのですよ。でも、桃の花びらや葉などは、あなたにとって毒になる成分が含まれているから、生花ではなく、造花にしています」

 ふぅん。このお人形さんの隣に可愛いお花が飾ってあると思ったら、そういうことだったんだ。でも、どうしてこのお人形さん達がここに飾ってあるんだろう? 柳都とあたししか、このお家にはいないのに。あたしは前足で顔をこすった。
 
「ディアナ、これはあなたのために飾っているのですよ」
「みゃう!?」

 え? え? え? あたしのため!? このお人形さんが!?

 驚いてすっかり動けなくなっているあたしの頭を、柳都は、その大きな手で、ゆっくりとなでてくれた。

「あなたに、いつまでも健康で幸せであって欲しい。そう言った気持ちを込めて、飾っているのです」

 このお人形さん達、あたしのためのものだったんだ。
 えへへ。何か、くすぐったい。でも、とっても嬉しいな、柳都。だって、あたしはただの猫なのに、こんなに幸せで良いのかなぁ。あたしはついつい、柳都の胸元に頬を思いっきりこすりつけた。

「ひな祭りは本来であれば、ひなあられや白酒、菱餅にちらし寿司、はまぐりの潮汁と言ったお料理を家族全員で囲んで、祝うものです。でも、あなたにはそれは難しいので、別のものを準備しています」

 え? え? え? 一体何だろう!?
 気になるわ。

「でも、それは後のお楽しみにしておきましょう」

 え? え? え? 何故そこで焦らすのよ柳都!? 気になるじゃないの! 意地悪ぅ!

「それよりも少し早いですが、ディアナ、おやつの時間にしましょうか」

 わーい!! おやつおやつ!!
 今日のおやつは何だろう!!
 とっても楽しみだなぁ!!!
 つい前のめりになったあたしを、柳都はその腕で優しく抱き締めてくれたの。
 
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