輝く草原を舞う葉の如く

貴林

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第一章 五大元素の術

第三話 暗雲

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五大元素修練学場 サユミのいる教室

昼食時間
「はあ~」
大きくため息をつくサユミ。
お弁当を開いたまま、一口も手をつけずにいる。
マリカが、気にして声をかける。
「食べてないじゃない。ダイエットでもしてるのかな?」
ため息をまた一つするサユミ。
「そんなのしないよ」
マリカは、肘でサユミを突いてみる。
「だよね。そんな柄じゃないし」
その言葉に、唇を尖らせるサユミ。
「どういう意味よ」
「何でも~」
午後からの試験を控え緊張から食事が喉を通らないサユミであった。
マリカが、元気付けようと
「今まで、教わったことをするだけじゃん」
それを聞いて一気に肩を落とすサユミ。
「それが出来ればね~。何も悩まないで済むんだけど。わかってるんだよね。自分で。その場になると、頭の中が真っ白になっちゃうんだよ」
机に塞ぎ込むサユミ。
タクトが、近づいてきた。
「よう、万年落ちこぼれ」
マリカが、食ってかかる。
「こら、タクト今はそんなこと言ってる時じゃないでしょ」
マリカの袖を引っ張るサユミ。
「いいのよ、マリカ。ホントのことなんだから」
タクトは、元気付けようとからかったつもりだったので、少し後悔している。
「いや、悪かったよ。そんなつもりじゃなかったんだよ」
机で腕を組みそれに顔を埋めるサユミ。こもった声で答える。
「大丈夫、気にしてないから」

伏しているサユミは、遠く声を聞いた気がした。
(・・お姉ちゃん・・・)
「え?シオラ?」
体を起こし、周囲を見回すサユミ。
それを見たマリカ。
「どうしたの?」
「今、シオラが呼んだような」
小等部に上がる前の、サユミの妹のシオラがいるはずがなかった。
「何かの聞き違いじゃないの?ていうか、サユミ。耳どうしたの?」
えっと、耳を押さえるサユミ。
「血が出てるじゃん」
押さえた手に、血が滲んでいる。
その時、高い金属に似た音がサユミを襲った。
サユミが耳を塞いだ。
「つっ、いた!」
マリカが、心配そうな顔でサユミを見る。
「大丈夫?」
激しい耳鳴りに襲われるサユミ。
「キーンて、うるさいよ。マリカは、なんともないの?」
「え、うん」
うなずくマリカ。
タクトも何事もないようだ。
「どこか、悪いんじゃないのか?」
キーンの音が激しくなるサユミ。
両手で耳を塞ぐが、内側からもその音はサユミを襲ってくる。
「ううう・・いたたた・・我慢できないよ」
椅子から転げ落ちるサユミ。床の上でのたうち回る。
頭がおかしくなりそうだった。
我慢が出来ず、ついにサユミは叫びだす。
「ああああああああーー」
クラスの誰もが驚いている。
ピクピクと痙攣を始めるサユミ。
マリカが叫ぶ。
「タクト、先生呼んできて」
慌てるタクト、机に膝をぶつけてながら
「わ、わかった」
サユミを抱えるマリカ。
頬を軽く叩きながら、呼びかける。
「サユミ、サユミったら」
サユミは、白目を向いている。
(・・お姉ちゃん)
サユミに囁きかける声。
妹シオラの声だった。
「・・・シオラ?」
マリカが、サユミがささやく声を聞いていた。
「シオラ?シオラちゃんがどうかしたの?サユミ」
(お姉ちゃん、は、早く)
「・・シオラ・・はや・く」
(早く助けに来て、お姉ちゃん)
「シオラ・・たすけ・・」
マリカは、言葉を復唱する。
「シオラ、助け?それって、どういう意味なの?」
教室に影を作っていた窓枠や机の影が暗く消えている。
急に外が暗くなり始めたのだ。豪雨でも来そうな黒い雲がたちまち広がっていく。それは、まるで生き物のように蠢いていた。
しかも、この時、イーストグラスランドを隠しいた霧や雲がいつのまにか晴れてしまっていた。
代わりに黒い雲が、地を這うように地表を覆い尽くすかのように広がっていたのだ。
北方より、暗雲が流れ込み広がり大陸全土を覆い始めている。
サユミの村では黒い雲がすっぽりと覆い、光のない闇と化していた。
村人たちの足元を黒い霧が流れ込み、その中に人の形をしたものが、なだれ込んでくる。
それは歩く幽霊ゴーストウォーカーであった。
触れた物の姿を変えていった。草木は枯れ、水は干上がり、穀物を腐らせ、生きる物の生気を吸い取っていく。
人々がバタバタと倒れていった。
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