輝く草原を舞う葉の如く

貴林

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第二章 サザンソルト国

第十話 鍛治職人 アマル

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一度、正面から出て、右手に行くと階段があり降りて行く。
ガチン、ガン、ガチン
煙突から煙が出ている。おまけに熱気が伝わってくる。
木人が二体、カカシのように立っている。
矢の的が壁際に三箇所設置されている。
それらを横目に音の方に進んでいくと、皮の前掛けを付けた体のガッシリとした人物に近づいて行くタルーシャ。
「アマル。調子はどう?」
前掛けの人物が声に振り返る。
「おお、これはタルーシャ王女。よくぞ、起こしに」
ボウアンドスクレープで出迎えるその人物は男と思っていたが、女性であった。カーテシーで返すタルーシャ。
二人は、冗談が言える間柄だった。
「アマル、鍛冶場をマリカ様に案内してもらえる?」
「お、鍛冶場にご興味がおありですな。承知致しました」
どうぞ、こちらにと、マリカを手のひらを返し招き入れるアマル。
「アマル、例の物をお願い」
アマルは、何か取ると片膝をついてタルーシャに差し出す。
「どうぞ、お納めください」
レイピアを受け取るタルーシャは、そのまま、サユミに差し出した。
「受け取って」
「え?私に?」
「うん」
見ると、ブレードのガード近くに薔薇の紋章が刻まれていた。
「あ・・」
「ふふ・・気に入ってくれた?」
満面の笑みを浮かべるサユミ。
「もちろん、すごく気に入ったよ。ありがとう」
「本来レイピアは、突いて使うのに適してるけど、基本は両刃なの。だから切ることも出来るからね」
レイピアをかざして、両刃であることを確かめるサユミ。
「なるほど、本当だ」
「レイピアは細身だから受けに向いていないのが欠点で、もう片手にパリーイング・ダガーを受け流し用に使うの」
見た目は、ダガーと変わらない物をタルーシャがサユミに差し出してきた。
一本の刃が、ガード部を操作することで三本に展開する仕組みだ。
「おお」
「サユミ、ちょっと」
レイピアとパリーイング・ダガーを、テーブルに置かせるタルーシャ。
「こんなの出来る?」
右手はグー、左手はチョキ。右手はパー、左手はグー。いわゆる一人ジャンケンは、その都度、決着がつくため延々と続けられた。
「毎回、勝つのが目的よ」
一方サユミはいうと、ゆっくりの動きで左右違う動きをしているが、早くやろうとすると両の手が同じになってしまう。グーとグー。パーとパー。という具合に。
「うわ、意外と出来ないもんだね」
ふふと、笑いながらタルーシャは、一人ジャンケンを延々と続けている。
「大抵の人が、サユミと同じで左右同じになってしまうの」
タクトたちもやってみているが、結果はサユミと同じであった。
「へえ、タルってすごいんだね」
「そんなことないよ。たまたま、出来るっていうだけ」
ナルセがうなずいた。
「なるほど、だからタルはダガーを二本使うんだね」
「さすが、ナルセ。そこに気がつくなんて」
サユミは、その意味がよくわからなかった。
サーベルを二本取るタルーシャは、木人の前に立ち構えた。
左右違った動きで木人を斬りつけるタルーシャの連撃は凄まじかった。
通常なら途中、互いのサーベルが交差し、ぶつかり合ってしまうものだが、上から下から横から上から縦横無尽に斬りつけるタルーシャの動きは、まるで演舞のように鮮やかだった。
鍛冶場の脇の階段上からパチパチと拍手の音。
「よく出来ました。でも、まだまだ、脇が甘いようですよ」
現れたのは、薄い紫色のマキシ丈ワンピースを来たスラリと細身の女性であった。
「シリア、これまで、どこにいたのですか?」
タルーシャは、シリアと呼ばれた女性に抱きついた。
「図書室の整理をしていたものですから」
「そうだったんだ。サユミ、紹介するね。こちらは、シリア。私の側近で教育係でもあるの」
サユミたちにカーテシーをするシリア。
「よくおいで下さいました。シリアと申します」
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