マインズ・アイ

失踪

音のない少女

失踪した生徒の名は、江上えがみひとみ。
ここ飛翔高校に通う、三年生であった。

失踪の日、江上ひとみは、クラスの友達とある計画を立てていた。
　高校生活最後の夏休みということもあって、旧校舎に肝試しに行こうというのだ。
夜九時を過ぎた頃、巡回する警備の目を掻い潜り、旧校舎に侵入した江上みとみと草部健太くさべ　けんたと田嶋康介たじま　こうすけ、そして梨原なしはらさゆりの四人は、同じクラスの親友であり幼少時からの幼馴染である。
今回失踪した江上ひとみは、他の生徒にはない特異な特徴があった。
生まれながらの聴覚障害の為、全く音を聞くことが出来なかったのだ。人との会話には口話法を主に活用していた。
仕草や顔の表情、唇の動きから言葉を読み取っていた。中でも唇の動きを読み取る読唇術どくしんじゅつは欠かせなかった。
そんなひとみを含む四人は、腐り風化してギシギシと軋み、いつ抜け落ちるかわからない床の上を探り足、忍び足で進んでいた。
更に立ち入り禁止になってからは、一切人の手が加わっていなかった為、留め具の緩んだ木枠にはめられた薄ペラいガラスがカタカタと音を立てている。劣化で脆くなった建具は、強風と時折起こる地震などで、原型を留めておらず隙間から風が吹き込んでいる。
四人はギシギシと音を立てる床の上で、ガラスの破片を踏み砕いては、パリパリと音を立てている。