蜃気楼の向こう側

貴林

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7 恐頭山

洞に籠る

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提灯洞ていとうどう

溶岩と泥が海に流れ落ちる際に出来た提灯ちょうちん型の溶岩石で出来た洞窟。
土だけが水に押し流され、残った溶岩石が露出して海の崖淵に迫り出している。溶岩石の壁はポツポツと穴が空いているため火を灯すと全体から光が漏れ、遠目から提灯にも見えることからもその名の由来とされている。

蝶華と毛大は、真希乃と彩花を引き連れて洞に来ていた。
洞の入り口には、滑車のついた籠が設置されており、これで中に降りられるように作られていた。
ボロをまとった一人の男がいた。
見ると左足を引きずっており腰から鈴を下げているため、歩くたびに、リンと鳴った。
「ご苦労じゃの、無名むな。足の痛みはどうかの?」
拳に手のひらを重ね、毛大に挨拶する無名という男。
「痛みはなく過ごせております」
「それは、何よりじゃの。また、日に三度の飯とたまに様子を見てもらえると助かるの。他は一切手出し無用じゃ」
「承知いたしました。期間は?」
「一月じゃの」
「心得ました」
毛大と蝶華と真希乃と彩花の4人は、籠に乗り込んだ。
ガラガラと、籠はゆっくり洞に入って行く。
ドスン 地に着くと4人は降り立つ。
「静かですね。ここで師匠は何年過ごされたのですか?」
「若い頃に十年、今ではたまに一年くらいはこもるかの」
「そうなんですね、でここでは僕たちは何をすれば?」
「好きにして良いぞ」
「え? あ、いや、好きにしろと言われても」
「まあ、ゆっくり自分を見つめて見ることじゃの」
蝶華が彩花の肩を抱き
「彩花よ、座禅で内功はかなり鍛えられたと思うが、ここは潮風もきつい。飲み物といえば、岩から滲み出る湧水のみ、真希乃と二人うまくやっていくが良いぞよ」
「はい、ご師匠様」
毛大が、壁に面した扉を開く。
ゴゴゴゴと音を立てる。
「出入りは自由じゃ。断食を兼ねて籠りたくば、扉を閉めるが良いぞよ」
入ると真希乃が、寒さで身震いをした。
「ここは、気温が低いのでの。あそこの氷台に座して内功を鍛えるのも良いじゃろの。それに熱冷ましにもなろう。まあ、好きに使うが良かろうの」
「質問は無しじゃ。では、またの」
背を向ける毛大は、蝶華の背中を押す。
彩花は、真希乃に寄り添うと、真希乃がそれに答えるように彩花の肩を抱いた。
ガラガラと、籠が上がって行く。
籠から毛大と蝶華が降りると立ち去っていった。
考え方次第で、ここは留置所か監獄に思える場所であった。

真希乃は、氷台に腰掛けてみた。
座禅を組んでみるが、あまりの冷たさに飛び上がった。
「彩花、少しやらないか?」
一瞬、彩花はドキッとした。
真希乃が上着を脱ぐ。
「あ、いや、いくら二人きりだからって、いきなりそれは」
屈伸をしている真希乃。
「組手は、嫌かい?なら、座禅でもいいけど」
勘違いをして顔を赤くする彩花。
「あ、うん、もう少し座禅しよ」
扉を出て、岩の台座に腰を下ろす二人。
目を閉じる、波の音しか聞こえない。
恐頭山よりも呼吸がかなり楽であった。
瞑想界に入り込む二人。
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