蜃気楼の向こう側

貴林

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1 新たな出会い

少女の名は、蓮華

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ガララと扉が開かれる。クラス長の号令で、一同起立する。おはようございます の掛け声で、一斉に着席すると、渡部先生が口を開いた。
「えー、もう知ってるとは思うが、今日は転校生を紹介する」
男子が早くも盛り上がり始める。
「はいはい、静かに。特にそこんとこ」
後方で斜めに腰掛けた生徒を指差し、口元のチャックを閉める仕草をして見せる。
コツコツと扉に向かい、ガララと扉を開け、手招きをする。
教壇に渡部が戻ると、後に続くように、物静かな面持ちで、髪の短い女生徒が音もなく入ってきた。
そう、昨日の彼女であった。
カツカツと黒板に名前を書く。
織原蓮華おりはられんげ
少し間があって、三つ指でも、つくような指先を体の前に持ってくると、深くゆっくりとお辞儀をした。
「織原蓮華と申します。どうぞ、よろしく、おたのもうしあげます」
顔を上げるが下を向いたままだ。
なんとも、艶っぽい言葉と声に男子生徒は、メロメロとなった。

渡部はパンパンと手を打つと、
「はいはい、静かに。席は、そこ使ってね」
最前列の窓側の席を指差した。
渡部は、一人だけ頭の飛び出た生徒を視界に感じた。
「佐伯?どうしたんだ?まあ、座れ」
いつのまにか、立ち上がっていたのに、気づかないでいた。後ろで大志が、必死にシャツを引っ張っている。
大志が体を乗り出し、真希乃の耳元に近づく。
「ほんとに、来ちゃったね。やったね、真希乃」
と言いつつ、気になることがあって不安になる大志。
視線は一組の方を見ている。

昼の時間になり、皆、散り散りに弁当を下げて、お気に入りの場所に向かった。本来、真希乃たちも、一目散に屋上へと向かうはずが、真希乃は動かないでいた。むしろ、動けずにいた。なぜなら、まだそこに蓮華がいたからだ。
夢でも見ているように釘付けになっている。
大志は、教室の入り口をチラチラと見ては、何やら落ち着かないでいる。

「真希乃、お昼行かないの?」
彩花が大志の心配を余所に入ってきた。
慌てた大志は、彩花を廊下へと押し戻す。
「あ、何よ」
彩花は真希乃を見る。真希乃の視線の先を追う。見知らぬ子が、そこにいた。転校生?
ガララと扉が彩花の視線を遮った。
(そっか)
彩花は悟った。
長い付き合いで、真希乃の好みは、なんとなく知っていた。
困り果てる大志と沈み込む彩花。
時間がしばらく止まったようだ。

「あ、彩花。え・と」
やっと声に出す大志。
彩花は自分を傷つけないための大志の配慮が嬉しかった。一方で、隠し事をされ、弾き出された孤立感を感じ彩花は苛立った。
彩花は腕を掴んだままの大志の腕をほどくと
「ごめん、大志。私、約束があったんだ。またね」
走り出す彩花。
「あ・・」
引き止められなかった大志。
またねと言った彩花の瞳が、潤んでいたからだ。
まいったな と、頭をポリポリとく大志。

こんなことが、起きているとも知らず、真希乃は間抜けた顔で蓮華に見惚みとれていた。

この日一日は、いつもと違っていた。チョーク投げで名の通った先生のチョークを普段ならなんなく避けてしまう真希乃は、まともにそれを受けている。

廊下で不意打ちに膝カックンをする生徒がいるのだが、それも普段なら何事もないように、受け止めてしまう真希乃なのだが、今日は思い切り崩れ落ちる始末。

熱しやすいにも、程がある。

ここまでなるのは、彩花の母ちゃん潮香しおかさん以来だ。
潮香さんとの、出会いは幼稚園の頃、悟さんが失踪して、落ち込むことが多かった潮香さんを見て、今日と同じ真希乃になってしまったのだ。

彩花は彩花で、声を掛けようにも避けてしまうし。どうしたらいいんだ。と大志まで落ち込む始末。

いつもは、仲の良い三人組がこの日だけは最悪の一日だった。
ただ、一人を除いて
唯一、幸せだったのは真希乃一人であろう。

放課後になって、帰宅する者。クラブ活動に勤しむ者。一人の女生徒に見惚れている者。すっかり覇気はきを失った者。人の心配で悩みふける者。様々だ。

前を歩く蓮華を呆然ぼうぜんと見守る真希乃。それとそのあとを歩く大志と彩花。

土手道を歩く蓮華。それをさえぎるように二人の男子生徒が近づく。
「蓮華ちゃんだっけ?お近づきにどこかに行かない?」
校内でも問題児とされている二人だった。
「結構です。先を急ぎますので」
変わらず手に本を持ったまま、二人の間をすり抜けようとしている。
「そんなに、急がなくても」
バッグを持った手を掴もうと男の手が伸びた。
咄嗟とっさに真希乃は、駆け寄ろうと踏み込んだ瞬間。蓮華の腕を掴んだ男が宙に逆さまに舞い上がったではないか。
ドサッドサッと、男は背中から落ち、蓮華の持っていたバッグもまた地に落ちた。
バッグを拾い上げると、またゆっくり歩き出す蓮華。

もう一人の男は、呆気あっけに取られ状況が理解出来ずにいた。
大丈夫かと、男を抱え起すと、悲鳴を上げるように立ち去っていった。

間抜け顔だった真希乃は、一部始終を見ていた。
今は、間抜け顔をしていない。

男が蓮華の腕を掴む、その男の親指を掴むと外側に捻りあげたのだ。男は堪らず、腕の捻られた痛みに合わせて、体を宙に踊らせていた。

流石さすがに真希乃も予期していなかった。
「すげえ」
この時、彩花のことが頭をよぎった。なぜなら、彩花は攻撃型の動なら、蓮華は守備型の静に当たる。
この二人の闘いを見たいと思っていた。
結果としては、それが実現することになる。

その一部始終見ていた彩花は。
久しぶり、鳥肌が立っていた。
無敗の彩花の闘争心が、沸き立っていた。
別の意味の闘争心もだが
〈織原蓮華、いったい何者?〉

この様子を、ニヤついた顔で見ているフードの男の姿があった。
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