蜃気楼の向こう側

貴林

文字の大きさ
4 / 96
1 新たな出会い

転校生がやって来る

しおりを挟む
翌朝、真希乃は目覚めが悪かった。
〈深入りするな〉
この言葉が気になって、ろくに眠れずにいた。
なんのことだよ。
朝日が差し込む、薄明るい部屋のベッドで腰掛けている真希乃。

下の階から母の声。
「朝ごはん冷めるわよ。早く下りてきなさい」
母 佐伯千景さえきちかげ六十三歳、シャキシャキした性格で潮香とは、違った明るさを放っている。
制服に着替えた真希乃は、ボサボサの頭で階段を降りてきた。
「おはよう、母さん」
「おはよう。父さんに挨拶しておいで」と真希乃は、和室の仏壇に向かった。父佐伯真さえきまこと の遺影が飾られた仏壇の前に腰を下ろすと、お鈴をりん棒で打つと、合掌した。
「父さん、おはよう」
言うと、立ち上がり食卓に向かう。
「えー、またしゃけ?」
と、ご飯にしゃけの塩焼きにお味噌汁と朝の定番だ。
「文句言わない。母さん忙しいんだから」
ズルズルと味噌汁を口に流す真希乃。
「よくいうよ、マンション行っても、管理人とお茶するだけじゃん」

ここで解説。駅近くに賃貸用にマンション物件を保有している。この家賃収入で生活には困らなかった。

ゴツン!と頭を小突かれる真希乃。
「いて」
「生意気、言ってんじゃないの」
弁当袋をバッグに押し込むと真希乃に押し付ける千景。
「ほら、大志くん来ちゃうよ」
口をモグモグさせながら、バッグを肩にかける真希乃。
「いっへいます」
口いっぱいで、うまく言葉に出来ない。
ほらと、牛乳の入ったコップを差し出す千景。
ゴクゴクと、それを飲み干すと玄関の靴箱の上に置いた。
タオルを差し出す千景を余所よそに、袖で口をぬぐってしまう真希乃。

玄関を開けると大志がスマホ片手に待っている。
「おはよう」
手を振る大志。
「うい」
真希乃も答える。
得意そうに大志が、ニヤニヤ顔で言う。
「ねえねえ、聞いた?」
こういう時の大志は、かなりいい情報を仕入れている時である。
「何を?」
無関心を装う真希乃。
「転校生が来るって、噂」
「へえ、相変わらず早耳だね。大志は。で、女の子?」
お約束の質問をした。
ちょっと自信なさそうな大志。
「たぶんね、昨日の夕方、お父さんらしい人と他校の制服を着た子を校長室前で見かけたって話だよ」
「そうなんだ」
大志がその場で見たわけじゃないので、素直になれない真希乃。
「昨日の子だったりしてね」
マジで、と大志を見る真希乃。
いや待て。と手で静止する大志。
「だったら、いいねって話」

肩を落とす真希乃。ほんと熱しやすくて冷めやすいだけあって、熱するととことん熱くなる。

そんな話をしながら、南雲空手道場の門前に到着した。

ドンと構えた門、その上に剪定せんていの行き届いた松の枝が、かぶさるようにおおっている。
その門の脇に人が出入り出来るくらいの、小さな扉がある。そこがギイと音を立てる。
「行ってきまーす」
彩花が出てきた。
真希乃は、ドキリとした。
少し低めの扉なので、やや前屈みで出てきた彩花。の胸元が眩しい。
昨日のこともあって動揺した。

「熱でもあるの?真希乃」
額に手を当ててくる彩花。慌てて払い除ける真希乃。
「何よ、心配してあげたのに」
ぷっと膨れる彩花。
ニヤニヤ大志が察して、
「今日も暑いからね」
顔の火照ほてりを手の甲で冷やそうとする真希乃。
話題を本題に戻そうとする大志。
「彩花、転校生が来るのは聞いた?」
人差し指を立てて、ああそれねっと、彩花。
「うん、聞いた。しかも女の子らしいよ。よかったね、真希乃」
心にもない言葉を口にする彩花。
「別に興味ないし」
昨日出会った少女を思い出していた。
真希乃の心の内も知らず、その言葉に素直に喜ぶ彩花。

ガタンゴトン音をさせる駅の横を通って、昨日の土手道に向かっていた。

大志が思い出したように、彩花に声をかける。
「ねえ、彩花。例の斬首事件。何か情報聞かない?」
期待はしてないけど、とりあえず聞いてみた。
というのは、彩花の父 南雲隼太は、K署刑事部捜査一課の刑事で一件目の事件、サービスエリア斬首事件を追っている。

「今日は、京都行くって言ってた。刀鍛冶かたなかじがどうとか」

大志はポンと左手のひらを右手で叩くと
「そうか、使われた凶器の洗い出しだね」
得意の大志の分析が始まった。
「被害者の切断された傷口から、どんなものが凶器として使われたのか割り出してるんだ。皮膚の表面に微量でも金属の成分反応があれば・・」

ポカンとして、顔を見合わせる真希乃と彩花。
       ・
線路沿いを進み、踏切を超え、土手道を通り橋を渡ると小高い山がある。坂を登った高台に、高校はあった。

門を入ると左手にグラウンドを構え、中央に創設者の銅像があるちょっとした広場があり、右手の奥に自転車置き場とその横に正面玄関のある四階建ての新校舎がある。正面玄関は来客用で、校舎とグラウンドに沿って進んだ中程に、生徒通用口があった。さらに、先に進むと渡り廊下があり体育館へと繋がる。体育館の隣には、木造の旧校舎があり、備品置き場として使われている。
校舎の裏側は、山があってその一部を整地して作った駐車場がある。駐車場からの階段を降りると生徒通用口の反対側に位置した入り口へと繋がる。

二階が一年生のフロア、三階が二年生のフロア、四階が三年生のフロアとなっている。
通用口を入り、左手に階段が一か所とあとは校舎の両サイドに階段がある。
真希乃達の教室は、四階にあった。
教室から見える景色は最高で、街を一望出来その先に、三日月型の湾が広がる。周りを山で囲まれた小さな街だが、真希乃は気に入っていた。
街から山に向かって登っていった所に、真希乃たちの住まいがあった。ちょうど、迫り出した山でその辺りは見る事が出来ない。
       ・
ここ三年二組の教室は、サッカー部顧問の渡部清彦わたべきよひこ先生が担任で、体育界系だけに、いつも熱い。
大志も同じクラスで、窓側から二列目の後ろから三番目が真希乃でその後ろに大志がいた。
惜しくも彩花は、一組なので、幸か不幸か、ここにはいない。
ショートホームルームの開始のチャイムが鳴る。
転校生が来るとの噂で、ザワつく教室。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...