蜃気楼の向こう側

貴林

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1 新たな出会い

彩花、怒る

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忍が大浴場前で、扇風機の前に置かれたベンチに座り込んで、冷えた水を一気に喉に流し込んでいる。
「うへえ、最高だね」
運転で疲れた体に染み渡るようだ。
そこへ、プリプリしながら、彩花が浴衣を抱えてやってきた。
「あれ?彩花殿、真希乃氏は?」
「知るか、あんな奴!」
と、ドシドシと忍の前を通り過ぎると女風呂に入っていった。
呆然ぼうぜんと、見送る忍。

彩花の後を追うように
「何、怒ってんだよ。彩花。ちょっと、待ってよ」
顔に紅葉もみじの葉を張り付けて真希乃がやってきて、そのまま女風呂に
「ちょちょちょ」
慌てた忍は、真希乃の襟首を掴み、引き止める。
「何があったんす?真希乃氏」
「僕もよくわからないんだよ」
紅葉の葉かと思ったそれは、手形だった。
ぷっと、吹き出す忍。
「真希乃氏、何かやらかしたね」
頬を摩る真希乃の肩をパンパン叩きながら、ガハハハと大笑いの忍。

女風呂の中では、プリプリした彩花が、桶にお湯を入れてはバシャバシャと浴びることを繰り返していた。
「あん、もう、イライラする」
蓮華が気にして
「大丈夫ですか?」
これに対して、彩花はキッと睨み付ける。
「またしても、ぐぬぬぬ」
蓮華は、自身を指差し
「え?わたくしですか?」
これは、まずい雰囲気と俊は
「お先に・・」
忍び足で出て行った。

困り果て立ち尽くす蓮華であった。

       ・

忍と俊は、売店で土産物みやげものを見ている。
部屋で食べようと、饅頭とか一口ケーキなどをいくつか抱えて、試食用のわさび漬けを忍の口に、放り込んでは表情の変化を楽しんだりしていた。

真希乃は、相も変わらず、大浴場前のベンチで、彩花が出てくるのを待っていた。
カラカラと引き戸が開く音がして、そちらを見る真希乃。出てきたのは、身体から蒸気させた蓮華だった。スラリとした浴衣姿で、露出した白い肌がほんのりピンク色に染まり、ラメを散りばめたように、キラキラしていた。眩しかった。
いかんいかんと、首を振り残像を振り落とす真希乃。

蓮華は真希乃の横で立ち止まると

「彩花に、優しくしてあげてくださいね。かなり、落ち込んでますから」
蓮華は売店の方に歩いて行った。

しばらくして、ガラガラと、さっきより大きな音で引き戸が悲鳴を上げると、ドシドシと彩花が出てきた。彩花は憤怒の如く蒸気を発し、真っ赤になった肌をむき出しにギラギラさせている。目が潰れるかと思った。

いかんいかんと、呪いを解くように身震いする真希乃。

(優しくしてあげて)
蓮華の言葉が木霊する。

「彩花」
「何よ」

「ごめん」
こんな真希乃が、嫌だった。が、嬉しかった。
「別に、怒ってないし」
素直になれない彩花。

部屋に戻ると、今度は窓際に彩花が、ぽつりと座り込む。

シーンと静まり返る部屋の空気。

プシっと、静寂を破る音。
忍が缶ビールのプルタブを開けたのだ。

あちこちから、視線が、ビールに注がれる。
「あ・・」
忍は、そそりと缶ビールを手の中に隠す。

「シノ!未成年がいるのに、ダメじゃない」
俊が、代弁する様に忍を小突く。
「ご、ごめん」

彩花が、ビールを指差し
「それ」
「あ、ごめん、捨ててきます」
立ち上がろうとする忍。
「私にも、ちょうだい」
今度は、彩花に視線が集まる。

「あ、や、やっぱ、捨ててきます」
ソロソロと、洗面所に向かう忍。
「シーノー!」
「あ、はい!」
スタスタスタと、彩花が忍に近づくと、おもむろに、ビールを奪い取った。
「あ‼︎」
言うが早いか、グビーっと、一気飲み。

※お酒は二十歳を過ぎてから。

言葉をなくす一同。

「ゲフー」
大きなゲップをする彩花。
「うん、なかなか、上手いじゃない」
ペロリと口の周りを舐めると口元を袖でぬぐった。

ホッとする一同。

誰もが彩花から目を離した。その時、グラリと彩花が倒れる。
一同、慌てるが遅かった。
バフっ、広げてあった布団に倒れ込んだ。そのまま、高いびきをかいて、眠り込んでしまった。
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