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1 新たな出会い
二人だけの時間
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翌日が、日曜日という事もあって、忍の計らいで、近くに宿を構えた。
六人が腰掛けられる座椅子が囲むテーブルで、蓮華がお茶を入れている。
あんな事がなければ、楽しい時間のはずだった。
窓側に二人が座れる小さめのテーブルがある。
そこに真希乃が、遠く風景を見るでもなく、俯いている。真希乃にお茶をすすめて、戻ってくる彩花。
「どう?」
蓮華が彩花の前にお茶を出すと声を掛けた。
目を閉じて、首を振る彩花。
「しばらく、そっとしておきましょう」
「うん」
蓮華に並んで、座椅子に腰掛ける彩花。
壁に寄りかかる忍。その横で、しきりに、ノートパソコンのキーボードを叩く俊。
傍には、叶大志様 と書かれた空のディスクケースがあった。
蓮華は、立ち上がると俊に近づく。
「どう?俊ちゃん」
「ん~」
真剣な俊。
「慌てなくていいからね」
俊の肩に、手を置くと、そっと離れた。
下を向いたままの真希乃の視界に、細めの足が入り込む。
静かに反対の席に腰掛ける。
「今、俊ちゃんが、ディスクの中を調べてるから」
真希乃の視界に入るように、湯呑みを滑らせる。
「少しは、何か飲まないと」
「ありがとう」
ううんと首を振り、見守るように、真希乃に視線を送る。
「で・でも、あと、あと、少しで・・・」
ワナワナと真希乃の肩が震える。
蓮華はそっと立ち上がり、真希乃の横に膝をつき、涙で濡れた真希乃の手に細く華奢な手を重ねた。
「大丈夫です」
「あと少しだったのに」
「まだ、手がかりは、残ってます」
ポタリと、重ねた蓮華の手に涙が落ちる。
「一人じゃないから」
顔を上げようとする真希乃を、胸元に引き寄せる蓮華。
真希乃の涙は見たくなかった。
「みんなが、付いてます」
涙で蓮華の胸元を濡らす真希乃。
抑えていた心を解放した。
「大志・・」
声を殺して大声で泣いた。
彩花も、この時ばかりは、蓮華に救われた気がしていた。
真希乃の頑なまでに、閉ざした心を母性的優しさが溶かし、解放したのだ。
明日は、笑った真希乃に会える。そう思った。
・
その場で眠りに落ちた真希乃を忍が抱え、布団に寝かせる。
彩花が、そっと布団をかけてやる。と、真希乃を見つめたまま、その場に座り込んだ。
蓮華が浴衣を片手に
「俊ちゃん、お風呂行きませんか?」
「あ、行く」
パソコンをパタっと、たたむと、そそくさと浴衣を取り、蓮華に寄り添った。
さてと、忍も膝を叩いて立ち上がった。
「俺も、さっぱりして来ようかな。風呂の後、売店行きませんか?」
「行く行く」
俊は、大きな忍を廊下へと押し出した。
蓮華はスリッパを引っ掛けながら、彩花に振り向くと
「あと、お願いしますね。彩花」
パタンと扉が閉まる。
静寂と真希乃と彩花だけが、そこにあった。
壁にかかった時計から一秒を刻む音が、彩花の耳に届き始めた。
あとは、微かな真希乃の寝息だけ
真希乃の口元から漏れる微かな音に耳を傾ける。内からの鼓動音が大きくなるのに気づき、彩花は胸に手を当てた。苦しくなり、吐息のように、彩花の口から息が漏れる。
誘われるように、真希乃の唇に近づいていく彩花。
「あ・や・か・」
真希乃の口元から、溢れてきた言葉に一瞬、驚いた。
ふっと、笑うと真希乃の額に自分の額を重ねる。
「ばか・・」
このままでいたい。彩花は、思った。
モソモソっと、真希乃が寝返りを打ったので、彩花は慌てて、真希乃から遠ざかる。また、鼓動が激しくなる。
真希乃の寝顔が彩花の緊張を和らげる。
今の二人きりの時間がとても幸せに思えた。
真希乃の口元が動く。
「重たいよ、蓮華」
和らいだ空気が、瞬時に硬直して一気に砕け散った。
「・・・!」
愕然となる彩花。
むにゃむにゃする、真希乃。
「バカー!」
パーン 彩花の掌が、真希乃の頬を確実に捉え、パンパンに膨れた風船が割れた時のように響き渡った。
六人が腰掛けられる座椅子が囲むテーブルで、蓮華がお茶を入れている。
あんな事がなければ、楽しい時間のはずだった。
窓側に二人が座れる小さめのテーブルがある。
そこに真希乃が、遠く風景を見るでもなく、俯いている。真希乃にお茶をすすめて、戻ってくる彩花。
「どう?」
蓮華が彩花の前にお茶を出すと声を掛けた。
目を閉じて、首を振る彩花。
「しばらく、そっとしておきましょう」
「うん」
蓮華に並んで、座椅子に腰掛ける彩花。
壁に寄りかかる忍。その横で、しきりに、ノートパソコンのキーボードを叩く俊。
傍には、叶大志様 と書かれた空のディスクケースがあった。
蓮華は、立ち上がると俊に近づく。
「どう?俊ちゃん」
「ん~」
真剣な俊。
「慌てなくていいからね」
俊の肩に、手を置くと、そっと離れた。
下を向いたままの真希乃の視界に、細めの足が入り込む。
静かに反対の席に腰掛ける。
「今、俊ちゃんが、ディスクの中を調べてるから」
真希乃の視界に入るように、湯呑みを滑らせる。
「少しは、何か飲まないと」
「ありがとう」
ううんと首を振り、見守るように、真希乃に視線を送る。
「で・でも、あと、あと、少しで・・・」
ワナワナと真希乃の肩が震える。
蓮華はそっと立ち上がり、真希乃の横に膝をつき、涙で濡れた真希乃の手に細く華奢な手を重ねた。
「大丈夫です」
「あと少しだったのに」
「まだ、手がかりは、残ってます」
ポタリと、重ねた蓮華の手に涙が落ちる。
「一人じゃないから」
顔を上げようとする真希乃を、胸元に引き寄せる蓮華。
真希乃の涙は見たくなかった。
「みんなが、付いてます」
涙で蓮華の胸元を濡らす真希乃。
抑えていた心を解放した。
「大志・・」
声を殺して大声で泣いた。
彩花も、この時ばかりは、蓮華に救われた気がしていた。
真希乃の頑なまでに、閉ざした心を母性的優しさが溶かし、解放したのだ。
明日は、笑った真希乃に会える。そう思った。
・
その場で眠りに落ちた真希乃を忍が抱え、布団に寝かせる。
彩花が、そっと布団をかけてやる。と、真希乃を見つめたまま、その場に座り込んだ。
蓮華が浴衣を片手に
「俊ちゃん、お風呂行きませんか?」
「あ、行く」
パソコンをパタっと、たたむと、そそくさと浴衣を取り、蓮華に寄り添った。
さてと、忍も膝を叩いて立ち上がった。
「俺も、さっぱりして来ようかな。風呂の後、売店行きませんか?」
「行く行く」
俊は、大きな忍を廊下へと押し出した。
蓮華はスリッパを引っ掛けながら、彩花に振り向くと
「あと、お願いしますね。彩花」
パタンと扉が閉まる。
静寂と真希乃と彩花だけが、そこにあった。
壁にかかった時計から一秒を刻む音が、彩花の耳に届き始めた。
あとは、微かな真希乃の寝息だけ
真希乃の口元から漏れる微かな音に耳を傾ける。内からの鼓動音が大きくなるのに気づき、彩花は胸に手を当てた。苦しくなり、吐息のように、彩花の口から息が漏れる。
誘われるように、真希乃の唇に近づいていく彩花。
「あ・や・か・」
真希乃の口元から、溢れてきた言葉に一瞬、驚いた。
ふっと、笑うと真希乃の額に自分の額を重ねる。
「ばか・・」
このままでいたい。彩花は、思った。
モソモソっと、真希乃が寝返りを打ったので、彩花は慌てて、真希乃から遠ざかる。また、鼓動が激しくなる。
真希乃の寝顔が彩花の緊張を和らげる。
今の二人きりの時間がとても幸せに思えた。
真希乃の口元が動く。
「重たいよ、蓮華」
和らいだ空気が、瞬時に硬直して一気に砕け散った。
「・・・!」
愕然となる彩花。
むにゃむにゃする、真希乃。
「バカー!」
パーン 彩花の掌が、真希乃の頬を確実に捉え、パンパンに膨れた風船が割れた時のように響き渡った。
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