蜃気楼の向こう側

貴林

文字の大きさ
86 / 96
10 自由のために

二人の蓮華

しおりを挟む
自由の旗のメンバーに対して、容赦なく斬り込む、蓮華に似た人物。
自由の旗の兵士たちが群がる中を、すり抜けながら数人を切り捨てて行く。刀を手にした長髪の蓮華に似た女性の走り抜けた後を、バタバタと血飛沫を上げて倒れていく兵士たち。
その動きを馬上から見下ろすハイデル。
「レンゲ殿、いつからそのような武器を使うようになったのですか?それにその髪型もなかなかお似合いですな」
ハイデルは、以前会った時は素手で戦っていたレンゲを思い返していた。
「さきほどから、レンゲレンゲとうるさい男だ。私はレンゲなどではない」
冷たくハイデルをあしらうレンゲと呼ばれる女。
「かあああ、その顔。違ったレンゲ殿も悪くないですな」
呆れているレンゲは、刀に付いた血を血振りで払い落とすと敵の群衆を睨みつける。
「付き合ってられないわね。邪魔よ。お前は引っ込んでて」
レンゲが刀を肩に背負うと、その横に馬上のハイデルが並ぶ。
「そうはいきませんね。万が一にも死なれたりしては困りますからな。未来の花嫁殿」
「けっ、気色悪いやつだな。好きにしな。死んでも私には関係ないからね」
「承知。いざ推参」
前足を高々と持ち上げる愛馬レッドラビッドを駆り出すハイデルは、勢いよく自由の旗のメンバーに突っ込んでいく。
手にした槍を大きく振りかぶるハイデル。
その前に躍り出る影。
「あぶな!」
慌てて手綱を引くハイデル。
「ハイデル様、お待ちください」
両手を広げ、行手を遮る蓮華の姿を見たハイデルは驚いている。
明らかに装束が先程と違っている上、いつのまにか髪も以前と同じに短くなっている。
「あれ?レンゲ殿?」
ハイデルは、刀を持った髪の長いレンゲと目の前に立ち塞がる髪の短い蓮華を交互に見る。
「え?レンゲ殿が、2人?」
そこにロムル軍の兵士が蓮華に襲いかかる。
「バカ、よせ!」
遅かった。兵士は宙を舞う。
「おお、これぞ、まさしくレンゲ殿」
馬から降りるハイデルは、蓮華に駆け寄っていた。
兜を脱ぐと蓮華の前にひざまづいた。
これを見た兵士たちも釣られて、剣を納めると片膝を着いた。
ハイデルが、長髪の蓮華に声を掛ける。
「すまぬな、人違いをしていたようだ。悪いがこれより、我が軍はこちらに加勢する」
その言葉に兵士たちは、剣を抜き、髪の長いレンゲが率いる蜃気楼の影の軍勢に対して向き直る。
長髪のレンゲは、身じろぎもせず刀を肩に担いだ。
「勝手にするがいい。元から当てになどしていない」
ハイデルは、短髪の蓮華に向き直りひざまづくと、蓮華の手を取りその甲にキスをした。
咄嗟のことに、顔を赤くする蓮華。
それを見ている長髪のレンゲが、短髪の蓮華を睨みつける。
「お前も自由の旗の者か?」
「だったら、どうします?」
「答えるまでもない」
長髪の蓮華が消えた。
(結晶石?)
蓮華は気配を探る。
後ろに、空気の流れを感じた蓮華は、体を横にズラす。
ブン
長髪の蓮華の刃先が空を切る。
「ちっ」
舌打ちする長髪の蓮華は、それを横に薙ってくる。
間合いをとり、それを避ける蓮華。
喉元を剣先が、かすめる。
一刀のもと、首を獲ろうとするのがわかる。
殺しに対し迷いのない長髪の蓮華。
大きく間合いをとる短髪の蓮華。
「あなたは、誰?」
「ふっ、名乗る必要などない」
刀を鞘に収める長髪の蓮華。
抜刀術の構えである。
こちらの隙を伺っているのが、わかる蓮華も身構える。
周囲を取り囲む兵士たちが、髪型は違うものの背格好や顔つきがそっくりな二人を見て動揺を隠せないでいる、ただ見守る他はなかった。
そこに駆け寄る馬の蹄の音。
ハッと、気を取られる短髪の蓮華を見逃さない長髪の蓮華は、一気に飛び込んでくる。素早い抜刀術だ。
「ハスハ!」
馬上からの低い男の声にピクリとするハスハと呼ばれる女は、抜き去った刀を止める。
剣先が蓮華の首元で、止まっている。
蓮華の頬を流れ落ちる汗。男が声を掛けなければ首を落とされていたのかもしれない。この時、蓮華もまた、男の声に驚き動く事が出来なくなっていたのだ。
馬から降りたロングジャケットを羽織った男が、2人の間に割って入ってくる。
「ハスハ、もう良い。下がれ」
男を睨みつけるハスハと呼ばれる女性。
「何故ですか?」
「これは命令だ」
声に聞き覚えがあるような気がした蓮華は、どこか懐かしくて、胸を締め付けるが暖かさを感じながら男を見つめる。
「しかし、サトル様」
(サトル?)
その名が、蓮華の胸を更に締め付ける。
忘れていた何かを思い出した気がしたが、すぐに消えてしまった。
男の横顔が、更に蓮華の心を締め付ける。息が苦しくなって、呼吸が荒くなり吐息にも似た息を吐く蓮華。
「この場は、引くぞ。いいな。ハスハ」
「く・・・」
逆らえず刀を下ろすハスハ。
「ハスハ・・・」
サトルは蓮葉の肩にそっと手を置く。
「行くぞ。一度、撤退する。いいな」
「はい。サトル様」
ハスハは、深く呼吸をし、刀を鞘に収めると蓮華に背を向ける。
男の瞳が、いつくしむように蓮華を見る。
「・・・蓮華殿」
「え?」
その優しい瞳が蓮華の心に何かを訴えかけてくるが、それがなんなのかわからない。
蓮華は高鳴る鼓動に胸に手を当て、それを鎮めようとする。
「・・・サトル・・」
声にすると、蓮華は涙をこぼしていた。
でも、その理由がよくわからない。
馬に乗るサトルは、ハスハの手を取ると後ろに引き上げた。そのサトルの背中にしがみつくハスハを見て、胸を締め付けられる蓮華は、唇を噛んでいる。嫉妬している自分に気がついていない。
隊を颯爽と引き上げて行くサトル。
土埃だけが後に残った。統率の取れた指揮が鮮やかである。
ハイデルが、蓮華に歩み寄ると胸に手を当て敬礼をする。
「レンゲ殿、お恥ずかしい所をお見せしてしまった。レンゲ殿を見間違えるとは情けない」
「仕方のない事です。自分でも驚いているくらいですから」
自分に瓜二つであったハスハを思い出している蓮華は、サトルの事が気になって仕方がなかった。
「そう言って頂けると救われます」
様子を見ている麗美たちに対して、蓮華がお辞儀をして危険がないことを伝えている。
そのやりとりを見たハイデルが表情を硬くする。
「レンゲ殿、もしや、あなたは自由の旗の一員か?」
「そうでは、ありませんが、敵対もしていません」
「そうですか、自由の旗と蜃気楼の影は、我々の敵。場合によってはこの場で切り捨てねばなりません。だが、私はあなたの味方です。一旦、この場は引きます。私としてはレンゲ殿を斬りたくはない。出来ることならば、我が方にあなたを迎え入れたいと思っております」
「それは・・・」
「すぐにとは言いません。私は待っております。いつでも、連絡を下さい。お迎えに参ります」
「はあ・・・」
困り果てている蓮華を見たハイデルは、何かを思いついたように部下の一人を呼んで、何かを指示すると部下が箱を持って戻ってきた。
それを受け取るハイデルは、その箱の蓋を開くとメロンほどの大きさの卵を蓮華に差し出してきた。
「これは、何かの鳥の卵かと思います。うまく孵すことが出来れば何かと手助けになることでしょう。私はうまく出来ませんでしたが、あはははは」
照れたように笑うハイデル。
「鳥・・・.ですか?」
「鳥といっても、少し特殊でしてな。普通に温めれば良いと言うものではないようです」
「はあ・・・」
「ぜひ、卵から孵して育ててみてくだされ」
「は、はい、ありがとうございます」
ハイデルは、懐に手に差し入れると何かの札のようなものを取り出し蓮華の手を取ると、握手でもするかとように隠すように手渡した。やや小声で、語りかけるハイデル。
「あとこれは、通行証です」
「通行証?」
「ロムル軍の監視下にある場所に立ち入る事が許される証明書になります」
「え?」
「裏に自身で名前を刻んで下され」
ハイデルの名が記された木札であった。これがあれば、大抵の場所には出入りが出来てしまう代物だ。
「でも、こんなもの頂いては・・・」
木札を押し返そうとする蓮華を止めるハイデル。
「私は貴女を信じています」
真っ直ぐに蓮華を見るハイデルに迷いはないようだ。
「わかりました。そのご好意に反しないように使わせて頂きます」
ニコリとするハイデルに、釣られて笑みを浮かべる蓮華。
「木札の裏にレンゲ殿の名前を刻むのをお忘れなく。では、いずれまた」
頭を下げるハイデルは、愛馬にまたがると隊を引き連れて退いていった。
卵の入った箱と木札を手にしたまま、呆然と見送る蓮華は、あまりに、色々なことが降りかかり、その場に崩れ落ちて膝を着く。
麗美、俊、ナミリア、京介、弥之助たちが、蓮華に駆け寄ってくる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...