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十一突き目 忘れたい過去

心の傷?

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作業を終えた恵と琴音は、道具も積み終えて帰社に着いていた。
沈黙を破ったのは琴音だった。
「恵さん」
「ん?」
「さっきのが、元カレなの」
「うん、なんとなくわかったよ」
「そっか・・・」
それきり、会話が途絶えると
「何も聞かないんですね?」
琴音が、下を向いたままポツリと言う。
「聞く必要はないと、思うから」
「私の過去なんて、どうでもいいの?」
「そんな意味じゃないよ」
「だったら・・・」
「聞いてもいいの?」
「あ、うん。聞いてください」
「わかった。なら」
「うん」
「なぜ、別れたの?」
「彼が出て行ったからよ」
「なぜ?」
「なんでだろ?最後にすごく怒ってた」
「怒る?何があったの?」
「あ・・・」 
「言いにくいなら、無理しなくていい」
「ううん、無理とかじゃなくて」
「ん?」
「私が、あいつを拒否したからかな」
「拒否?っていうと何を拒んだの?」
「縛られる事」
「え?」
「あいつ、私のこと縛りたくて仕方がなかったみたいなの」
「そ、そうなんだ」
意外だった。独占欲の強い琴音なら、自分のことも独り占めにしてほしいと考えると思っていたから。
「あいつ、私の事縛り上げて浣腸したいとか、言うんですよ」
「え?そっち?」
恵は、縛ることを束縛と勘違いしていた。
「え?そっちって、何と比べてそっち?」
「あ、いや、それはいいよ。要はSMってこと?」
「そうなんです。お前、変わってるから好きだろって言って」
「まあ、確かに変わってるとは思うけど」
「否定はしません」
「ああ、ごめん」
「いいの。でね?そうなる前にも、手錠プレイとか、ロウソク使うとか、拘束するのが楽しくて、あいつすごく私を求めてくれたのね」
「あ、そうなんだ」
頭の中で想像したら、ムズムズとしてしまった。
そうされている時の、琴音の顔を思い描いていた。なんだか、興奮している自分がいた。
動けなくして、相手をイジる。
または、その逆もアリだと恵は思っていた。
「聞いてます?恵さん」
「あ、うん、聞いてるよ」
「やっぱ、恵さんもやりたいですか?そういうの」
「え?」
(やってみたい。むしろ、やられてみたい)
「ひどい時には、両手両足縛られて、極太バイブを無理矢理押し込まれたこともありました。その時は、さすがにすごく痛かったです。それでも、あいつは喜んでくれましたから受け入れてましたけど」
恵は、そんなものがお尻に入ったらと想像していた。
ほんの少し、やってみたいと思ってはいたが、やはり痛そうだ。
その顔を見た琴音。
「やっぱ、普通はそうなりますよね?なのに、あいつは平気でそういうことをしたがるんです。それが、段々怖くなってきて」
「それで、拒んだんだね?」
「そうです。もう狂ってしまいそうでした。怖いとしか思えなくなって」
「なるほど、それでさっきはあんなに?」
「う、うん」
「でも、まだ好きなの?」
「え?」
「あ、ごめん。なんとなく、そんな気がしたんで、気にしなくていいよ」
「好きと言えば、好きなのかもしれない。時々、体が疼いてしまうことがあるんです」
「え?」
「・・・縛られたいって」
危うくハンドルを切り損ねるところだった。
鼓動が激しくなっていた。
やってみたい。そう思っている自分がいた。
「あいつに仕込まれたんです。ある意味」
「え?て、何を?」
「ち○ことか、おま○ことか、平気で言えてしまうことです」
「あ、なるほど・・・」
「しながら、ち○こがほしい。頂戴って言ってみろって」
「それでなんだね。ストレートにものが言えるのは」
「そうかもしれません」
複雑だった。今の琴音を作ったのは、元カレなのだ。その琴音を可愛いと思っている恵。
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