【アルファポリス恋愛小説大賞奨励賞いただきました】三人

浅野新

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聖司

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「聖司君、はい、遊園地のお土産」

 僕がポトスに水をやっていると、さくらさんがプラスチック製の可愛い箱を手渡した。見ると、中にポップコーンが入っている。

「キャラメルポップコーンって言ってね、美味しいのよ、食べてみて」
ありがとう、と僕は如雨露を脇に置き、ピンク色の箱を開けた。中からふわりと甘い香りが広がる。こげ茶色のポップコーンを一つ取って、口に入れた。ぽりぽりとしばらくかじる。

「・・・すごい。ポップコーンが甘い」
「でしょう? 私も最初びっくりしたわ。でもこれが、慣れると結構美味しいのよ。止まらなくなっちゃうの」
「こんなの売ってるんだ」
「そうなの。最近の遊園地って楽しいのね、いろんな珍しい食べ物を売ってたり、乗り物も楽しかったし、あんなに面白いとは思わなかったわ」
 楽しそうに話すさくらさんを見て、僕もにっこりと微笑んだ。こちらも幸福な気持ちに満たされながら。
「曜は、はしゃいでた? あいつ遊園地に行くとテンション高くなるから」

 そう聞いた瞬間、何か不思議な間があった。さくらさんは、え、曜? と不思議な顔をした、気がした。
まるで、今まで曜の事を忘れていたような。

どう不思議なのかはよく分からないけれど、その奇妙な感覚は僕の中に残った。

 でもそれもほんの一瞬の事で、さくらさんはすぐいつもの穏やかな笑顔に戻った。

「ええ、とても。楽しかったわよ。でも、彼は目立つから、周りの女の子達の視線がちょっと痛かったわ」
 だろうね、と僕もあいずちを打った。
「曜はもてるから」
 やっぱりね、と今度はさくらさんがもっともらしく頷いた。
 その顔があまりに真剣だったので、僕は笑いながら、
「さくらさんも、もてるよね」
 と言った。
「そうなの? 」

 彼女は先程よりも益々真剣に考え込んだ。
世間の‘もてる’と言われる標準と、自分の場合がどうなのか考えているに違いない。

でも、きっと分からない。もともと‘世間’を気にしない人だから。
案の定、彼女は考え込んでいる。僕は言った。

「結婚したらいいのに」

 彼女は驚いた顔をし、僕を見つめた。
「大切にしてくれるよ、すごく」
「・・・そんな事恋人に言われるのって初めてね」

 そうかな、と僕はポトスの水遣りを再開しながら答えた。

 そんなものかな。
 でも。
 絶対幸せにしてくれるだろう。僕は確信している。

 自分になびかない、いい女なんて。
 結婚したら情熱的に愛してくれるに違いない。
__女が自分を愛するようになるまで。

 ほとんどの男はそんな生き物だから。

そう言うと、さくらさんは、なるほどね、と笑った。
「でも聖司君はそんな人じゃないでしょう。そういうタイプには見えないけど」

 僕は思わず苦笑した。
 確かにそんな冷めるまでの情熱は持っていないけれど__。

 信じてもいない。

 永遠の愛なんて。

 だから、曜が羨ましいと思う。
 何度恋に破れようと、信じ続けられる曜が。

恋なんて一時の錯覚だと思う。
自分が相手を愛していると言う事も、相手が自分を愛してると言う事も、全てひと時の錯覚。
日常と言う現実の中で、時に錯覚を見られるから、人生は楽しいのだと思う。しかし錯覚だから永遠に見る事はできない。

 それでも、曜は錯覚を見続けられる事ができる稀有な人間なのだ。
 時々思う。

 さくらさんと僕が家族だったら良かった。

親子でも、兄弟でもいい。家族と言うだけで、産まれた時から愛を獲得している。一緒にいても同じ物を見て同じ事を感じてもそれが全て許される愛。永遠の絆がある事が許される愛。
僕もそんな愛が欲しかった。

 そうしたら、恋をする羽目にならなくてすんだのに。

 恋をする事は簡単だ。二人いたらできる。一人でもできる。

恋を続ける事が難しいのだ。

 ふと気付くと、さくらさんがじっとこちらを見ていた。

 何、と思わずどきりとする。
「聖司君、悪いけどまたモデルになってくれない? 以前描いたのは気に入らないのよ、何となく」
 いいよ、それぐらい、と僕はほっとしながら笑い返した。
 

 さくらさんのアパートを出てから、僕はようやく先程の彼女の表情が不思議に見えた訳を悟った。

 何故そう見えたのかは分からない。
ただ、あの時の彼女は、自分が相手に話していた重要な事を断ち切られたような、

傷ついた顔に見えたんだ。

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