異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明

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絶望に咲く彼岸花

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「あの人達の中に見知った顔が何人もいる。その誰もがフィレンのスタンピードで亡くなった人達だ。」

その事実は一つの真実を表していた。

「たしか、カイくんがコウさんと命からがら逃げたって言っていたあのスタンピードですか?」

「うん。今思えば何かしらの意思によって守られていたんだろうね。僕ら以外の生き残りはほとんどいない。もし、死体を生き返らせることができたら、あそこは彼らにとって宝庫だろうねっ!」

短剣で向かってくる人間の首を切り落とす。が、数秒後にはまた首が生えてきた。

「…っ!」

声にならない悲鳴をあげたのはアイリスだった。

「…そうか、君は人を殺したことがなかったね。これ、形は人だけど魔物だと思ったほうがいい。どうみても腐ってないだけでゾンビの類だからね。一度君の光魔法を当ててみてくれる?…アイリス?」

「ハッ…ヒュッ…」

アイリスの喉から過呼吸のようなそんな音がした。顔も真っ青だった。

一瞬で悟った。これはダメなやつだと。

僕は何も分かっていなかった。失念していた。普通の人には恐怖耐性の他に、グロ耐性がないということを。

コウやエレンは普通に盗賊を魔物のように殺せる精神力をしていたけど、あの2人を普通だと思ったらダメなのだ。

この世界の人じゃないならなおさらそうだ。日本でそういうことは滅多に起きないし、それを目撃することもほとんどない。平和な国で生きていた人が転生して、貴族ならなおさらそういうこととは無縁の世界にいたはず。魔物はともかく人はさすがにこの短時間で慣れるわけがない。

ただ、アンデット系なら光魔法じゃないと倒せないからな…しかたない、あれを使うか…

腰につけていた魔法鞄に手を突っ込み魔法陣が描かれた紙を取り出した。

「…アイリス、ひとまず落ちつくまでの時間は稼いであげる。適応するんだ。ここは、戦場の中なんだ。君の選択によって生きるか死ぬかがかかってる。…僕は君を信じている。君は僕が見てきたどんな女性ひとより賢くて強いから。」

それだけ言って僕は魔法陣を起動させた。

アイリスが適応できなければ、僕はおそらくここで死ぬ。光魔法が使えない僕一人では絶対に勝てないからだ。

それでも、僕に逃げるという選択肢はない。彼女には指一本触れさせないという想いだけが、僕の手足を動かせた。気づけば、剣に反射して映った僕の瞳は金色に光っていた。


アイリス視点

カイくんが人の首をスパンと切り落とした時、無理だと悟った。ホラー映画とか、推理漫画の死体とか、そんなものは子どものお遊戯に思えた。断面から血が噴き出して、いろんなものが飛び出す。

どうしてカイくんはそんな残酷なことができるの?そう思わざるにはいられなかった。

後ろを振り向いたカイくんは何でもないような、そんないつもと同じ顔をしていた。

「…そうか、君は人を殺したことがなかったね。これ、形は人だけど魔物だと思ったほうがいい。どうみても腐ってないだけでゾンビの類だからね。一度君の光魔法を当ててみてくれる?…アイリス?」

「ハッ…ヒュッ…」

気づけば過呼吸を引き起こしていた。目の前にいる存在がいつも見ていた彼ではない気がした。

私のそんな様子を見てカイくんは口を開いた。

「…アイリス、ひとまず落ちつくまでの時間は稼いであげる。適応するんだ。ここは、戦場の中なんだ。君の選択によって生きるか死ぬかがかかってる。…僕は君を信じている。君は僕が見てきたどんな女性ひとより賢くて強いから。」

カイくんはそれだけ言って階段を滑り降り一階に降りて行ってしまった。

どうしたらいい?私には何がある?何ができる?
___答えは簡単だ。何もできない。

こんな震える足で戦えるのか?私に人が殺せるだろうか?

否、否、否…できない、私には…

その時、どこかで声が聞こえた。

『アイリス、あの少年はあなたのために戦ってる。あなたが戦えなければ二人とも死んでしまうわ。大丈夫、あなたなら大丈夫よ。あなたなら力を正しいことに使えるわ。』

聞いたことがない声。それでも何か懐かしい気持ちがした。途端にぶわっと自分の中にある何かが湧き出してきたのが分かった。

いける、戦える。そう思うには十分なほどの自信と勇気が私の中に灯った。

殺らなければ殺られる。私が行かなければ大切な人を守れない。
カイくんはいつも私を助けてくれた。守られてばかりじゃ終われない。
私を信じて、今命をかけて戦ってくれている人がいる。その信頼に応えなければ。

そう思って私はしまっていた杖を取り出した。

その時、ガラスの破片に映った私の瞳は金色に輝いていた。

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