異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明

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アルバード王立高等学院~嵐の前の静けさ~

幻影のシグナ

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コンコンと控えめにノックをすると返事の代わりに扉が開いた。

「あら、カイくんじゃない。どうしたの?」

「学院長に話しておかないといけないことがあって。」

「…そう。分かったわ。そこに座って。」

おそらく来客用であろうふかふかのソファーに腰をかける。学院長は机の上にお菓子を置いて向かい側のソファーに座った。

「ここ数日、まじめに授業を受けているらしいじゃないの。先生方、泣いてたわよ。」

「…一応言っておきますけど僕の意志ではないですからね。」

「知ってるわ。報告を受けたもの。それでも以前のあなたならそれすらも無視していたでしょうし、そもそも肝試しに行くこともなかったでしょう。すごい成長だわ。もちろんいい意味でね。それで?肝試し中に何か見つけたんだね?」

「その様子だと、今日僕がここに来ることも知っていたんじゃないですか?…まあいいです。西館付近に嘆きの亡者ユールレインがいました。至急調査をお願いします。」

「…そうか、カイくんは嘆きの亡者ユールレインの正体を知っているんだね。」

「ええ、知っていますよ。」

「あれは本にもあまり載っていない珍しい現象なんだけどよく知ってたね。」

「あんな鬱陶しいものを毎夜見て正気を失わされるぐらいなら、死に物狂いで本をあさって消滅させる方法を探しますよ。」

「そうか…君の家では何体見た?」

「50体からは数えるのをやめましたよ。…不思議でしょう?」

人生で一体でも見れたら奇跡と言われるほどの現象を何十回も体験した。

「確かにそれは不思議だね。…ところで顔は見たかな?」

「…ええ。本題はそれです。嘆きの亡者ユールレインは基本的に死んだ直後の顔をしています。なので首を斬られて殺されたら首と胴体が切り離された格好になりますし、きれい状態で死ねばそのままきれいな顔が現れます。今回のは誰だか分からないほど半壊していました。それはもうめちゃくちゃに。」

まあ暗かったからアイリスには見えていなかっただろうが…

「じゃあ誰だかは分からないっていうことかな?」

「いいえ。制服と、辛うじて残っていた右耳を見る限り『リース・ビション』と推測しました。何者かによってこの学院で殺され乗っ取られたと見て間違いないでしょう。嘆きの亡者ユールレインは死んでから半年から1年以内に現れるといいますから大体の時期も割り出せるはずです。…やはり、学院の結界に欠陥があるのでは?」

リース・ビションはリリアン王女殿下と参加した特別試験で襲ってきた奴だ。

「そうかもしれないね。ただ、たとえ欠陥があったとしてもハルシャ家二代目当主の作った結界以上にすごいものはこの世にはないよ。」

「そうですか…嘆きの亡者ユールレインについては学院長におまかせしてもいいですか?」

「ええ、もちろんよ。任せなさい。」

「それと、ついでに飛び級試験の話をしてもいいですか?」

「答えるかは分からないわよ。」

「構いません。飛び級試験はどうやって採点しているんですか?」

僕がそう言うと、学院長はなーんだそんなことかというように軽くソファーにもたれかかった。

「問題は各教科の先生だけど採点は事務の人達ね。それがどうかした?」

なるほど、、事務か…それは盲点だった。学院の教師の名前と顔は全員覚えている。その中からアイリスに敵対しそうな家の人達はいなかったから金でもつかまされたのかと思っていた。でも、採点官が事務員であれば話は違ってくる。事務員の名前や顔は公表されていないため僕は知らない。普段関わり合いがないし仕方がないが…

「この前の飛び級試験のアイリスの点数をご存じですか?」

「ええ。90点よね?もちろん知ってるわ。」

「あんなくだらないテストで彼女が満点を逃すと思いますか?」

「まあそう怒らないで。私は確かに学院長ではあるけれど、個々の生徒の成績までは知らないんだよ。飛び級試験の結果は重要事項だから別だけどね。…まあカイくんがそこまで言うなら一度調べてみよう。たたけば何か出てくるかもしれないしね。」


その夜
第三者視点

「学院長?何をそんなに気味悪く笑っておられるのですか?」

副官がそう言って牢屋の鍵を渡す。

「あら、今の私の顔はそんな風に見えているのね。」

「ええ。とっても怖いですよ。」

「仕方ないじゃない。まさか事務員が不正を行っていたとは思わなかったんだから。テストの点数を変えるだけじゃあきたらず、まさか学院の運営資金にまで手を付けているとは、驚きを通り越してあきれるわ。厳正に処分しないとね。国から貰っているお金に手を出したんだから奴隷落ちもありえるわ。まあそこまで正気でいられるとは思わないけどね。」

牢屋に続いている階段を降りながらクツクツと笑う上司に副官は心の中でため息をつく。

「殺したらダメですよ。」

「殺す?何を言っているの?そんな無駄なことはしないよ。死んだほうがましだと思わせるだけだ。」

笑顔で地下牢へと進んでいく上司を横目に副官は立ち止まりお辞儀する。

「…さすが、『幻影のシグナ』だ。」

副官の独り言は誰に聞かれるわけもなく静かに消えていった。
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