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第二章
異世界の洗礼
しおりを挟むやばいほど暗い。
夜になれば、何処かに灯りが見えるのではと思ったが、空の星々以外は真っ黒だ。
特に、地面なんて1メートル先も見えやしない。
原生の闇の恐ろしさを感じる。
女神さまの荷物から火打ち石を取り出したが、『明るい内に薪を集めておくべきだった』と心底後悔する。
ユニコを頼りに歩き回り、やっと大きな倒木を見つけてそこでキャンプする。
大振りなナイフもあったので、木を削って薪にするのだ。
「まさか、サバイバルになるなんて驚きですねえ」
一人ではないのが救いだ。
「すまぬのう、わたしが迷惑をかけるばっかりに。けほけほ……」
女神さまは、まだ病人の真似をするくらいの余裕がある。
そもそもこの人、いや神、怖いとかって感情あるのかな?
「う~ん、余りのんびりも出来ぬが、これはのんびりするしかないな」
水も食い物も鞄から出てくるし、毛布もある。
寝そべるユニコを枕にした女神さまは、意外と快適そうだった。
ま、直ぐにお力も戻るでしょう!
慌てぬご主人様の様子に、俺も少し安心した。
しかしだ、夜が更けるとぐんぐん気温が下がり始めた。
「ちょっと寒い……」と、女神さまが初めて泣き言をいった。
わたくしめが何とかいたしましょう!
焚き火の燃えカス、といっても炭だが、これを地面に埋める。
その上に布を敷いて、女神さまをおいて毛布をかける。
「いかがですか?」
「おお、暖かい! なるほどな、そなたらが火を崇める気持ちもよく分かる!」
にこにこと笑う女神さまが、ひょいっと手招きする。
なんですか? もっと近くにですか?
「ゆーた、お前もここで寝ろ。一人では寒かろう」
俺に衝撃が走る。
スキル<<女神のお誘い>>、何者も逆らえないってやつか。
『いやーけど無理っす。ただの青髪の美少女になった”めがみん”と添い寝すれば、とんでもない事をしてしまう!』
「いえ、自分は火の番があるので……」
穏便に断ったが、ご主人様は逃してくれない。
「ここだ、ここ!」と、俺を目の前において背中をユニコを預ける。
下僕の二体に挟まれて、満足そうだ。
「うん、あたたかい」
そのまま横になって、何の警戒もなく目を閉じてしまった。
むしろ警戒してるのはユニコの方かな。
「大丈夫だよ。お前に乗れなくなるような事はしねーよ」
そう言うと、『ぶひひ』とエロそうに笑いやがった。
こいつ言葉分かるのか。
つーか野生馬のくせに横になって寝るとは何様だよ。
地中から伝わる熱と、背中にひっつく女神さま。
両方のあたたかさで、俺も直ぐに眠りについた……。
ツンツンと、固いものが俺をつつく。
だ、駄目です、そこはダメー! といったとこで夢から醒めた。
辺りはまだ暗く、焚き火は小さく燻るのみ。
俺を起こしたのは、ユニコだった。
伝説の馬は何時になく真面目な顔している、普段は緩んだエロおやじのような目をしているのだが。
「何か来るのか?」
咄嗟に聞くと、ユニコは角を上下させた。
ユニコが立つのを手伝い、熟睡する女神さまを背に乗せる。
猫のようにぐにゃぐにゃだ、頼むから起きてくださいよ!
うつぶせのままユニコの背に縛り付けたところで、それはやってきた。
『ブフッ―』と大きな獣が息を吐く音がして、残り火が両眼に赤く反射する。
でけぇ。
クマのようにも見えるが、横幅がトラック程もある。
ううぅ……前世の最後がよみがえる。
女神さまを守るために勇気を振り絞り、俺はナイフを、ユニコは角をそいつに向けた。
この世界で初めて会ったモンスターは、四本の足で立ち上がる。
ついでに振り上げた前足は二本、つまり六本脚だった。
「ユニコ、逃げろ!」と叫んだ。
持ち上げた上半身だけで三メートルくらいある、とても敵わん!
ずんずんと距離を詰めてくる怪物から逃げ回る。
そんなに素早くないのが救いかと思ったら、六本の足で走ると速い。
ユニコーンはともかく、俺の足では逃げ切れなかった。
凄まじい圧力がのしかかり、頭をひと飲みにしそうな口が迫る。
『女神さま……我が遺体 故郷の土に 帰してね……残ってればですけど』
これが辞世の句になるはずだった。
俺の頭を噛んだはずの牙が、一本折れた。
『ぎゃん!』と犬みたいな声をあげて、モンスターは飛び退いた。
お前もびっくりしたか、俺も驚いた。
今度は巨大な爪で殴られた。
5メートルは吹っ飛んだが無傷だ。
また噛みつかれたが、やっぱりやつの牙は通らない。
「あーそういや。前回お前にやった力、回収してなかったわ」
いつの間にか目覚めた女神さまが、ユニコの背からそう告げた。
それって、惑星の中心核まで降りても平気なやつですよね?
ならこんな小グマの攻撃なんて、屁でもないじゃないっすか!
「もっと早く言ってくださいよ!」
苦情を申し立てつつ、俺は元気よくナイフを構え直す。
それからは、壮絶な消耗戦になった。
殴るモンスター、吹っ飛ぶ俺、ナイフでちょっとずつダメージを与える。
俺もクマも、体力は限界だ。
そ、そろそろ、友情が芽生えても良いんじゃないですかね。
夜明けも近く、空はかなり明るくなった。
「食えない相手でも戦いを優先してしまう。これが野生と魔物の違いなのじゃ……」
ユニコの背から一歩も降りずに、女神さまが解説する。
そんなことより、早く力を取り戻してください……。
モンスターは、遂に後ろの二本足で立ち上がった。
しかし、その大きな隙に弓矢が背中に突き刺さる。
『助けが来た!?』
矢の来た方向、朝もやのかかる森の中から、弓を構えて誰かが出てくる。
「次は、毒矢だ」
静かにそういった声は、女のもの。
それを理解したのかは分からないが、クマ型のモンスターは、じりっと下がると背を向けて逃げていった。
朝日に照らされた髪はピンク。
顔はたれ目で幼いが、ひと目で女性と分かる体型、そして飛び出た耳!
「はえーエルフだぁー」
俺の口から、間抜けな感想が出た。
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