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第三章
はじめてのボス
しおりを挟む単独出張。
人使いの荒い上司と、何時も喧嘩する二人の新入社員から離れて、俺は遂に異世界での冒険に踏み出した。
こういうのも悪くない、これが素直な心情。
町外れの『ウェスタの天塔とエスタの底穴』まで、俺の足は軽すぎてスキップしそうになる。
「冒険者証はあるか?」と、二つのダンジョンを管理する冒険者ギルドの職員に聞かれる。
先程登録したばかりの冒険者証――認識票のような金属プレート――を見せる。
「おいおい、ど新人かよ。”塔”はダメだぞ?」
職員に釘を刺された。
天塔と底穴は隣接している。
何でも同じ深さと高さだとの噂で、どちらも一千メートルを超えるとか。
そして、塔の方が格段に出るモンスターが強いそうだ。
現在のところ、底穴の方は確認された限りの全33層を踏破したが、天塔はいまだ16層までしか辿り着けていないそうだ。
「はいっ! 用があるのはエスタの底穴の方です!」
期待に胸膨らませる俺は、返事も素直になる。
「そうか。といっても、穴の方も5層以上はルーキーには厳しいぞ?」
いい笑顔で答える俺の為に、ギルド職員は少し解説してくれる気になったようだ。
「4層までは直通の通路がある。だがルーキーなら3層までで慣らすんだな。そして5層にはボスが居る。その先も5層ごとにボスだ」
「あの質問です!」
俺は手を挙げて質問の許可を求め、職員さんも乗ってくれた。
「よし、なんだ?」
「ボスは倒されて消えないんですか?」
流石に気になってしまった。
「それがな、ボスは一日に一回、下に続く部屋に現れるんだよ。そしてその部屋で倒した者達だけが次の層へ進める、そういう仕組みだ」
ほおー、それじゃ急いでも6日はかかるなあ。
みんな大人しく待っててくれれば良いけど。
「今でも、穴の需要は高い。何と言っても塔は敵が強いからな。中級者以下向けに、キャラバンやパーティ募集もある」
職員さんは本当に丁寧に教えてくれる。
最後に「どうだ、装備の確認もしてやろうか?」とまで言ってくれた。
防具、鎧・盾・兜などは、さっきの街で買った中古品だ。
薬草に食料や水、調理道具に火の道具や毛布もしっかりチェック。
そして俺の剣と槍を見た職員さんは、思わず感嘆の声をあげる。
「ほぉー……これは凄い! いや、大声だしてすまん。だがこんな造りの物は見たことなくてな。新品……のようだが、ひょっとして良いとこの坊っちゃんか?」
女神さまに貰った神授の武器です! とも言えずに何となく誤魔化す。
職員さんは一段声を落とした。
「良い装備の新人は狙われやすい。モンスターでなく人にな。悪いことは言わん、冒険者の酒場で信頼出来る仲間を探すんだな」
心をくすぐる単語の連続に、俺の気分は最高潮に高まる。
丁寧にお礼を言ってから、二つのダンジョンの近くに構える”冒険者の酒場”に乗り込んだ。
「これで酒をくれ。残ったら持ってくから瓶でな」
酒場に乗り込んだ俺は、宝石を売った残り、数枚の金貨をカウンターに置いた。
ちらっと金貨を見たマスターは、俺の前に十本以上の酒瓶を並べる……。
あれ? 多すぎたかな。
まあいいや、「皆に振る舞ってくれ」と言って酒場の中を見回す。
飲んでいた冒険者達から歓声があがり、人生で一度は言いたかった台詞を言えた俺は有頂天。
次々に乾杯を受けながら、じゃんじゃん酒を飲ませて飲んで……こうして俺の冒険初日は終わった。
『明日から。明日から本気出す!』
そう決心しながら、安宿の布団に潜りこむ。
ただのリーマンだった俺が、そんなほいほいダンジョンに潜れる訳ないじゃないですか……と言い訳しながら。
翌日、目を覚ました時には、すっかり日が登っていた。
そして俺は自分の失敗を悟る。
日本の感覚で泥酔した俺がバカだった、荷物がない!
抱えて寝てた剣だけはあるが、その他は槍も財布もみんな盗られた。
『やばい、女神さまに怒られる!』
真っ先に浮かんだのがこれだった。
最近は優しい女神さまが激怒するかと思うと、どんなモンスターよりもずっと怖い。
慌てて跳ね起きて、宿の人に怪しい奴が居なかったか聞く。
ポケットに残った数枚の金貨を押し付けたのが効いたのか、明け方に赤い槍を持った奴が出ていくのを見たと教えてくれる。
「で、そいつは?」
「穴の方に行きましたよ。最近は4階で市場が立つってんで、そこじゃないですかね?」
「ありがとう!」と言ってから宿を走り出る。
塔の方でなくて良かったが、こそ泥が強い方に行くわけもないか。
せっかくの一人旅を楽しむ間もなく、『エスタの底穴の一層』へ。
うわー天井が高い、30メートル近くある。
広さも1層だけあって数キロ四方はありそうだ。
謎の光が差し込んでるし、植物もたくさん生えてるが……無視。
4層までの直通路――ただの縦穴だったが――を見つけると、飛び込んだ。
30メートルほど落ちて地面に叩きつけられる。
突然落ちてきた間抜けなルーキーに、周りの冒険者の目が丸い。
「お、おい、大丈夫……」かと聞かれる前に、2層から3層へ続く穴を見つけてダイブ。
創世神のご加護がある俺にとって、この程度の衝撃は何ともない。
使い方は間違ってる気がするけど。
あっという間に4層まで着くと、そこはバザーだった。
長年の攻略の成果なんだろう、ダンジョンの一角が大きな市場になっている。
『えーっと。<<探索>>、女神さまの武器を探せ!』
直ぐに2つの反応が出た。
一つは俺の背中の剣、もう一つは……あっちだ!
走った先では、如何にもシーフって感じの奴が値段交渉してやがる。
「おい、これだけの逸品だぜ? その値段じゃ売れねーよ!」
「槍の造りは見事ですが……特に何の魔法もかかってませんからなあ……」
おいおい、女神さまご謹製の神槍だぞと思いながら、全力で走り寄るとシーフに気づかれた。
くそ、逃げ足が結構速い!
『えーっと肉体強化系は……』
俺は貰った1ダース程の能力を探って、<<加速>>のアビリティを発動。
一気に追い詰めるが、シーフは5層へと逃げこむ。
『しめた。5層で行き止まり、もう逃さん!』
何やら巨大な部屋の入り口で、シーフを追い詰める。
部屋の前では、十数人の冒険者が点呼を取って装備の点検中……これボスの出現場所か。
「返して欲しけりゃ取りに行け!」
シーフの野郎、部屋の中に女神の槍を投げやがった!
俺は、当然ながら迷わず部屋の中へ……その前に、逃げるシーフを再加速して捕まえた。
俺とシーフが部屋の中へ入ると同時に、扉が閉まりだす。
外の連中が大声を出すが、左手で掴んだシーフも喚いていた。
「て、てめー! なんてことするんだよ!? このままじゃ二人とも死ぬぞ!」
どうやら、俺がボスに躊躇して本日の討伐隊に合流、その隙に逃げる気だったらしい。
もう一つの扉が開き、四足の胴体に蛇の頭が三つの化物が出てくる。
「ま、まじかよ……幾ら5層でも二人でなんて……」
小柄なシーフは、その場にペタンと座り込む、女の子座りで。
『ん?』と思ったが、今は先にボスを始末しよう。
探索――敵は一体、解析――特記事項なし、全力加速から一気に首へと剣を合わせる。
蛇の頭が一つ残って噛み付かれたが、まあ牙が俺に通るわけもなく、それは拳骨で殴り潰した。
ぽかんとした盗人のとこへ行き、首根っこをがっちり捕まえた。
「次に逃げたらああするぞ」とボスを指差し、俺はシーフの小娘を引き連れ6層への階段へ向かった。
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