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第三章
理想の冒険者
しおりを挟む「悪いことは言わん、やめておけ」
「親子ともども死ぬことはない」
「というか、良くここまで来れたな」
29層のベースキャンプ、そこに居た冒険者の誰もが引き止めてくれる。
血気盛んな冒険者は、未知の天塔へいく。
既に攻略された底穴の最下層に来るのは、実力はあるが変わり者ばかりらしい。
「ユウタは強いから平気だよ。それに、ボクたちは親子じゃないよ!」
シース改めクルミが余計なことを二つも言う。
「なにぃ~? それで子連れとはどういう事だ」
「よく見たら、坊主でなく女の子か?」
ここの冒険者は比較的”まとも”なようで、剣呑な空気が流れる。
リーダー格の男が、すっと立ち上がって喋った。
「少し、事情を聞かせて貰おうか。最近は良からぬ事をする輩が増えたんでな」
リーダーの男――ジェイドと名乗ったが――は、腰に手をやり有無を言わさぬ調子だった。
だが、クルミがジェイドの前に立ちはだかる。
「ユウタは悪い人じゃないやい!」
がるる、と喉でも鳴らしそうな剣幕で吠える。
俺を擁護してくれてるが、年端もいかない少女をこんな所まで連れてくる奴は、まともな大人には見えないだろう。
それに、個人で戦っている冒険者が、急に現れた子供に『こっちの方が強い』と言われてカチンとこない訳がない。
「落ち着いて、そうじゃないから。すいません、根はいい子なんです」
クルミをなだめつつ、冒険者にも謝罪した。
様子を見ていたジェイドが、剣から手を離して座り直す。
やはり、人狩りをする冒険者の一味かと疑われていたようだ。
クルミは、なんだか不満そうであった。
「なんでだ? ユウタの方がずっと強いだろ!」
「強い弱いじゃないんだよ。お互いに話して分かる時は話をする。強いやつが何をしても良ければ、お前の弟妹達は酷い目に会うだろう?」
「それはそうだけど……」
しぶしぶといった感じでクルミも引っ込む。
もう一度、冒険者達に謝ってから座って事情を説明した。
「33層の更に下に!?」
「にわかには信じられんが……」
冒険者が大きくざわつく。
「何か、証拠や確信はあるのか?」
ジェイドも信じがたいといった様子で聞いてきた。
本来なら、別の世界から脅威が来たことを報せる必要もないが、ここの連中にはしばらくクルミを預かってもらいたい。
隠す必要もないので、『女神の命令でここまで来た』と正直に述べた。
しかし、何故か話の信用度が下がってしまう。
「ま、こんなとこまで潜って来るんだ、あんたがただ者じゃないのは分かる。だがな、次のボスは本当にヤバイんだ。経験者込みで二十人、それくらいの頭数は要る」
ジェイドは、刻んだ葉をパイプのようなものに詰めながらいった。
それから葉に火をつけ、大きく煙を吸い込む。
「あんたもやるかい?」と、パイプを勧められた。
タバコはやらないので断ろうと思ったが、これは友誼の儀式かもしれぬ。
パイプを受け取って、そっと吸い込んでみた。
「げほっげほっ!」
きつい、見事にむせてしまった。
それを見た全部で7人の冒険者が笑いだし、やっと穏やかな雰囲気になった。
「実のところな、ここに住んでるガキどもは噂になってる」
今度はクルミを見ながら、ジェイドは語る。
「さすがに奴隷商人の真似事までする奴が出ちゃ放っておけねえ。どうだ、一度一緒に上まで戻らんか? 何なら人数を集めて下の層を探索しても良い」
ジェイドの申し出はありがたい、正義感の強い冒険者というのは良いものだなと再確認する。
だが、こっから先は俺一人が任された仕事だ。
「それですが、この子を1日か2日でいい、ここで見ててもらえませんか? お礼の用意もあります」
ジェイド達が信用できそうだったので頼むことにしたが、返事を聞く前にクルミが爆発した。
「いやだ! ユウタと一緒に行く! それにユウタなら一人でも絶対に平気だもん!」
ぴょんと大きく跳ねると、捕まえようとした指先をくぐり抜けて下へ続く階段へ飛び込んだ。
「あ、こら待て!!」
慌てて追いかける、俺。
「おい、行くぞ。武器も持て」
ジェイド達も付き合ってくれる、本当にすまない。
運動能力を強化されたクルミは速い。
「なんつー速さだ。本当に人の子か」とベテラン冒険者が驚くほどに。
クルミは、ボスの出る部屋の前で俺を待っていた。
俺が追いつくのを確認して、ボス部屋へ飛び込む。
『なんて子だ。あとでしっかり叱らなければ』と思ったら、後ろにはジェイド達7人が付いてきた。
「なんで!?」
「そりゃおめー、放っておけないだろ?」
「ここのボス、強いんだろ?」
「だからさ。俺は三度倒してる。さあ来るぞ!」
7人の冒険者が、手慣れた感じで武器を構える。
いいな、俺も何時かこんな冒険者になりたいもんだ。
女神さまから貰った剣を抜き、大事な槍はクルミに預けた。
出てきたボスは五体、これまでのボスの強化型ってところか。
ジェイド達が居てくれて助かった、クルミの護衛まで手がまわらないところだ。
「ジェイドさん」
「なんだい?」
「女神から派遣された証拠、見せますね」
全ての戦闘能力を全開へ。
ここまで降りてきた経験で、今はかなり上手く使えるようになっていた。
十五分程の戦いで、下へ続く扉が開いた。
「……マジかよ。田舎へ帰って畑でも買うかな」
ジェイドの呆れたような呟きが聞こえた。
「ユウタ、こっちこっち!」
笑顔で呼ぶクルミに近づいて槍を受け取ってから、頭に軽くげんこつを落とす。
「守りの魔法で痛くないもん!」
生意気盛りのクルミが元気に階段を走り降りる。
俺達8人は、その小さな背中についていく。
下へ着くと、「33層まで案内するよ」とジェイドが言ってくれた。
「ありがとうございます。助かります」
俺は丁寧にお礼を言ってから、もう勝手はしないようクルミの首根っこをがっちり捕まえた。
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