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第三章
大団円
しおりを挟む「ここだな」
俺は遂に辿り着いた。
『エスタの底穴』の第三十三階層、その空間の一角が大きく歪んでいる。
「奥になにか居るな」
俺の探索能力は”それ”をはっきりと把握する。
「なんなの、この瘴気!?」
ジェイドの仲間の魔術師が、慌てて防御結界を張る。
恐らくは、異世界の空気でも漏れ出てるのだろう、この世界の生き物には毒かもしれないが。
歪んだ空間に頭を突っ込んでみた。
ふむ、女神の守りがある俺には何ともなさそうだ。
「すいませんが、この子をお願いします」
今度こそクルミを冒険者達に託す。
「ああ、任されよう」
ここにきて、ジェイドも信じてくれたようだ。
「もし半日経っても戻らなければ、ここの宿に伝えてもらえますか? ユニコーンを連れた一行が泊まってるはずなので」
女神さまの宿を教えて頼む。
「それも、任されよう」
ジェイドは快く引き受けてくれた。
それから、半べそで連れていけと訴えるクルミの頭を、ぐしゃぐしゃと何度も撫でた。
「ここからは、本当に危ないからね。けど絶対に大丈夫だよ。女神さまに充分な力を頂いてきてるから」
クルミを取り押さえてくれる一同に、もう一度礼をいって歪みに踏み込んだ。
敵はそう遠くない、直ぐに着く。
このダンジョンで見たモンスターとは明らかに異質。
形態も色も存在感さえ違う何かがそこに居た。
静かに槍を構える。
女神さまのメインウェポン、その縮小版だがこれをぶっ刺せば俺の勝ち。
「悪いな、これも仕事なんだ」
戦いが始まった。
世界を渡ってきた黒とも灰色とも付かぬ化物は、恐ろしく強かった。
空間が歪み、体の一部が消滅するほどの攻撃を幾度も繰り出してくる。
何故にそれほど苦戦してしまったのか。
多分だが、クルミに力を分け与えたのがまずかったようだ。
最後は、そいつと渾然一体となりぎりぎり押さえこんだところに、飛び込んできたクルミが槍を突き立てた。
「ばかー! 食われるかと思った! 死んじゃうかと!」
腕の中でわんわん泣き叫ぶクルミに、ありがとう助かったよと伝えると、更に大きな声で泣き出した。
女神の槍は、そいつから力を奪って完全に元の世界へと押し返した。
周囲の洞窟が揺れて崩れ始める。
俺達二人は、何とかジェイド達のところまで引き上げた。
「本当にあったんだ、穴の続きが……」
ジェイドは感激に震えてるようだ。
俺とクルミと7人の冒険者の視線の先、歪んだ空間があったとこには大きな横穴が開き、別のダンジョンに繋がっていた。
これから、この大穴も再び冒険者で賑わうだろう。
降りてくるのに4日、子供たちのとこへ戻るのに2日かかった。
約束の7日目、例の9人は、しっかりと5人の子供らを連れてきた。
だが、そこには再会の歓声はなかった。
「あいつです、先日邪魔しやがったのは」
人狩りの一人が、如何にも悪役といった男と話している。
奴隷商人の親玉、ってところかな?
もちろん、用心棒らしきのを全部で30人程引き連れて。
何やら、『よくも邪魔してくれましたね』とか『宝石を差し出せ』とか言ってるが一々覚える気もない。
「こいつらかぁ?」
子供達のアジトから出てきたのは俺だけではない。
ジェイド達7人も、助力を買って出てくれた。
この世界に味方がいたほうが、クルミ達にとっては当然良いのだ。
「き、きさま、”穴暮らしのジェイド”か!?」
どうやらジェイド達は有名らしい、なんたって二つ名で呼ばれている。
「冒険者の風下にもおけねえゴミどもめ、ここが繁盛する前に掃除してやるよ!」
ジェイドの売り言葉で戦いが始まった。
俺は、五人の少年少女を助けただけ。
ダンジョンの奥底に挑む、真の冒険者たちはそれはもう強かった。
用心棒と人狩りと合わせて40人ほどを、一方的にボコボコにしたのだ。
「きりきり歩け!」
ジェイドの仲間が、奴隷商人を蹴りながら進ませる。
40人を縛り上げ、20人以上の子供らを引き連れて、俺達は地上に出た。
そこでは、女神さまとユニコとクルケットとティルが待っていた。
これにて一件落着……ともいかない。
「ゆうた、よくやったな」
まだほんのり桜色の頬をした女神さまが褒めてくれる。
酔ってる内に、お願いをしてしまおう。
「あのー女神さま、それでですね。手伝ってくれた子が居るのですが……何かご褒美をあげて欲しいなーって」
手招きしてクルミを呼んだ。
おずおずとやってきたクルミは、意外なことを言いだした。
「お姉ちゃんが女神さま?」
力を与えたせいか、女神さまの本質も感じ取れるようだ。
「そうよ」
「お、お願いがあります! ユウタを連れていかないでください!」
「それは無理じゃな。ゆうたはこの世界の者ではない」
「無理じゃないです! お姉ちゃんなら何でも出来るって分かります」
おお、するどい。
「駄目ったら駄目。ゆうたはわたしに必要じゃ」
「ボク達の方が必要です! どうしてもください!」
女神と異世界の少女が俺を取り合うという、夢のような光景が繰り広げられていた。
どっちも俺の意見は聞きにこないけど。
「いいじゃん。残れば?」
ティルはあっさりと勧めてくる。
この野心満載のエルフ娘は、俺が居なくなれば序列が上がるくらいにしか思ってないな。
「うーゆうた様がいなくなると寂しいです」
クルケットは本当に優しいなあ。
まあとりあえず。
「おいティル、出せ」
「え? なにを?」
「お前が隠しとった宝石だよ」と、ティルから取り上げた。
これだけあれば足りるだろうか。
「クルミ、クルミ」
女神さまと口喧嘩する少女を呼んだ。
手のひらにずしりと乗るだけの宝石類、これだけあれば土地でも買えるだろう。
「女神さま、お願いです。この子供たちを何処か安全なところへ」
俺は初めて神に祈った。
「それくらいなら良いよ。手伝ってくれたみたいだし」
あっさりと許可が出た。
「嫌です!」
下を向いたままのクルミは聞き分けない。
「クルミ」ともう一度優しく名前を呼ぶと、覚悟を決めたのか幼い顔をあげた。
「なら、この場所が良い。みんなが生まれたのはここだし、ユウタと出会ったのもここ」
ダンジョンに近く冒険者が集まるここは、治安が良くない……それに周りは荒れ地で田畑なんて。
「もっと安全で豊かな土地へ連れてってくれるんだよ?」
「それでもここが良い……」
他の子供たちも呼んで話を聞いた。
『住み慣れたこの場所で、みんな一緒なら大丈夫だ』と、健気な言葉が返ってくる。
さて……どうしたものかと、女神さまをちらっと見たら、にやっと笑っていった。
「土地など誰の者でもなかろうが、たまには可愛い下僕の頼みも聞いてやろう」
ダンジョンの近くで一番ボロい宿、素泊りの木賃宿の前に女神さまが立つ。
『持ち主よ、出てこい』
凄まじい音圧が周囲の人全てを惹き付ける。
声ではなく、直接頭に飛び込んでくる。
転がり出てきた店主に、女神さまが交渉する。
次々に金塊を産み出して、買収は一瞬で終わった。
それから女神さまは、ボロ宿を消滅させ更地にし、全員の心に響く音で宣言した
『見届けよ。この子らは、わらわの従卒を助けこの世の危機を救った。これがその恩寵よ』
一瞬で大木が生まれ育ち、天高く百メートルほど伸びる。
その周りには小さな家が建ち、一面の花畑が周りを囲む。
誰もが驚いていた、俺もびっくりした。
「ここに住むがよい。土地神にも命じておいた。何かあればそなたらに一方的に味方してくれるぞ」
最後の別れに、飛びついてきたクルミをぎゅっと抱きしめ、そっと下ろすと俺の体は光に飲まれる。
「ばいばい、元気でな。精一杯生きるんだぞ」
「ユウタ、本当にいっちゃうの? だって……!」
別の世界に飛ぶ前に、『ありがとう、さようなら』と聞こえた気がした。
「女神さま、ありがとうございました」
「ん、気にするな。わたしの代わりに働いたのだ、あれくらい安いもんだ」
ええー、俺はそんなに給料もらってませんけど?
まあいいや、まとめて子供らにあげたと思えばなんてことない。
「ところで、あのデカイ木なんですか? 邪魔にしかなりませんが」
「何をいう! あれは神木だぞ。葉を煎じればたちまち傷を癒やし、実を食らえば魂を呼び戻す優れものじゃ!」
ええー、それはやりすぎなのでは。
まあいいや、それなら孤児たちの生計も立つだろう。
「女神さまぁ、今度は何処へ行くのですか? 次は、私も活躍したいなーって」
ティルが割り込んでくる、力を得て大暴れしたいのだろうか。
「んー次は楽そうだな。けどゆうた、お前と同じ世界出身の奴がいるぞ。楽しみにしておけ!」
なんだなんだ、働かない勇者へリストラの宣告にでも行くのかな。
人使いは荒いが心優しい女神さまに従って、俺の旅は続く。
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