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第三章
エピローグ
しおりを挟む目の前の男は死にかけていた。
正しくは、肉体が消滅していた。
今や霊体だけの存在になった男が、老いた顔を崩す。
「おおお、これは女神様! お久しゅうございます!」
「うむ、そなたも息災か?」
幽霊状態の男は、「がははは」と笑い「死にかけです」と答えた。
「まさか女神様、御本人がいらっしゃるとは、少し早まりましたかのう。最終究極甚大魔法を使って、肉体が消えてしまいましたわい」
この老人は、ここで一人で戦っていたらしい。
新しく現れた世界の危機に、かつての勇者が挑み、そして敗れた直後だった。
「いや、そなたの消滅で”これ”に気付いた。よくやったな、そなたは二度もこの世界を救ったぞ」
”これ”――世界を滅ぼしかけた異物――に対して、女神さまが手をかざすと一瞬で消え去る。
これでここでの仕事は終わりだ。
『この人は……無駄死にだったのだろうか?』
口には出せない疑問が湧いてしまう。
だが、男は満足げに嬉しそうに笑った。
「いやいや、老骨に鞭打って半年も戦った甲斐がありました。これでこの世界は平和になるでしょうか?」
「うむ、あと数千年は何も起こらぬであろう」
女神さまは断言すると、俺を手招きして呼ぶ。
「源五、こやつは”ゆうた”。お主と同じ世界の出身じゃぞ」
「ほう!」と声をあげた源五さんの霊体が俺に近づく。
「始めまして、山田優太と申します。新しく女神さまにお使えすることになった若輩ですが、よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をした。
「ほうほう、確かにわしの祖国の生まれじゃなあ。わしは山本源五郎という、もう何十年になるかのう。死にかけのとこを女神様に拾われ、この世界へ連れてこられた」
筋金入りの大先輩だった。
「源五はなかなか優秀だぞ。送り込んだ時も任務を果たし、今度もわたしが来るまで時間を稼いだ」
女神さまに褒められ、一礼してから源五郎さんは俺におずおずと聞いた。
「山田殿は、昭和何年からいらしたか? 祖国は……日本はどうなった?」
まさかと思ったが、源五郎さんは昭和19年に転生したそうだ。
「昭和はとっくに終わり、二度も元号が変わりました。戦争が終わって80年ほど経ちますが日本はずっと平和です」
「お、おおぉ! そうか、そうかそれは本当に……」
良かったと言う代わりに老人は涙を流した。
女神さまも、役目を果たした戦士にサービスする気になったようだ。
「そなたの兄、姉、弟の子供らは生きておるぞ。ひ孫が生まれた者もおる」
うんうんと何度も頷き、源五郎さんは覚悟を決めた。
「これで心残りなく逝けますじゃ。女神様、長い余生になりましたが、あの時にわしを選んでいただき感謝申し上げます」
「うん、さらばだ。最後に聞こう。そなたの魂は、元の世界に帰るのを望むか?」
「可能ならば……この世界を見守りとうございます。わしにも、孫が十一人も出来ましてな」
「よかろう。この世界で祖神として封じよう」
世界を二度救った老勇者は、神さまになった。
「へーあんな昔から転生者っていたんですねえ……」
自分の感覚で感想が出た。
女神さまは丸い目をパチクリさせながらいった。
「何を言うか。そなたの住んでた地域は昔から働き者が多く、優先的に選んでたんだぞ。それが最近はやれ武器を寄越せ、スキルを寄越せだうるさくなりおって……」
「すいません、本当にすいません」
平謝りに謝った。
「へえーやっぱり神くらいならなれるのねぇ……」とティルが野望を燃やす。
「神さまとか怖いです」
そう怯えるのがクルケット。
最近は、女神さまの身の回りを一手に引き受けている。
料理も上手く、一番役に立ってるかもしれない。
「さあ次だ。けど疲れたなあ……」
ユニコの背に腰掛けながら、女神さまはじっと俺を見る。
「ねぇゆうたー、次はお前に頼むよー」
最近は2回に1回はこの調子だ。
「またですか? このところ多くありません?」
「働き者の神なんか異端だぞ!」
無茶苦茶な理屈で押し付けてくる。
ただ、以前にもらった能力はずっとそのまま、むしろ世界を巡る度に増える。
今では必要な資格は全て取り終わった、ベテランの下僕だ。
「ああそうだ。ゆうた、覚えてるかお前が名付けた女の子のこと」
もちろん覚えてる、そんな経験は滅多にない。
「その子は、神木の下で治療院と孤児院を営んでいるぞ。そして子が生まれた、『ユウタ』と名付けたそうだ」
あれから十数年経ったが、クルミに預けた能力は生きている。
俺が力を取り上げられるまで、ずっとそのままだ。
女神さまは、何も言わずに俺にお力を預けたままにしてくれている……。
仕方ないなあ、優しい女神さまの代理で一働きしますか。
「ひょっとして、次も洞窟ですか?」
「うん、横穴だ!」
クルケットが、ぱっと手をあげた。
「今度は自分も行ってみたいです!」
「それは良いな、結構強いから3人で行ってこい。わたしは飲んで待ってる」
「えっ!? そんなぁ、私は酒宴のお供が良いですぅ」
「飲んで寝てばかりだと太るぞ」
ティルに嫌味を言ったつもりだったが、女神さままで自分のお腹の肉をつまんでいた。
「じゃ、今度は目的地の5千キロ手前から歩くということで!」
ユニコとティルとクルケットの悲鳴が響く中、俺達はまた新しい世界へ旅立った。
おしまい
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