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第一章
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しおりを挟む「どういうことよ、これ!?」
クォーターエルフのミュスレア が、金色ベースに朱色を混ぜた髪を振り回しながら怒る。
「わたくしに聞かれましても……」
さっき知ったばかりで答えようがないんだな、これが。
「そんな事は分かってる!」
じゃあ聞くなよと思いながら、アドラーは新団長の機嫌をこれ以上損ねないように答えた。
「ギルド戦の結果があれでは……。見切りを付けた者が一人辞め、次にまた一人と。良くある話ですよ」
「そんな話、わたしは聞いたことがないぞ!」
もう一度爆発したミュスレアがアドラーを睨みつける。
『この短気なとこさえなければ、引く手数多だろうになあ……』
クォーターとはいえ、ミュスレアはエルフの血を引く。
先月25歳になったばかりだが、ヒト族よりは成長が遅く2割から3割は若く見える。
それでいて何かと薄い純血のエルフとは違い、出るとこが出たスタイル。
つまりミュスレアは良いとこ取りで、誰もが羨む美人なのだが……気性が激しい。
競走馬なら間違いなく短距離専用。
その美貌が潰れかけのギルドを押し付けられた原因だと、アドラーにも推測出来る。
「何か聞いてなかったのか?」
「全然。昨夜戻ったばかりなもので」
「それもそうだな……」
ようやくミュスレアが落ち着いた。
彼女は直ぐ沸騰するが長くは続かないと、アドラーは知っている。
「なあ、みんなで示し合わせて辞めたんだろうか……?」
多分そうだ、とアドラーには察しが付いた。
最初は数人が退団して、ある時点で団長と副団長も覚悟を決めたのだろう。
そして誰に押し付けるか相談したはずだ。
前団長のギムレットは、そこまで悪辣ではない。
ただし副団長のグレーシャは……ミュスレアとすこぶる仲が悪い。
文字通りギルドの姫同士の対立。
男たちに混じって縦横無尽に暴れまわる戦士ミュスレアに対して、正統派のヒーラーであるグレーシャの敵愾心は凄いものがあった。
ミュスレアが相手にしない――敵視に気付いてない――のがさらに輪をかけてグレーシャをイラつかせる。
こんな関係であった。
『それでミュスレア派だと思われた俺に、用事を押し付けたのか……』
アドラーもようやく得心した。
アドラーとドリーに山ほどの荷物を引かせ、わざわざ離れた市まで行かせる。
売り上げは即座にギルドの口座に入金。
魔法の連絡網があるから、この街でも直ぐに出金が出来て、その金を持って団長と副団長はサヨウナラ。
「はぁ……。ねぇ、どうしよう?」
浮き沈みの激しいミュスレアが急に弱気になってきた……。
前世でのアドラーは、子供の頃から動物博士になりたかった。
その最期は、虐待・虐殺される猫を何十匹と見つけて、逃したところで逆上した犯人に殺される……という救いのないものだった。
哀れんだ”猫と冒険を司る女神”が彼の魂を拾い上げた。
「もう一度、わたしの世界でお暮らしなさい」と。
生を受けたのはアドラクティア大陸。
今いる大陸とは星を挟んだ反対側にある。
それから色々あって、この大陸へ流れ着いたわけだが……。
行き倒れたアドラーを「大丈夫?」と拾ってくれたのが、クォーターエルフの一家だった。
「御恩を返す時が来た!」
突然大声を出したアドラーに、ミュスレアが緑色の瞳を丸くする。
「ゴーン……?」
「いやいや、何でもないです」
つい興奮して昔の言葉が出てしまった。
「大丈夫、ミュスレアが団長なら団員の十や二十は直ぐ集まりますよ」
実際にミュスレアは、ここ自由都市ライデンの冒険者の間でも有名。
実力も『太陽を掴む鷲』で序列4位、前回のギルド戦の団内ポイントでも3位。
人間関係で仲間ハズレにされたが、入れ物とトップは揃っている。
『あとは宣伝さえしてやれば軽いもんさ!』
この時のアドラーは本気でそう思っていた。
もう少し注意を払えば、ミュスレア派の面子までが揃って抜けてることに気付けたはずだったが……。
「なら、あんた副団長やる?」
ミュスレアも機嫌を直す。
ギルド戦に出れない規模のギルドでも仕事はある。
何なら通常の魔物討伐に精を出しても良い。
なんと言っても、『太陽を掴む鷲』団は近隣でも最古参の冒険者ギルド。
伝統があるのは強みになる。
「まずは残ってる面々を確かめないと。まさか全員が抜けたわけでもないでしょう」
拾い集めて来た退団届けを、一枚一枚確認してギルドの名簿と突き合わせる。
しかし半分ほど過ぎたあたりで、アドラーは懸念を覚えた。
「ミュスレア、団の最新序列とギルド戦の成績表を持ってきて」
言われた通り、身軽な戦士のミュスレアが動く。
「なに? なに?」と、ミュスレアがアドラーの手元を覗き込む。
35枚の退団届けを確認したアドラーが顔を上げた。
「……君と俺の2人を除いた上位の30人、それとレアな能力持ちが5人。やられた、新しく団を作る気だ」
ギルド戦は参加50人まで、上位30名の獲得ポイントで順位が決まる。
幽霊団員や足手まといの居る旧ギルドを飛び出し、上澄みだけで新ギルドの立ち上げ。
「けど、ギルド戦だけなら今のままで良くないの? 新しいギルドって大変でしょ、手続きとか」
事務仕事が大の苦手のミュスレアらしい意見だった。
アドラーも『わざわざ、何で?』との疑問があったが……答えは向こうからやってきた。
ドンドン!
ギルドの強く扉が叩かれる。
「えーっと太陽を掴む鷲はん、おりますか? ちと事情を聞きに来ましたわ」
独特な商人訛りにアドラーは覚えがあった。
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