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第二章
竜の住む山へ
しおりを挟む『ギルドのマイスターによるシュラハト』
その歴史は長い。
かつては職工ギルドのマイスターが、互いの技量を競うものであったという。
やがて馬借ギルドが新酒を運ぶ競争として取り入れ、あらゆるギルドの実力を示し合う大会となり、冒険者ギルドにも広まった。
1対1の個人戦を10回。
最終戦は団長同士の一騎打ち。
あの伝説のギルド会戦が、116年ぶりにライデン市で行われるとあって大いに湧いた。
当事者以外は。
バルハルトは、盛り上げ上手であった。
「この勝者には、我がギルドが持つ『グラーフの地下迷宮の共同探索期間』のシード権を与える! ギムレットの団に譲るつもりであったが、こうなっては致し方ない! 実力で奪い取って見せよ!」
ギルド戦のシード権、それさえあれば”太陽を掴む鷲”も立て直せる。
しかし本来与えられる物が景品に変わった方はたまらない。
グレーシャが異議を唱えた。
「ちょっと待ってくださいな、総団長さまぁ。急にそんな事を言われても、グレーシャ困りますぅ」
「媚び売ってんじゃねえぞ、いい歳こいて」
アドラーの隣で、とある冒険者が呟いた。
『まったくの同意』とアドラーは思ったが、一応黙っていた。
次の瞬間、とある冒険者の顔にヒーラーの杖がめり込んだ。
アドラーでさえ反応出来ない恐ろしい速さの攻撃。
ゆっくりと後ろに倒れる、とある冒険者を見ながらアドラーは思い出す。
『グレーシャは常にメインパーティに付いて行くが、自分が怪我をしたことはなかったな』と。
口数の多い冒険者が、本日唯一の重傷者になった。
「本来は私達のものでしょう? それを景品にされても得る物がありませんわ。まさか、総団長ともあろう方が、そこの虫けらの戯言を真に受けたりなさいませんよね?」
アドラーを睨んだグレーシャの瞳は、オークの英雄オルタス・闇の森と死霊の主リヴァンナ・御使い率者のバシウム、数々の英傑と渡りあってきた戦士も怯えさせる鋭いものだった。
『な、何者だよっ!?』と思ったが、その目つきには覚えがあった。
前世で散々浴びた、相手する価値のない男を見下す女の視線。
過去のトラウマを刺激されたアドラーは、すっと顔をそむけてしまった。
足元にいたバスティとアドラーの視線がぶつかる。
『なにしてるにゃ! 大事なとこだにゃあ!』
『すまない……苦手なものは苦手なんだ……猫の目はかわいいなあ』
それ見たことかと、グレーシャが散々にアドラーを罵倒する。
全力で口撃する女性の正面に立てる男は存在しないが、意外な味方がアドラーに付いた。
「ちょっとレシー、言い過ぎじゃない? そもそもシード権だって貴女の物ではないでしょ。対等な条件でなくて?」
グレーシャの目下のライバル、委員長のエスネだった。
当然、グレーシャの怒りに油を注ぐ。
「そのあだ名で呼ぶな! エスメラルドティーナ!」
「そっちもやめてよ! 長いから嫌いなのよ、本名は」
戦線が移動し、アドラーは砲火の雨から逃れることが出来た。
それから近くの冒険者にそっと尋ねる。
「あの二人、知り合い?」
「幼馴染らしいですよ、小さい頃から張り合ってたとか。この街の同世代の男であの二人に関わる者はいません」
女冒険者のツートップが、どの条件なら対等か、時に直接的な悪口を交えながら言い合いを始めた。
もうアドラーの出る幕はないか……に思われたが、バルハルトが直接に声をかけてきた。
「そこの団長殿よ。そなたは本当にドラゴンを見つけるつもりか?」
「ええ、まあそのつもりですが」
「ふーむ、わしも鱗なら見たことがあるが……もし一枚でも持ち帰るなら、条件を考慮しよう。複雑な事情があるみたいだからの」
その事情は、今エスネとグレーシャが争っている。
アドラーの抱える借金の総額までバラされた。
つと、バスティがアドラーに囁いた。
それを聞いたアドラーが、総団長に話しかける。
「バルハルトさん、鱗は無理かもしれませんが羽毛なら持ち帰れるかもしれません」
聞き終えたバルハルトは、大きく目を見開いた。
「なんと、なんとな! そなた口だけないな! よろしいわしが請け負おう、勝者にはシード権と賞金で金貨100枚を与える! あー細かい条件は、そこのおなごらで決めるが良かろう」
バスティは『オーロス山に居るのは鱗衣竜(スケイルドラゴン)ではないにゃ、羽衣竜(フェザードラゴン)だにゃ』と伝えた。
当然ながら、バルハルトが帝国の宝物庫で見たのは、鱗でなく抜け落ちた羽であった。
エスネとグレーシャが2時間の口論の末に話が決まった。
第一の条件は、アドラーが竜を見つけた証拠を持ち帰ること。
さすればシュラハトが開催され、勝者にはシード権と金貨100枚が与えられる。
そして、開催は4ヶ月後。
その時までにアドラーは、自身を含めて10人の仲間を集める。
ただし双方とも、他のギルドに属す冒険者や傭兵を助っ人にしてはならない。
最後に、アドラーが負ければ団の旗を降ろして引き渡す。
これは降伏を意味する最大級の屈辱。
ギムレットが負ければ、100枚の金貨を”太陽を掴む鷲”に支払い、レオ・パレスからも追放される。
以上であった。
全責任を負わされたギムレットは、青い顔をしながらも「異論はない」と宣誓した。
アドラーとしても、これ以上は望めない。
「異論はない。ならばドラゴンのところまでひとっ走りしてくる。ギムレット、逃げるなよ!」
転げ落ちて、先も見えなかったソロギルドにようやく光明が射した。
アドラーはその足も軽く、東へ東へと歩きだした。
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