朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第二章

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 アドラーがライデンから旅立ったその日のこと。
 バルハルトの部屋には、アドラーが名前を思い出せなかった若い魔術師が居た。

 それもそのはず、この魔術師は”太陽を掴む鷲”の元団員ではなかった。

「アスラウ、お前の伝えてきた通り変わった若者だった。しかし、よく気付いたものだな。わしでも実力をしかと見通せたか怪しいものじゃ」

 アスラウと呼ばれた魔術師は、こともなげに答えた。

「じい様でも、半分も分からないかもね。ボクが気付いたのも、あれが古代呪文、いやボク達のと違う系統の呪文を使ったからだし」

「お前が知らぬ魔法を使うとはのう。ますます気になるものじゃ」
 
 アスラウが若い頬を膨らませて抗議する。

「違うよ、知らないんじゃない! ただ導く式が異なるだけさ、ボクに分からない魔法なんてないよ。けどあいつ、3つも同時に魔法を使ってた。それはちょっとだけ凄い」

 アスラウが、アドラーの魔術を看破したのは偶然ではなかった。
 帝国御用達のギルド”宮殿に住まう鷲”には、賢者や宮廷魔術師となる素質や血筋の者が預けられることがある。

「それでじゃ、成り行きとはいえライデン支部には当分参加は無しじゃ」
 ギルド会戦の条件で決まったこと。

「つまんないな。いっそボクを団長にして、あいつと戦わせてくれれば良かったのに!」

「そう無茶を言うものではない。わしらは、ライデンの冒険者ギルドを潰したいわけではないぞ?」
「だからこそ、力を見せつけてやれば良かったのさ!」

 アスラウは、”宮殿に住まう鷲”の大幹部にして帝国の男爵号を持つバルハルトを困らせると、部屋から出ていった。

 それと入れ替えに、二人の男が入ってくる。

「申し訳ございません。馬で追ったのですが、アドラーとやらを見失いました」
「なんじゃと? まかれたのか?」

「いえ……それが、ロバが凄い速度で走り出して……馬も振り切られました」

 バルハルトは大声で笑うと、二人の男に今回は責を問わぬと告げた。

「面白いことが起きるのう。長生きはするものじゃが……新大陸とやらは、ひょっとするのか?」

 バルハルトの見つめる机の上には、アドラーが狩った魔狼の頭骨があった。



 追跡に気付いたアドラーは、少し迷ったがドリーで駆けることにした。
『名前も告げずに付いて来るのにろくな者は居ない』

 3倍に強化されたドリーは、アドラーと荷物を乗せ軍用馬よりも速くタフに走り続けた。
 出発が遅れた分を取り返してなお余裕があったが、アドラーは先を急ぐ。

「バスティさん」
「にゃあ?」

「やっぱりミュスレアや、リューとキャルに会いに行こう。勝手だけど、ミュスレアに戻ってきて欲しい」
「それがいいにゃ。きっとエルフの村でいじめられてるにゃ」

「そんなことはない!」とアドラーは思いたい。
 彼の知るエルフは、ハーフやクォーターも仲間として扱っていた。

 しかしこの大陸では分からない。

「どっちを先にしようか? ドラゴンとエルフの村」
「そりゃ竜から。竜の羽か骨でも手に入れないと始まらないぞ。だにゃ」

 ドリーを降りたアドラーは、今度は荷物を自分が担ぎ、身軽になったロバを引いて走り出した。

 この能力を活かして早飛脚として開業すれば、アドラーは一財産築ける。
 しかしそれには馬借や輸送ギルドの親方株が必要だった。

 そしてこの大陸の生まれでないアドラーが手に入れるには、莫大な金を支払って市民権ごと買うしかない。

『まあ、流れ者が出来る仕事いえば、冒険者か傭兵くらいだもんなあ』
 あとはせいぜい農家や荘園の下働き。

 けれども――『見知らぬ世界の冒険者暮らしも悪くない』

 満点の星空の下で野営しながらアドラーは心の底からそう思った。

「バスティさん、おいで」
 猫は素直にアドラーの毛布に潜り込む。

「ドリー、今日はありがとうな。明日もいっぱい走るから頼むぞ」

 迷惑そうに歯を向いたドリーに、両手に抱えるほどの餌を与える。
 朝までには食べ終わるだろうと、アドラーは目を閉じた。

 お腹の上の猫は暖かく、熟睡できそうであった。
 オーロス山まであと4日、予定の倍の速度で走り抜けるつもりだった。
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