朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第二章

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 アドラーは猫の威嚇する声で目を覚ました。
「ふしゅー!」と鋭く息を吐く音が聞こえる。

『川の方か』
 アドラーは剣を掴んで起き出した。

 川から少し離れた大木を背に、焚き火を前にして警戒用の結界も張ってある。
 ここに居れば安全だが、バスティは勝手に水を飲みにいったらしい。

『冒険と猫の守り神にしては不用心だなあ。ところで、バスティって戦えるのかな?』
 もし強いなら団の頭数に加えてしまおうと、アドラーは考えていた。


 夜明けも近く青色になり始めた空の下、うっすらと靄のかかる川辺にバスティは居た。
 それも巨大なワニと睨めっこしている。

『タイマンカイマンってのが居たな……地球にも』
 正式な学名ではないが、縄張り争いなどでひたすらガンを付け合うワニがいる。
 目を逸したり怯んで動いた方の負け。

 しかし、5メートルはあろう大ワニと両手に乗る猫が視線を合わせている光景は、この世界ならではのもの。

『やはりバスティさんは強いのでは?』
 期待に胸を踊らせながら、アドラーはしばらく眺めることにした。

 バスティは猫科特有の背中を湾曲させる攻撃態勢を取り、四本の足に力を込めると大きく飛んだ。

 そして一目散にアドラーのところへ走りだした。
 タイマンカイマンの顎が一瞬前までバスティの居た空間をかじり取る

「なにをぼけっと見てるにゃ! さっさと助けろ!」
「あれくらい余裕なのかと」

「んなわけあるか! うちは戦う用には出来てない、かわいい子猫だにゃ!」

 余程に焦ったのか、アドラーの腕に飛び込んだ猫は、するりと背中まで周ると人型になって両の手足でがっちりしがみついた。

 猫耳に尻尾を付けた裸の女の子をおんぶしながら、アドラーは大ワニの顎を避ける。
 朝食のつもりか、逃してくれそうにはなかったが。

『これ、倒して良いのかなあ。これだけ大きくなるには、何十年もかかったろうに』

 流域のヌシだろう、立派に育ったタイマンカイマンを食べる気もないのに討伐するのは気が引ける。

 川辺で暴れた後、一度水中に戻った大ワニにアドラーは覚えたての魔法を応用して使った。
 
『水を集めて……圧力をかける』
 大ワニの周囲の水圧を十数倍に上昇させる。
 このまま上げ続ければ圧壊させることも可能だが、ほどほどのところでアドラーは止めた。

 それから冒険者七つ道具の一つ、呼子笛を取り出して吹き鳴らした。
 近くに人が居ればやってくるはずで、直ぐにも早起きの農夫が様子を見に来た。

「あんれまあ! お前さんが退治しただか?」
「動きを封じただけで、まだ生きてます。どうしようかと思って」

「ちょ、ちょっと待っててな!」
 農夫は慌てて村の者達を呼びに行く。

「バスティさん、今の内に服を着るか猫になるかしてくれませんか? このままだとあらぬ疑いをかけられます」

 猫耳の少女は、背中に張り付いたまま猫に戻る。

「器用なものですねえ」
「にゃ!」
 これで半獣の少女を奴隷にしていると、後ろ指をさされる心配はなくなった。

 十人ほどの農民達が急ぎ集まり、その手には武器になる農具が握られている。
 そして一番身なりの良い男がアドラーに頭を下げてから言った。

「このワニは、2年ほど前からこの川に現れました。家畜を襲うのみならず、行方不明の者まで。漁はもちろん、牛馬を洗うことも出来ず、子供らも遊べずで難儀していた次第です」

 男の目は本当に助かった、ありがとうと訴えていた。

「分かった。俺が殺そう。こう見えても冒険者だ」

 アドラーは身動きのとれぬ大ワニに近づいて、左腕の下から剣を突き入れる。
 川面が赤く染まり、大ワニは口を二度三度と開いてから絶命した。

 ワニの死体に縄をかけながらアドラーが気付く。
『この大ワニが二年前、魔狼が出たのも最近、俺がこっちへ来たのが二年前……まあ偶然かな!』


 村人たちは「何のお礼も出来ませんが……」と言いながらも、アドラーと一匹と一頭に腹一杯の食事を出し、新鮮な野菜と果実まで持たせてくれる。

 一つだけアドラーは頼み事をした。
「ワニの頭部を埋めて、骨になった頃にここへ送って貰えませんか? 調べたいことがあるので」

 ライデン市のギルド本部を指定して、手間賃と輸送料を払おうとしたが村の者は頑として受け取らなかった。

「それくらいはやらせて頂きます。必ずお送りしますから。ありがとうございました」と。

 アドラーは、村人に見送られさらに東へ進む。

 良い実験も出来た。
 標高1万メートルを超えるオーロス山に登るには、幾つかの装備が必須になる。

 だがこちらには化学繊維の防寒着も酸素ボンベもない。
 その対策が大気を圧縮して体に貼り付ける魔法。

 これをメガラニカ大陸が得意とする道具に付与する技術を使い、マントとフードを簡易の登山装備にした。

 地球では標高5500メートル程で酸素が半分になる。
 この世界の気圧や大気組成は分からないが、少なくとも2倍に凝縮すれば耐えられるとアドラーは考えた。

 一日中魔法を発動させるのは、アドラーでも厳しい。
 中腹まで登って一泊、そこから一気にドラゴンにアタックをかける――予定を立てていた。

 途中で、エルフの村へ続く道と分岐し、アドラーは北東へ進む。
 まだ300キロ以上の距離があるはずだったが、地平線にはオーロス山の威容が見え始めていた。
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