朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
24 / 214
第二章

24

しおりを挟む

『これは……火を吐くトカゲってレベルじゃないなぁ』

 ようやく冷静になったアドラーを待っていたのは、意外な挨拶だった。

「遅かったですね。年寄りに子供の相手は疲れるのよ?」
「……はい?」

 白金羽衣竜プラチナフェザードラゴンの青い瞳に敵意はない。

『その気なら近付くことも不可能。もし戦ったとして、天井を崩落させたり粉塵爆発に巻き込んでも、びくともしないな』
 そのくらいはアドラーにも分かった。

 広間の大きさは陸上競技場ほどあったが、そこが狭く感じる巨体。
 内包するエネルギーは、アドラーから見ても無限に思えた。
 
 顔や体は細長く、長い巻き角と尻尾以外は銀色の羽毛に覆われている。

『アフガンハウンドのような顔つきだな。リザード族とは似てない』
 アドラーは、竜の子孫を自称するかつての仲間を思い出した。


「お、おひさしぶりだにゃ!」
「バスティさん、面識あるの?」

 今や若き猫娘が唯一の希望だったのだが。
「姉さまの記憶にあるにゃ。うちは初めて会うんだな、これが」

 しかしドラゴン様は挨拶を返してくれる。
「猫の子ですね、こちらこそお見知りおきを。そちらも、ようやく迎えに来ましたか。私の寿命が先に来るかと思いましたよ」

 ”そちら”と言った時、ドラゴンはあきらかにアドラーを見た。
『俺……なんかやらかしたっけ?』
 そう聞きたいが、怖くて聞けない。

 かなり老齢なドラゴンは、一人で話を進める。
 どの世界どの種族でも老人の話が長いのは変わらない。

「力の時代が終わり、知恵の時代が始まって幾百周期。娘が消失してしまったので預かりましたが、この子もそろそろ一人立ちしても良いでしょう。と言っても、まだ卵の殻がお尻から取れたばかりですが。そうそう、知恵ある者に馴染ませようと、里へ下ろしたこともあるんですよ? けどこの子ったら、泣いて帰ってくるばっかりで……」

「待った! 待って! お待ち下さい! いったい、何のお話ですか?」
 たまりかねてアドラーは口を挟んだ。

「あらいけない。自己紹介がまだだったかしら? けどごめんなさいね、私に名前はないの。これ、あんたも出てきて挨拶くらいしなさいな」

 田舎のお婆ちゃん並に一方的に喋り立てると、白金竜は手招きをした。
 大きな手に呼ばれて、洞窟の更に奥から一人の女の子が姿を見せる。

「お婆さま、わたし行きたくないです! ずっとここに居たい!」
 女の子は、アドラー達を無視して白金竜の胸にすがる。

「あらあらまあまあ。そんな事を言っても、貴女は北の大地の守護竜なのよ? ほら土地の者が迎えに来てるから」

 女の子といっても、少し違う。
 薄い銀髪の上には二本の角、二枚の翼とその下に二対の補助翼、そして白い尾が右に左に振り回されいる。

『なんか誤解されてる!?』
 やっとアドラーも気付く。
 アドラーは北の大陸出身だが、こんな竜娘など知らぬ。

 娘の方もちらりとアドラーを見たが「人間なんて嫌い!」と言ったきり、竜の羽毛に顔を埋めた。

「ごめんなさいねぇ。この子、人の学校に通わせてみたのだけど、鱗や尻尾を男子にからかわれたようで。きっとフェザードランゴのプライドが傷ついたのね」

『たぶん違う』と思ったが、アドラーは黙っていた。
 よく見ると、女の子の首筋や尻尾には鱗がある。

 何か言わねばと考えたアドラーが、ようやく絞り出す。
「き、北の大陸は、種族間の仲が良いから大丈夫かなーって。リザード族とかも居るので……」

「あんなのと一緒にするな!」
 竜娘は、リザード族が聞けば泣き出すような台詞を吐いた。

「困ったわねえ、貴女が居ないと困ったことになるのよ。時代の覇者は次の時代を守るのが役目。知恵ある種族、リザードや人も貴女を待ってるわ。ねえ、そうでしょ?」

 最後の質問はアドラーに向けられたものだったが、思い当たることがあった。

「ひょっとして甲冑をまとったような8本足の化け物が大量に出るのは、彼女が居ないからですか!?」

「そうよ。けどこの子を責めないでね。先代の守護竜が巨人族の生き残りに討たれて、ようやく卵から孵ったところなの」

 力の時代は竜と巨人の争い。
 知恵の時代は二足の者と八足の者の争いと、白金竜は語った。
 あの魔物が人の集落を襲うのは決められた宿命だと。

『どうりで、集団としての統率が凄まじいと感じた訳だ。個体でなく群れを優先する知恵だったのか』
 それならば、是非ともこの竜娘を故郷へ連れて帰りたい。

「ですけど……どうやって北の大陸まで行くのですか?」
 最大の疑問をアドラーは聞いた。

「あなたはこっちへ来てるじゃないの?」
「実はどうやって来たか分からず、それに自分は正式な迎えってわけではないのですが……」

「それはそうね。本来なら自分で飛んで帰らせるつもりだったけど、あと500年はかかるわよ?」

「えっ!? それは困る!」
 次の大発生が360年後くらいにあるのだ。

「だから後はお願いよ。私は余命いくばくもなくて、もう動くのも大変なの」
 白金竜はやれやれと大きなため息を付いた。

「どうするにゃ?」
「どうしようか?」
 アドラーはバスティと目を合わせる。

 思わぬ拾い物だった。
 こんなとこに世界の鍵が転がってるとは思いもしなかった。
 アドラーも何とかしたいが、肝心の竜娘の視線は人間不信の塊だった。

『あの子をいじめたって男の子らをぶん殴ってやりたい』と、アドラーは心の底から思う。

「ちょっと話してくるにゃ」
 バスティが竜娘へと歩み寄るが、こちらは警戒されない。

「猫……の神?」
 ひと目でバスティの本体に気付き、遠慮なく猫耳や尻尾で遊ぶ。

「勝手に触るにゃ! お前、ずっとここにいる気か? 外も悪くないしあいつもいい奴だぞ。餌もくれるし、それに名前もくれた」
 バスティの言葉に、初めて竜娘の瞳にアドラーへの興味が浮かぶ。
 一匹と一頭は、何やらごにょごにょと相談を始めた……。

 座って待つだけのアドラーに、白金竜が驚きの一言を告げた。
「この子が居ても、そなたらの天敵が消え失せる訳ではないの。けど大きく数は減らすわ。やつらは私の居るこの大陸にもおるのだよ」

 驚いたアドラーが守護竜を見つめ返す。

「少し前に、この山脈を超えた。数千程度の小規模なものだが、エルフ族の村に向かっておるな」

「それを先に言ってくださいよ!!」
 アドラーは立ち上がった。

「バスティ、行くぞ! 竜の姫さん、もしアドラクティアに帰れる算段が付けば、迎えに来ますね。今は仲間が危ないので、これで失礼します!」

 白金竜に一礼して立ち去ろうとして、アドラーは止まる。
 振り返ると、バスティが竜に語りかけ、大きな銀羽を一枚貰ったところだった。

「ありがとうございます! また来ますから!」
 もう一度お礼を言うと、アドラーは走り出す。
 追いついたバスティが猫に戻ってしがみつく、その口には竜の羽が咥えられていた。

『数千体か……たとえ3千でも備えが無ければ蹂躙される』
 アドラーは、昆虫型の魔物が戦闘向きの大型個体から攻めてくると知っていた。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...