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第二章
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しおりを挟む『これは……火を吐くトカゲってレベルじゃないなぁ』
ようやく冷静になったアドラーを待っていたのは、意外な挨拶だった。
「遅かったですね。年寄りに子供の相手は疲れるのよ?」
「……はい?」
白金羽衣竜の青い瞳に敵意はない。
『その気なら近付くことも不可能。もし戦ったとして、天井を崩落させたり粉塵爆発に巻き込んでも、びくともしないな』
そのくらいはアドラーにも分かった。
広間の大きさは陸上競技場ほどあったが、そこが狭く感じる巨体。
内包するエネルギーは、アドラーから見ても無限に思えた。
顔や体は細長く、長い巻き角と尻尾以外は銀色の羽毛に覆われている。
『アフガンハウンドのような顔つきだな。リザード族とは似てない』
アドラーは、竜の子孫を自称するかつての仲間を思い出した。
「お、おひさしぶりだにゃ!」
「バスティさん、面識あるの?」
今や若き猫娘が唯一の希望だったのだが。
「姉さまの記憶にあるにゃ。うちは初めて会うんだな、これが」
しかしドラゴン様は挨拶を返してくれる。
「猫の子ですね、こちらこそお見知りおきを。そちらも、ようやく迎えに来ましたか。私の寿命が先に来るかと思いましたよ」
”そちら”と言った時、ドラゴンはあきらかにアドラーを見た。
『俺……なんかやらかしたっけ?』
そう聞きたいが、怖くて聞けない。
かなり老齢なドラゴンは、一人で話を進める。
どの世界どの種族でも老人の話が長いのは変わらない。
「力の時代が終わり、知恵の時代が始まって幾百周期。娘が消失してしまったので預かりましたが、この子もそろそろ一人立ちしても良いでしょう。と言っても、まだ卵の殻がお尻から取れたばかりですが。そうそう、知恵ある者に馴染ませようと、里へ下ろしたこともあるんですよ? けどこの子ったら、泣いて帰ってくるばっかりで……」
「待った! 待って! お待ち下さい! いったい、何のお話ですか?」
たまりかねてアドラーは口を挟んだ。
「あらいけない。自己紹介がまだだったかしら? けどごめんなさいね、私に名前はないの。これ、あんたも出てきて挨拶くらいしなさいな」
田舎のお婆ちゃん並に一方的に喋り立てると、白金竜は手招きをした。
大きな手に呼ばれて、洞窟の更に奥から一人の女の子が姿を見せる。
「お婆さま、わたし行きたくないです! ずっとここに居たい!」
女の子は、アドラー達を無視して白金竜の胸にすがる。
「あらあらまあまあ。そんな事を言っても、貴女は北の大地の守護竜なのよ? ほら土地の者が迎えに来てるから」
女の子といっても、少し違う。
薄い銀髪の上には二本の角、二枚の翼とその下に二対の補助翼、そして白い尾が右に左に振り回されいる。
『なんか誤解されてる!?』
やっとアドラーも気付く。
アドラーは北の大陸出身だが、こんな竜娘など知らぬ。
娘の方もちらりとアドラーを見たが「人間なんて嫌い!」と言ったきり、竜の羽毛に顔を埋めた。
「ごめんなさいねぇ。この子、人の学校に通わせてみたのだけど、鱗や尻尾を男子にからかわれたようで。きっとフェザードランゴのプライドが傷ついたのね」
『たぶん違う』と思ったが、アドラーは黙っていた。
よく見ると、女の子の首筋や尻尾には鱗がある。
何か言わねばと考えたアドラーが、ようやく絞り出す。
「き、北の大陸は、種族間の仲が良いから大丈夫かなーって。リザード族とかも居るので……」
「あんなのと一緒にするな!」
竜娘は、リザード族が聞けば泣き出すような台詞を吐いた。
「困ったわねえ、貴女が居ないと困ったことになるのよ。時代の覇者は次の時代を守るのが役目。知恵ある種族、リザードや人も貴女を待ってるわ。ねえ、そうでしょ?」
最後の質問はアドラーに向けられたものだったが、思い当たることがあった。
「ひょっとして甲冑をまとったような8本足の化け物が大量に出るのは、彼女が居ないからですか!?」
「そうよ。けどこの子を責めないでね。先代の守護竜が巨人族の生き残りに討たれて、ようやく卵から孵ったところなの」
力の時代は竜と巨人の争い。
知恵の時代は二足の者と八足の者の争いと、白金竜は語った。
あの魔物が人の集落を襲うのは決められた宿命だと。
『どうりで、集団としての統率が凄まじいと感じた訳だ。個体でなく群れを優先する知恵だったのか』
それならば、是非ともこの竜娘を故郷へ連れて帰りたい。
「ですけど……どうやって北の大陸まで行くのですか?」
最大の疑問をアドラーは聞いた。
「あなたはこっちへ来てるじゃないの?」
「実はどうやって来たか分からず、それに自分は正式な迎えってわけではないのですが……」
「それはそうね。本来なら自分で飛んで帰らせるつもりだったけど、あと500年はかかるわよ?」
「えっ!? それは困る!」
次の大発生が360年後くらいにあるのだ。
「だから後はお願いよ。私は余命いくばくもなくて、もう動くのも大変なの」
白金竜はやれやれと大きなため息を付いた。
「どうするにゃ?」
「どうしようか?」
アドラーはバスティと目を合わせる。
思わぬ拾い物だった。
こんなとこに世界の鍵が転がってるとは思いもしなかった。
アドラーも何とかしたいが、肝心の竜娘の視線は人間不信の塊だった。
『あの子をいじめたって男の子らをぶん殴ってやりたい』と、アドラーは心の底から思う。
「ちょっと話してくるにゃ」
バスティが竜娘へと歩み寄るが、こちらは警戒されない。
「猫……の神?」
ひと目でバスティの本体に気付き、遠慮なく猫耳や尻尾で遊ぶ。
「勝手に触るにゃ! お前、ずっとここにいる気か? 外も悪くないしあいつもいい奴だぞ。餌もくれるし、それに名前もくれた」
バスティの言葉に、初めて竜娘の瞳にアドラーへの興味が浮かぶ。
一匹と一頭は、何やらごにょごにょと相談を始めた……。
座って待つだけのアドラーに、白金竜が驚きの一言を告げた。
「この子が居ても、そなたらの天敵が消え失せる訳ではないの。けど大きく数は減らすわ。やつらは私の居るこの大陸にもおるのだよ」
驚いたアドラーが守護竜を見つめ返す。
「少し前に、この山脈を超えた。数千程度の小規模なものだが、エルフ族の村に向かっておるな」
「それを先に言ってくださいよ!!」
アドラーは立ち上がった。
「バスティ、行くぞ! 竜の姫さん、もしアドラクティアに帰れる算段が付けば、迎えに来ますね。今は仲間が危ないので、これで失礼します!」
白金竜に一礼して立ち去ろうとして、アドラーは止まる。
振り返ると、バスティが竜に語りかけ、大きな銀羽を一枚貰ったところだった。
「ありがとうございます! また来ますから!」
もう一度お礼を言うと、アドラーは走り出す。
追いついたバスティが猫に戻ってしがみつく、その口には竜の羽が咥えられていた。
『数千体か……たとえ3千でも備えが無ければ蹂躙される』
アドラーは、昆虫型の魔物が戦闘向きの大型個体から攻めてくると知っていた。
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