朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第二章

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 アドラー・エイベルデイン、一生の不覚であった。

「指揮官としては慎重過ぎる」と、北の大陸にいた頃に言われた。
「もっと大胆な命令を出せ。それから次の手を打っても遅くない」とも。

 しかしアドラーは、部下や兵の損失に慣れることはなかった。
 むしろ危険な任務を自らこなす事を好んだ。
 自分を最前線に置くことで、よく人が死ぬこの世界と折り合いを付けようとしたのだったが……。 

 それが裏目に出た。
 ミュスレアとその妹弟は、最も安全な地に逃したつもりだったのに。

 エルフの村までは、東から一本の街道が通っている。

『だが街道は遥か南西。原生林は突っ切れない。等高線に沿って南下して西へ折れる。森林限界の上を飛ばすのが速い』

 アドラーは、3千メートル付近から木々が途切れているのを確認していた。
 地図上で200キロ以上はあるエルフの村までの、時間的に最短のルートをあらゆる知識を使って選びだす。

 使う魔法を準備しながら、バスティと竜の羽をリュックに詰めるアドラーを呼び止めた者があった。

「ねえ、ちょっと待って!」
「悪い、急がないと」

 せっかく竜の子から話しかけてくれたが、アドラーには余裕がない。

「違う、送ってあげても良いよ。空から」
「えっ!?」
「にゃ!?」

 南北に伸びる山脈から、西へ向かって川が流れ出る。
 南へ進むのは時間がかかると覚悟してたところへ、思わぬ申し出だった。

「本当に!? 頼む、何でもするから手を貸してくれ!」
 一族の成竜があれほど巨大なのだ、幼体でも人くらい乗せれるだろうと推測出来た。

「だが、条件が3つある!」
「何でもこい!」

「一つ目は、わたしも連れて行くこと! 本当は人なんかに付いて行きたくないんだからね! けど、山の中で500年は長いから……」
「委細承知」

「二つ目は、わたしに毎日ご飯を与えること! お婆様と違ってわたしは成長期なんだ」
「分かった、頑張る」

「三つ目は、わたしに名前を付けること! で、できるか……?」
「おう、任せ……う、うーん。俺が?」

 意外な申し出だった。
 バスティに名付けたのはアドラーで、それを聞いて羨ましかったそうだ。

「き、気に入らない名前だと、付いて行かないからな!」
 竜の娘は、流石に照れくさそうだった。

 リューリアと同じくらいか、十代の半ばに見える。
 白に近いが陽光浴びて輝く銀の髪と蒼い瞳、それと背中の一番下から伸びる白く美しい尻尾。

「君は、銀竜? それとも白竜?」
「雪のように光を弾く羽が北方の守護たる証だぞ」

 白き竜の幼生だった。
 
「ところで、人里に降りてた時はどうしてたの?」
「竜語で”自分”っていう”ネイン”と名乗っていた」

『悪くない名前だな』とアドラーは思った。
 
「それじゃ駄目なの?」
「意味が無いじゃないか……考えて付けて欲しいのだが……駄目か?」

 上下にパタパタしていた尻尾が急に元気を失う。

「待って、思い付いた名前がある。前にいた世界で、一番有名で美しい白い狼の名前でブランカってのがあるけど……それ以外だとファルコンかな……」

「ブランカの意味は……?」
「異国の言語で白、狼王の伴侶の名だ」

 再び、竜の娘の尻尾がパタパタし始めた。

「そのままだな……けど美しいというのはとても良い。それに、いずれ竜の女王になるわたしに相応しい。今からブランカと呼んで良いぞ?」

 ブランカの尻尾が大きく左右に振れた。

「あまりかわいくないにゃー。まあ猫と犬でちょうど良いにゃ」
 アドラーは、余計な事をいったバスティの頭をリュックに押し込んだ。

「じゃあ最後のお願いだ!」
「4つ目にゃ!」
 バスティの頭が飛び出してきた、この猫は数が分かる賢い猫だ。

「そうだっけ? えっとね、わたしの生まれたとこに連れてって欲しい。卵の時にお婆様に連れられて来たんだけど、故郷に行ってみたいんだ」

 アドラーにとって、拒否する必要のない頼みだった。
 この世界の竜――少なくともブランカの一族は――神さまと並んで人の側に立つ。

「もちろん承知した。いざとなれば、飛行船を作ってでも連れて行こう」
「ひこー? よく分からんが約束だぞ! そこまで言うならお前……名前はなに?」

 名前を聞いたブランカは、忘れないように何度も口に出した。

「アドラー、アドラーだな。よしアドラー、そこまで言うならお前の仲間になってやる!」

 一足飛びに仲間に加わったブランカを見て、世界有数の力を持った彼女の祖母を思い出し、アドラーは言った。

「歓迎するけど……せっかくだから、うちの冒険者ギルドに入らないかい? 食事もお給料も出すし、その他経費は全部ギルド持ちだ!」

「い、いいのか!?」

 世間知らずの竜の娘が、潰れかけのギルドに加わった。

「悪い奴だにゃー」
 また余計な事をいった猫をリュックに押し込みながら、アドラーは団長として初めての新入団を迎えた。

 期限は、無事に生まれ故郷に送り届け、彼女が大陸の守護竜として君臨するまで。

 報酬は参加クエストの収入を人数で割った3割――新人の常識的な契約。
 財宝を見つけたり大物をしとめたらボーナスあり。

 遂に”太陽を掴む鷲”の団員が2人に増えた。
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