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第三章
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しおりを挟む骸骨のまま武器を振り回すスケルトンは、想像以上に怖い。
何処を見てるか分からない二つの穴が、本能的な恐怖となる。
『しかも、生きてる者の動きに反応するんだよなあ』
襲ってくるだけでなく、こちらの攻撃を受けるのだ。
幾つか対処法があるが、アドラーは一番簡単なものを選んだ。
スケルトンの反応よりも速く武器を振るだけ。
『いち、に、さん!』のリズムで一体を壊す。
最初に武器を持った方の肩甲骨、次に弱点の腰の骨。
「おい、背骨は狙うなよ。肋骨に剣を取られると致命的だからな」
子供たちへのアドヴァイスも忘れない。
同時に二人の相手が出来ないのも、スケルトンの特徴。
一人が切り結ぶ間に横から突けば簡単に倒せる。
だが数が多い、アドラーは15まで数えてからペースを上げた。
「や、やった! 倒した!」
アガランが大声を出した。
最初は混乱した新規団の団長も、リズムに乗せて叩き壊し続けるアドラーを見て少し落ち着いたようだ。
四人の少年達は、よく頑張っていた。
「気を抜くな! 直ぐ来るぞ!」
アドラーがこれまでで一番鋭い声をだした。
人や獣は、仲間がやられると考えるか怯む。
生き物にはある当然の隙がアンデット系にはない。
崩れ落ちる骨を押し分けて次が襲い掛かる。
「く、くるなっー!」
アガランの突き出した刃が、肋骨の四番目と五番目の間に吸い込まれるのを、アドラーは確認した。
相手が生きてれば心臓を一突きの攻撃も、死んでいると二本の太い骨に剣を巻き取られるだけ。
アドラーの予想通り武器を失ったアガランは、想像以上にバカな動きをした。
「うわっ!? あっ、ま、魔法で!」と喚きながら、四人の円陣を崩して中へ逃げ込んだ。
押されて飛び出したサーリが倒れ、寄ってきたスケルトンの錆びたサーベルが四本同時に襲い掛かる。
それを見て動いては、いかなアドラーでも絶対に間に合わない。
だが、アドラーは既に準備を終えていた。
一番遠いスケルトンは、飛んできた短剣で壁に固定される。
サーベルの一本は盾で受け、もう一本は右手で掴み取る。
『最後は背中で受ける。痛いけど、物理防御を全開で……!』
アドラーもちょっと薄目になる程の覚悟だったが、四体目のスケルトンには誰かが体当たりした。
「お兄ちゃん!! あ、アドラーさんも!」
顔を上げたサーリが叫び、アドラーは勇敢な少年が誰か分かった。
ハーストは、思い切って踏み込んだお陰で、肩口を切っただけで済んでいた。
それでも息が荒く、今にも倒れそうな農村の平凡な少年にアドラーは声をかけた。
「偉いぞ、流石はお兄ちゃんだ。俺も助かった。下がって妹を守ってやれ」
『錆びた剣だ。破傷風なんかにならないよう、手当てしなければな』
そんな事を考えながら、アドラーはスケルトンを全て蹴散らす。
四十八まで数えた時、立って動く骨はなくなった。
スケルトンは、ぴったり五十体だった。
アガランも最後だけは格好を付けた。
兄の手当てをするサーリの前を、一歩も動かなかった。
アドラーが近付くと、アガランは一度目を伏せたが直ぐに上げた。
「兄貴! 生意気言ってすいませんでした! 俺、兄貴に一生付いていきます!」
「いらねーよ、バカ野郎」
割と強めにアドラーは拳骨を頭に落とした。
調子に乗っていた17歳は、兄妹に膝を付いて頭を下げ、ハーストに肩を貸す。
幸運な事に、続きの部屋から本来のダンジョンへ戻ることが出来た。
ダンジョンの入口はロープで塞ぎ、六人は急いで山を降りた。
後の事は、ギルド本部の仕事。
直ちにまともなギルドに依頼が飛び、十人以上のまともな冒険者で調査が行われる。
「どうなってんの、テレーザさん?」
「あは、ははは。本当にごめんなさい! 去年の時点ではあのダンジョンは死んでたんです!」
「けど、テレーザさんに言っても仕方ないことですが……ね」
アドラーは、受付の奥を覗き込む。
上役がやってきて謝罪と弁解を並べ立てるが、アドラーは人さし指と親指で丸を作った。
「分かった、銀貨二十枚を追加しよう」
「もう一声!」
「無事だったんだ、それで勘弁してくれ。調査にも金が要るんだよ」
「三十枚下さい。怪我した子らに渡します」
「ああ、そうか。うん、分かった」
上役は物分りがよく、四十枚の銀貨を追加した。
冒険者は保険などには入れない、ギルドが面倒をみれないと悲惨なのだ。
アドラーは銀貨四十枚をそのままサーリに押し付ける。
迷ってるサーリの横から、アガランが口を出した。
「兄貴、この怪我が治るまで親父に頼んで家が面倒見ます! 小作料も約束通りに減らします、だから俺に任せてください!」
アドラーは少年の目を見て尋ねた。
「なあアガラン、お前が面倒見るのか? それともお前の家か?」
アドラーの言葉の意味が分からない、アガランは最初そんな顔をしていた。
一度目を伏せた少年が、もう一度顔を上げると少しだけ男の表情になっていた。
「自分が働いて稼ぎます。荷運びでも農作業でもやって、必ず」
「そうか、それならこの金はお前に貸してやる。必ず返しに来い。俺は森のはずれの”太陽が掴む鷲”団にいる」
一件落着に思われたが、少しだけ続く。
翌日、さっそくアガランがやって来た、手下の二人も連れて。
「兄貴! ここで働いて返すから使って下さい!」
「要らん、お前は冒険者に向いてない」
「そんな殺生な! 何でもしますから!」
「あー、そうだな。ブランカ、ちょっと来い」
竜の娘が物珍しそうにやってくる。
「この子は3日前に剣を握ったばかりだ。剣の先でもこいつに当てたら入れてやる。この木剣を使え」
アドラーは二人に木剣を渡した。
そして小さな声でブランカに言った。
「いいな、手加減だぞ?」
「はいな!」
何十回か振り回したアガランの剣は全て空を切り、飽きたブランカが振り下ろした一撃が顔の真ん中を捉えた。
アガランは、鼻血が出ただけで済んだ。
それからアガランは、家の手伝いをしながらアドラーに借金を返した。
時々は、畑で採れた作物も持ってくる。
ただ、ブランカの姿を見る度におびえるのだけは治らなかった。
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