朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第三章

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 グラーフ山は、ライデン市を見下ろすようにそびえる。
 海にも近い独立峰で、古代から信仰の対象になっていた。

 聖域としての歴史は長く、有史以前のダンジョンも多く残る。
 最も有名なのは、ギルド戦の舞台となる『グラーフの地下迷宮』

 深く広大で、奥に行くほど魔物も強く、数百年をかけても底が知れぬ。
 その分、強大な魔物が地上へ出る事もないが、今では年に2回ほど国中の冒険者ギルドが集まり地上に近い魔物を退治する。

 ”生きてるダンジョン”なので地図も作れないし、時にはお宝も出る。
 予選会が行われるほどの、人気ダンジョンだ。

「何時か俺もあれに挑みてえなあ! おっさんは行ったことあるか?」
 地下迷宮の入り口を見下ろす山道を進みながら、アガランが聞いた。

「もちろんあるよ」
「どんなだった!?」

「うーん、新人の隊を任されてたからなあ。深くには潜ってない」

 アドラーのバフは、条件を満たさねば5%ほどだが新人には貴重。
 それゆえ以前はルーキー隊に配置されていた。

「なんだ、しょぼいな。やっぱ奥にはドラゴンとかいんのかなあ」
「それはないな。居てもたぶん偽物だ」

 アドラーは、はっきりと否定した。

「坊っちゃん、いや団長。付きましたぜ」

 目的地の小ダンジョンに着いた。
 ギルド本部の管理する”死んだダンジョン”で、最奥まで行って帰れば合格となるのだが。

「じゃあさっそく行くか!」
 アガランはいきなり潜ろうとした。

「おいおい、準備の手際を見るんだぞ?」
 アドラーはつい口を出してしまう。

「あ、そっか。めんどくせーな」

『黙っておけば良かった』とアドラーは後悔したが、準備なしで突入する方が余程後悔する。
 五人組を手伝いながら、しっかりと準備を整えさせる。

 アドラーは、嫌な予感がしていた。
 単に素人同然の子供たちを5人も連れている、それだけであれば良いと願っていた。

 ロープを入り口付近の木に結ぶ。
 最奥まで足りなくても、行けるとこまではたどる。

 荷物の中身も入れ替える。
 直ぐ使う物を上に、使わぬ物は奥にしまい込む。

 松明も要る。
 サーリが精霊を使えるとしても、それだけに頼るなど無謀。

 最後に各々が持つ武器と、立ち位置を確認する。
 剣を抜いた途端に隣の仲間を切ったなんてことは、よくあるのだ。

「先頭はアガラン、最後尾に俺が付く。必ず三歩の距離を守れ、前の奴は後ろの奴が守ってる。いきなり逃げたりするんじゃないぞ」

「えっ、俺が先頭? 団長なのに?」
「団長だからだ。剣の留め具は外しても良いが、手はかけるなよ」

 こんなに口を出して良いものかと思ったが、アドラーは見過ごせるタイプではない。
 なんといっても、全員の生還がクエストの報酬条件だ。

 何度嗅いでも慣れることのない、ダンジョン特有の湿った土の匂いのする、動かぬ空気の中にアドラー達は踏み込んだ。

 アガランを先頭にして六人の短い隊列。
 アドラーの一つ前を歩くサーリは魔法を温存して、兄ハーストの後ろ。

 嫌々連れて来られた兄妹も、恐る恐るだが歩き続ける。
 髪を後ろで二つ編んで、慣れない手付きで杖を持つサーリは、これぞ村娘といった素朴で可愛い女の子。

『とても冒険者には向いてない』と、アドラーにも分かる。
 クォーターエルフの姉妹とは全く違うタイプだ。

 半分ほど進んでも、ダンジョンは何の変哲もなかった。
 アドラーだけに渡された地図とも何一つ変わりがない。

『思いすごしだったかな?』
 アドラーも少し気を抜いた。

 アガランもここまでは丁寧に基本を守っている。
 そのアガランが待ての合図をだし、全員がその場に止まる。

『三つ又に別れた交差点。一つは行き止まりで、一つは罠。と言っても、驚かす程度のものだが』
 試験の内容を知っているアドラーは、黙って五人を見つめる。

 アガランは罠に気付いた。
『はい合格。てか、これにかかったら一発不合格だけどね』

 試験官も悪くないなと、アドラーは思い始めていた。
 行き止まりをきちんとマッピングして引き返す、はずだったが、アガランはまたも止まった。

 しゃがみ込んで右奥を見て、後ろを手招きする。

『……? 何も無いはずだけどなあ』
 アドラーは立ったまま少年達を見つめていた。

 すると、アガランが壁に潜り込んだ。
 続いて2人、3人と。

「すげー! 隠し扉だ! おお、黄金の鎧がある!!」
 壁の中からアガランの声がする。

「!!? んな訳あるか! ギルド本部が徹底的に調べたダンジョンだぞ!」
 アドラーも驚いた。
 急いでしゃがむと、確かに部屋の中に5人の足が見える。

 そして、入り口が閉まり始めた。

「早く出ろ、このダンジョン生きてやがる!」
 降りてくる石の扉を長剣で支えたアドラーが叫ぶが、剣の方も悲鳴をあげた。

 アドラーの取るべき道は二つ。
 山を駆け下りてギルド本部まで走り抜けるか、もう一つは……。

 アドラーが一気に部屋に飛び込むと同時に、石扉が剣を押しつぶした。

「なあ、見てくれよ! あんたが焦ってるってことは、これ本物だろ? すげー本当の隠し部屋の財宝を見つけちまったぜ!」

 止める間もなく、アガランは部屋の中央の鎧から兜を取り上げた。

「この馬鹿ガキっ!」
 アドラーは寝転べの合図を出して、近くのサーリを引きずり倒して抱え込んだ。
 つられてハーストも寝転び、残りも3人も遅れて体勢を低くした。

 幸い、矢が飛んでくるなどの罠ではなかったが、壁の二箇所に扉が開く。

「あー……良かったな、アガラン。本当の冒険の始まりだ」
 起き上がったアドラーは、子供たちを庇うように前に出た。

 そして、周りに気を付けながら愛用の短剣を引き抜いた。
 
 賢くも、サーリは何も言われなくても光の精霊を開放する。
 すっと照らし出せされた部屋と二つの穴。

 その奥からは、大量のスケルトンが押し合いながら向かって来ていた。

『ダンジョンが生きてるなんて聞いてないし。本気で恨みますよ、テレーザさん。報酬を……二倍ってとこかなあ』

 アドラーには成功報酬を諦める気など、スケルトンの頭の毛ほどもなかった。
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