43 / 214
第三章
43
しおりを挟む出発前日の夜、マレフィカがギルドハウスまでやってきた。
「ふおー、結界の外の地面を踏むのは何年ぶりかなー?」
マレフィカは、リューリアのことも覚えている。
一方でしっかり者の次女は、十八歳になり森の遊び場は忘れかけていた。
「言われれば……思い出します。変ですね、あんなに遊んだのに。ごめんなさい」
謝るリューリアに魔女は大きく手を振る。
「いいのいいの。女の子は早くに来なくなるからね。ミュスレアみたいなのは珍しいのよー」
「へへっ、照れるなぁ」
「……褒めてないにゃ」
バスティの肉球がミュスレアを叩いた。
「で、やっぱり一緒に来ないのか? サーレマーレ島まで行っての廃墟探検だけれど」
「いかないよ。知らない人が沢山いるなんて恐ろしい!」
マレフィカには、まだこの森を出るつもりはない。
その代りに、幾つか魔法道具をくれる。
「この鈴は?」
「これは私の家に来る時に使って。鈴の音が霧を中でも導く」
「こっちの水晶は?」
「……わ、私の家の鏡と繋がってる。時々でも、連絡くれると嬉しい……」
水晶は家に置いて、マレフィカの生存確認に使うことにした。
他にも、緊急連絡用の煙玉、海水や泥水を飲めるようにする石、夜道を照らす杖、表は暖かく裏は涼しい毛布、香りの良い石鹸、クレイゴーレムのコア。
などなど、役に立つのか立たぬのか分からない品々を持ってきた。
もちろん、一番評判が良かったのは石鹸だったが。
「武器になりそうな物はあまり作ってないんだ。ごめんよ」
マレフィカは謝った。
だがそれも当然のこと。
強力な魔道具や魔法を生み出せるからといって、他人や生き物を傷つけるのが好きな魔法使いはいない。
戦場を一変させる兵器を開発してしまった科学者が苦悩するのと同じだ。
「これで充分だよ。旅がずいぶんと楽になる」
アドラーが答えると、魔女はほっとしたように息を吐いた。
それでもマレフィカは、みんなの為に武器や防具を作ったり改良すると言った。
「後悔はしたくないからなー」と。
ついでに、旅の間はギルドのロバを預かってもらう。
「こいつを頼むよ、ドリーって言うんだ。かわいいだろ?」
「うわー、ぶさいくだな……」
マレフィカの言葉が分かったのか、ドリーが鼻を鳴らす。
「ご、ごめんよ」
ロバに謝る魔女に、ブランカが何か差し出した。
「あげる」
「なんだいこれ、何かの牙かな?」
人の犬歯よりも二回りは大きくて鋭い歯。
「あたしの牙。大きくなるまで時々抜けるんだ」
ブランカは口の端を引っ張って、歯が抜けたところを見せる。
牙があったところが、黒い隙間になっていた。
「リザード族の歯ねえ……。珍しいけど魔術に使えるかな」
まだブランカをリザード族とのハーフだと思っている。
「竜だぞ! 採れたての竜の牙だぞ!?」
今度はブランカもしっかり怒った。
「マレフィカ、その歯は持って帰って調べてみてよ。たぶん貴重なものだ」
「分かったよ、そこまで言うなら使いみちを探そう」
ローブにブランカの乳歯をしまいこんだマレフィカとドリーが森に消える。
アドラー達は旅立つ準備を全て終えた。
――翌朝、波止場にて。
「おいおい、新人二人に銀貨百枚は払えねーよ。二人で百枚でも高いぞ?」
いざ本契約のサインの段階で、”銀色水晶”の団長シルベートは異議を唱えた。
シルベートの主張は、アドラーも分からなくもない。
『腕の立つものは高く、それを証明出来ない者は安く』が技術を売る時の基本だ。
「アドラー、お前とミュスレアに異存はない。だがあとの二人は値引かせて貰うぞ?」
「まあ待て。一人は腕が立つ、もう一人はヒーラーだ。それに払うのはリヴォニア伯国だろ?」
正直なところ、四人で銀貨三百でもアドラーは良かった。
金貨にして二枚半、満足の収入だが言われるままに値引いては今後に影響する。
「せめて銀貨七十五はもらいたい」
「駄目だ、せいぜい六十」
「七十」
「六十五」
ほぼ出来レースの交渉が終わろうとしていた。
握手直前になった二人の団長に、小柄な影が割って入る。
「あの! お世話になります、リューリアです! わたし、いっぱい頑張ってみんなを癒やしますね!」
リューリアがとびきりの笑顔を作る。
当年十八歳、見た目はもう少し若い。
港の朝日を浴びて麦穂のように輝く薄いブラウンの髪と、エルフの血を引く揺るぎない美貌。
成長途上の魅力と性格の良さが溢れたまっすぐな瞳。
一撃で、男ばかり十一人の団を率いるシルベートの頬が砕けた。
「いやいや! 大丈夫だよ、四人で四百枚。もう決まってたことだからね!」
才能を生かした見事な交渉術に、アドラーと見ていたタックスも思わず拍手する。
もう一人、近くで見ていた者が参戦した。
「あの! ミュスレアです! わたしもいっぱい頑張りますね?」
「あ、これはミュスレアさん。ご高名はかねがね伺っております。当団に参加していただき光栄です!」
シルベートは、半エルフの戦鬼に直立不動で挨拶した。
「……てめーこら、態度違いすぎるだろ? 傷つく年頃なんだぞ?」
乱暴な冒険者言葉を使いこなすエルフ娘に、シルベートはぺこぺこしながら何度も謝った。
「いいなあ……女の子のヒーラー、うちも欲しいなぁ……」
”銀色水晶”団の誰かのぼやきが合図になり、一行は乗船を始めた。
風の精霊が好む意匠の描かれた帆をあげ、船は港を出る。
この模様に向けて風の精霊が飛び込んできて、少しの風が何倍にもなる。
この世界の船乗りは風に頼り、風に感謝しながら船を操るのだ。
日も高い内に、サーレマーレ島が見えてきた。
0
あなたにおすすめの小説
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる