朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第三章

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 アドラー達は、サーレマーレ島の首都クレサーレに着いた。

 この島は南北五十キロ、東西にも三十キロ以上ある卵型の大きな島。
 西側は平坦で良港も多く栄え、東には海に沿って山脈が走り海も荒い。

 目的地の廃城は、東の山脈と岩礁に挟まれた古い要塞だという。

「で、その近くまで送ってくれると言うが……これ、軍船じゃねーか?」
 アドラーがシルベートに聞く。

 気楽な探検のはずが、見るからに大事だった。

「いやー、なんでかな? 俺の勇名が故郷に届いたのかな……ははは……」
 シルベートも何事かといった表情。

 人口は七万ほどのリヴォニア伯国。
 山脈にせき止められた雨雲を頼りに、果樹や穀物の生産が盛んで大都市ライデンへの輸出が主要産業。

 貧乏ではないが立派な小国で、保有する戦力は海賊対策の軍艦が三隻のみ。

「その一隻を、たかが冒険者の輸送に使うわけないだろ……?」
「だよなあ……」

 二人の団長がひそひそと話す内に、港の入口にもう一隻軍艦が現れる。
 合計二隻、全戦力の三分の二を投入する大作戦。

 シルベートの”銀色水晶”団は、タックスら気の合う仲間と作った小規模な冒険者ギルド。

 それでも平均以上の団員ばかりで、団としての実力は高い。
 ミュスレアのレベルを50とすれば、30から40くらいの戦士の集まりといったところ。

 ただの探索ならば、充分過ぎるメンバーであるのだが。

「銀色水晶団の皆様ですね? 早速ではありますが、乗艦を願えますか。自分が案内いたします」
 迎えに来たのは軍人、しかもあきらかに士官の制服。

「大歓迎だなぁ」
 アドラーはただの探索ではないと悟った。


 詳しくは、艦長が自ら語った。
 まだ若く背が高い、短く刈り込んだ髪が爽やかな海軍のエリート。

「あら、かっこいいじゃない」
 リューリアがぽつりと漏らすと、銀色水晶団の男どもが涙した。

 シルベートとアドラーが代表して話を聞く。
 艦長はエルマー・クレサーレだと丁寧に名乗る。

「ようこそ、当艦は皆様を歓迎いたします」
 エルマーは軍人らしくなく歯を見せて笑ってから、いきさつを話し始めた。

「始まりは二年ほど前になります」
『また二年前か』と、アドラーは偶然に驚いた。

「島の東の廃城で動く影を見たという報告があがってたのですが……なにぶん、我が国には陸軍がなく、船も近づけぬところですので。それが先日、東岸沖合で軍の練習船が襲われました」

 練習船は手漕ぎの大型ボート。
 二十四名の訓練生と教官が乗り込み、島を一周する訓練に出たところを襲撃された。

 死者は一名。
 教官が陣頭に立って戦い犠牲になった。

「敵の姿は?」
 シルベートが聞いた。
「蛇のようであったと」

「それは、陸に戻ったのですか?」
 今度はアドラー。

「西方の陸地、廃城の方へ泳ぎ去ったと。恥ずかしながら、指揮官を失った訓練生では見届けることも出来ず。ですが、我々は仇を取らねばなりません」

 エルマーは一度話を切った。

 やられれば絶対にやり返すのは、戦闘集団の宿命である。
 でなければ部下は命をかけない。

『だが、訓練された水兵を慣れぬ陸戦で失うわけにもいかんよな』

 アドラーには、目の前の高級士官の気持ちがよく分かった。
 一人の水兵を一人前にする費用で、今回の15人くらい軽く雇えてしまう。

「岩礁の外で我らは待ち構えます。そこへ追い出していただきたい」
 エルマーの要求は単純明快。

 投石機とカタパルトを装備し、槍に弓に船体は魔法でがっちり強化。
 軍艦が二隻もあれば、相手が巨大なヒドラでもまず勝てる。

「ところで、出会ったついでに倒してしまったら?」
「それは喜ばしいことですね。慣れない魔物との戦いで、これ以上、兵に損失を出したくない」

 しれっと言い切った艦長に、彼は軍人よりも政治家向きかもしれないと、アドラーは思った。

『捨て石……という訳でもなさそうだ。冒険者の正しい使い方だな』
 アドラーも特に不満はない。
 細かな条件や連絡方などを取り決めて話は終わった。

 アドラー達15人を海岸へと運ぶ小舟に、連絡将校が一人付いてきた。
 平和な国の軍人らしく、気難しいとこがなく良く喋る。

「全体の指揮を執るのはクレサーレ艦長ですね。個人的な仇討ちでもありますから」
「どういう意味だ?」

 お喋りな将校にシルベートが聞いた。
 しまったと言う顔を一瞬だけ作って、将校は話を続けた。

「聞いておりませんか? 犠牲になった教官は艦長の弟君です。それゆえお父君の反対を押し切ってまで陣頭に出られたのです」

「話が見えないな。艦長の父は高官なのか?」
 今度はアドラーが尋ねたが、今度は将校も普通に驚いた。

「クレサーレ家は、リヴォニアで唯一の伯爵家でございます」

「ああっ、そういえば!」
 この国出身のシルベートが間抜けな声をあげた。

「そう言えば、首都と同じ家名だったな……」
 今更ながらアドラーも気付いた。

「へえー、格好良くて王子とか完璧じゃない。もうお嫁さんはいるの?」
 露骨な野望を口にしたリューリアを見て、銀色水晶団の男どもが再び涙した。

「はい。一昨年に結婚なされました」
 将校は包み隠さず話す。

 これを聞いた銀色水晶団の男どもの士気が急激に高まる。
 探索の予定が討伐に変わった今、やる気があるのはとても良いことであった。
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