朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第三章

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 あと山を一つ超えれば目的地といった浜辺で、アドラー達は野営の準備に入った。

 とはいえ、天幕から食事の準備までリヴォニア海軍の兵士が全部やってくれる。
 指揮はお喋りな連絡将校が執る。

「こっちは……」
「武器の点検でもするか」

 十五人の冒険者は、誰からとでもなく装備を確かめ始めた。
 討伐クエストとなった今、やりすぎて困ることはない。

 シルベートが隊割りの相談をアドラーに持ってきた。
「俺と副団長とあんたで三隊組む。それで、これが地図だが」

 廃城となっているが、数百年前に暴れた海賊の根城。
 海に面した要塞である。

「まずは周囲の探索。入り込んでるなら入り口がある、そこを塞ごう。それから中へ入るが……中央のルートは俺たちが行こう」

 アドラーは中央奥にある大部屋への順路を選んだ。

「良いのか?」
 当然ながら、大物が居ればこのルートが真っ先に出会う。

「傭兵だからな、役に立たせてもらうよ。それにリューリアが居ても、俺の隊が一番戦力が高い」

 アドラーはちらっとミュスレアを見る。
 ミュスレアは妹の装備と持ち物を、何度も何度も繰り返し確かめていた。

「それは助かるが、あっちは?」
 シルベートは暇そうなブランカをちらっと見た。

「あの子に心配は無用だ。もしブランカの手に負えないのが出たら、直ちに退却を進言するよ」
「それほどかね?」

 まだ心配そうなシルベートへ、アドラーは断言した。
「それほどなんだ。あまり、言いふらさないでくれよ?」

「分かった。太陽と鷲が潰れたら、リューリアちゃんと一緒にうちが引き取るよ」

 二人の団長は軽く笑いあったが、アドラーは一つ気付いた。
『そうか……ミュスレア達には、他所のギルドに世話になるって手もあったな……』

 力のあるギルドに入れば、カナン人のネットワークでも手出しは出来ない。
 街のならず者など一蹴する実力が冒険者にはある。

 最後にアドラーが尋ねた。
「ところで、姉の方は引き受けてくれないのか?」
「俺の手に余る」

 ギルドの長で中堅以上の実力を持つシルベートが即座に断言した。
 笑い声をあげた男二人のところへ、ミュスレアがやってくる。

「なになに? わたしの話をしてたろ?」
 エルフの感覚は鋭い。

「い、いやいや! ミュスレアさんが頼りだって話をね!」
「そうですそうです! 明日は頼みますぜ、あねさん!」

「おう、任せとけ!」
 ライデン市を代表する戦士は、女性用の特注胸当てをぽんっと叩いた。

 夕食はリヴォニアの名物料理。
 サーレモアという島特産の飛べない鳥の腹を割って香草を詰め込み、塩をすりこんで木の葉に包んで地中で蒸し焼きにする。

 これが抜群に美味いものだった。


「止まれ、崖だ」
 先頭を歩く冒険者から合図が飛んだ。

 アドラー達は夜明けと共に山に入っていた。
 沖合に停泊していた二隻の軍艦も同時に帆をあげる。

 軍艦には百名以上の兵が乗る。
 マストに登って帆を張っていた水兵が、器用にも帽子を振ってアドラー達を見送った。

「高くはないが、厄介だな」
 廃城に向かって急角度で削れた断崖は、海からの風が吹き付け、冒険者七つ道具のロープを舞い上げる。

「一人、先に降りて固定しよう」
 シルベートが定石通りの指示を出す。

「はい! あたしがいくよ!」
 ブランカが元気よく手をあげた。

 これまで目立たなかったのには理由がある。
 角と目立つ尻尾を隠すために ぶかぶかの服と長い腰巻きを着せられていたのだ。

 分厚い上着をブランカがまとめて剥ぎ取った。
 一つにまとめた白銀の髪から生えた角、短いスカートから伸びる足と尻尾、下には防御用の短パン。

「お、お前、女の子だったのか……!?」
「見ろ、立派な角だぞ!」
「白くて綺麗な尾まである……!」
「いったい何竜の化身なんだ……」
「かわいい」

 律儀にも、銀色水晶団の面々が驚くふりをしながら褒める。
 もちろんながら、彼らとは事前に普通に顔合わせをしている。

「なんか、すまんな」
 アドラーの小隊に入ることになったタックスが謝る。
「いいよ、ブランカも喜んでることだし」
 
 銀色水晶団の士気はとても高い。

 注目を浴びて上機嫌になったブランカは、十数メートルはある断崖を見下ろすと、そのまま飛び降りた。

「あ、こら!?」
 さすがのアドラーも慌てる。

 腰にロープを結んで慎重に降りる予定であったが、ブランカは適当に崖を蹴り、岩を掴みながらするすると立ち降りた。

「おおおーっ!!」
 今度はわざとではないどよめきが上がる。

「なるほどな、心配無用なわけだ」
 シルベートも納得した様子だった。

 上から下に予備を含めて二本のロープを張り、安全索も付けて降りる。

 リューリアも怖がったが嫌がらなかった。
 このへんが冒険者向きの性格で、流れを止めることなく崖に足を踏み出す。

「飛ぶよ、飛ぶからね? ちゃんと受け止めてよ!?」
 最後の五メートルほどは手を離し、アドラーの腕の中に落ちてきた。

「ふう、冒険者っても歩く方が多いのね。ありがと、アドラー」
「いえいえ、とても軽うございました」

 リューリアは満足そうにアドラーの腕の中から地面に立った。

「飛ぶぞ? わたしも飛ぶぞ?」
 それを見ていた姉の方が何やら言い出した。

「あ、どうぞ。自分は避けておきますね」
 アドラーは着地点をあける為に下がる。

 なるべく身軽にしたリューリアと違い、ミュスレアは防具と剣も付け、ついでに荷物も背負って軽々と下ってきたのだが。

「なんだとこの野郎!」

 怒ったミュスレアが六メートルほどの高さから飛び、見事に着地して、そのままアドラーに詰め寄る。

「どーいうことだ!? 団長が団員の扱いを変えるとは何事だ! 傷つく年頃なんだぞ!?」

「フ、フル装備の冒険者を受け止めたら、足の骨が折れてしまいます!」

 アドラーは必死の言い訳と謝罪を繰り返すことになった。

「女の居る団ってのも大変そうだな……」
 タックスが呟いた。

「くくくっ」と、ブランカが楽しそうに笑う。

 険しい陸路だったが、冒険者達は目的の廃城まで問題なく辿り着いた。
 ここからが本番となる。
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