朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第四章

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 エルフの国スヴァルトは、港町まで森に囲まれる。
 
 山と水と森、そして温泉が名物の寒い南国へ付く頃には、ミュスレアの機嫌も直った。

「兄ちゃん……本当に、頭を低くして嵐が過ぎ去るのを待ったね……」
 キャルルの視線には、アドラーを責める色があった。

「何を言う、キャル! 俺の言ったことは正しかったろ?」
「ええ……そんな兄ちゃん見たくなかった……」

「キャル、冒険者はむやみに危険には踏み込まぬものさ」
「うわぁ……」

 アドラーの処世術は、まだキャルルには理解できなかった。


 首都はタリス。
 人口は十万もなく、緑豊かな広い土地を贅沢に使う。

 スヴァルトに住むエルフは百万人ほどと言われるが、それ以外の種族も多い。

 山を求めてドワーフ、土地を求めてヒト、自然を好むコボルトなどが、エルフと同じくらい住む……と、アドラーは説明を受けた。

「で、最大派閥のエルフ族と、次に来る勢力のヒト族との綱引きでもあるんだな。この国の外交は」

 アドラーの言葉に、ファゴットは頷いた。

「私が言うのもあれですが、エルフってのは細かい書類仕事が苦手でして」
 
 役人や大臣はヒト族が勤めることが多いと、ファゴットは語る。

「そのトップが宰相のカーバか」

「はい。まあ我々エルフは、寿命の短いヒト族が権勢を握ろうと余り気にしないんですよ。実際、カーバは有能ですから」

 運営や商売に関しては、人が抜群に上手い、次がドワーフ。
 生来の素質的に向いてるのだろう。

 エルフ族は通常で三百年ほど、クォーターでも百五十から二百年は生きる。
 そのせいか細かいことに拘りが薄い。

「お陰で、情報管理も適当なんだよな……」

 アドラーが居るのは、首都タリスにあるファゴット一族の屋敷。
 ここに至るまで、後を付けられているのに気付いていた。

「どうするの、これ?」

 アドラーがちらりと外を見る。
 襲ってくる感じはないが、見張られているのは間違いない。

「本当にすいません。まさかここまで激烈な反応があるとは思わなかったもので……」

「サイアミーズ王国とミケドニア帝国は不倶戴天の宿敵だからな。直行しない方が良かったかな」

 この二大国は、直接の国境線を持つ。
 帝国の玄関口の一つライデン市、そこから大使が緊急帰国となれば嫌でも目立つ。

「本当にすいません……」
 育ちの良いエリート官僚は、もう一度素直に謝った。

「まあ良いですよ。こちらからも仕掛けてみますか」
 
 アドラーは、ようやくファゴットを信用する気になった。

 どうも腹芸の出来るタイプではなく、ただ使命感に燃えた貴族のお坊ちゃま。
 つまり足手まといにはなるが、敵になっても怖くない。

 そしてアドラーは、困ってる人を見捨てられぬ、とても面倒見が良いタイプであった。

 皆のところに戻ったアドラーが、全員を呼び集めた。

「ブランカとリュー、これから一緒に……って、どちら様?」

 アドラーのとこへ真っ先に寄って来たのは、長いブロンドに豪華なドレス。
 高価なアクセサリーで飾り立て、薄く化粧もしたエルフの美少女。

「ごきげんよう、お兄さま」
 少女は、笑いすぎないように上品に微笑んだ。

「キャ、キャルル……か?」
「はい、お兄さま」

 キャルルは、仕上がっていた。
 この屋敷に居る侍女が、総動員で完成させた姫の身代わり。

「へー、ほー。凄くかわいい。ドレスもよく似合うよ、素敵だぞ!」
 覚えたてのスキルを使って、アドラーは激賞した。

「う、嬉しくない……そんな事を言われても嬉しくないはず……なのに、何故かちょっと嬉しい……。なんで、兄ちゃん?」

「いやいや、待て! 慣れぬ場所で慣れぬ物を着て、高い装身具を着けてるからだ! それだけ、それだけだぞ、キャルル!」

 アドラーは全力で意見を修正した。

「ふーん……なんか良いわね、これ」
 リューリアが弟の衣装を、羨ましそうに引っ張る。
 彼女はこんな豪華な服など、着たこともない。

「あの、あとで生地だけでも送らせていただきます。この一着のために大量に注文しましたので」

 ファゴットが気を利かせた。
 キャルルより背の高いリューリアでは、弟の服は入らない。

「ほんと? 約束よっ!」
 リューリアが嬉しそうに飛び跳ねた。

「悪いな、ありがとう」
「いえいえ、これくらい何でもありません」

 喜ぶリューリアを見て、アドラーもやる気が出た。

「さて、みんなこっちへ。これから釣りをします」
「釣り?」

 三姉妹にバスティにブランカとマレフィカ、全員の声が揃った。


 日が沈んだ後、アドラーは屋敷を出た。
 正体を隠すように足元まであるコートとフードの女性を連れて。

 そのまま首都の繁華街へ向かう。
 一軒のアクセサリー屋の前で足が止まった。

 木と石を組み合わせたエルフの細工物は有名である。

「アドラー、これ! ちょっと見て良い?」
「えー、予定にない行動は……」

「ねえ、見るだけ!」
「どうかなあ……」

「お願い、お兄ちゃん!」
「いいよ、何か買ってあげよう!」

 アドラーとリューリアだった。
 エルフの次女は、先程『お兄さま』と呼ばれたアドラーの反応を見ていた。

 そして効果的に使った。
 一方のアドラーは前世でも今世でも兄弟はなく、甘えられるのに耐性がなかった。

 アドラーが拾われた当初は、当然ながらリューリアは露骨にアドラーを避けた。
 当時は十六歳の少女にとって、怪我人とはいえ知らない男性など距離を取るべき存在。

 しばらくして慣れたが、よそよそしいのは変わらない。

 変わったのは、アドラーが”太陽を掴む鷲”に入ってから。
 とあるクエストでハグベア―という巨大熊に出くわし、ミュスレアが深い傷を負った。

 そのミュスレアを、アドラーが背負って街まで運んだことで、ようやく許しを得たのだ。
 街まで六十キロほどあったが、アドラーは三時間で走破した。

「あー、うーんと、お姉ちゃんをありがとう。また、うちにご飯食べに来てもいいわよ? キャルルが喜ぶから仕方なくだけどね!」

 これ以降、リューリアの警戒度は格段に下がった。
 その少女に『お兄ちゃん』と呼ばれ、アドラーは感激した。

「なんでも良いよ、好きなのを選んで」
 リューリアが髪に付ける翠石のブローチを選ぶのを、満面の笑みで見守っていた。

 思わぬ戦利品を得たリューリアと、感激もひとしおのアドラーが街の暗がりに入る。

 灯りと人通りもない小道。
 突然、アドラー達の行く手に数人の男が現れた。

「へへへ、大人しくしてりゃ痛い目は見ずに済むぜ?」
 お決まりの文句を発した男らは、どう見ても真っ当な生業をする者達ではなかた。

「きゃ、きゃあ!」と、悲鳴を上げてリューリアがアドラーの後ろへ逃げる。

「おっと、女か?」
「おい、よく顔を見せろ」

 男の数は五人、半円でアドラーを囲み逃さぬ構え。

「な、なんだね君たちは!?」
 声をあげたアドラーの顔面に、容赦のない拳が飛んだ。

「うん? 倒れないとは当たりどころが悪かったかな?」
 三人ほどが、アドラーに詰め寄って殴り始めた。

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