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第四章
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しおりを挟む『ポリオル王とケテス帝が開いた海の道』――通称大運河は、元々は浅瀬の狭い海だった。
物知りの魔女マレフィカが解説してくれる。
「二千体のゴーレム、十万人以上の労働者。それぞれが魔法で強化された道具を持ち、砂を抜いて岩盤と崖を削った。両大国の面目を賭けた大工事だ。まあ……途中で互いの主張が噛み合わず、戦争にまで発展したが」
なんだかんだで、完成まで百年以上、完成してからは二百年。
西岸のアビニシア側は砂浜、東岸のミケドニア側はドーバーのような断崖。
幅は狭いとこでも1キロ以上、真っ直ぐ進むのが苦手な帆船でも悠々と通ることが出来る。
「どうだブランカ、人も凄いだろ?」
アドラーは、個体としては頂点を極める竜種の娘に自慢したくなった。
細長い人工の運河を物珍しそうに見ていたブランカが答える。
「むむむ、これくらい出来るもん。あたしは無理でも、お婆様なら!」
「ははは、そうかそうか」
ブランカの祖母、成長しきった祖竜でも、幅2キロに長さ20キロに渡って大地を砕ける訳がない、とアドラーは思った。
強がりを言ったブランカの銀の髪を、ぽんぽんと叩く。
「むむむ! 見ててよ!」
ブランカが、東側の断崖に向かって口を開いた。
「ブ、ブランカちゃん、な、何を? ひっ!?」
最初にマレフィカが気付く。
「うーん、んん? 何をやってる……おい、バカやめろ!」
アドラーも気が付いた。
開放すれば船の一隻くらいは吹き飛ばせる魔力が、ブランカの喉のあたりに集中していた。
ブランカの目に、鳥類や爬虫類などが持つ瞬膜が現れ、彼女の目を守る。
そこまで確認したアドラーが、マレフィカに警告した。
「目を閉じろ!」と。
一瞬だけ激しく光り、次の瞬間には岩が崩れる音がした。
アドラーが目を開くと、少し先の東壁に大きな穴が空き、大小の石が海になだれ落ちるところだった。
「な、なんだ!?」
「何事だ!?」
船員達が、慌てふためいて甲板に飛び出してくる。
「がけ崩れだ、大波が来るぞ! 急いで舳先を波に立てて、お願いします!」
アドラーは船員に頼んだついでに神にも祈った。
『船が沈んだら、俺たちのせいになってしまう!』
黄金鳥号は、建造されてから最大の危機を見事な操船で乗り切った。
上下に激しく揺れる大波を超える度に、ブランカはきゃっきゃと楽しんで、マレフィカは船酔いで吐いた。
「ブランカ」
「あい!」
「今後、さっきの技は禁止です」
「竜の吐息だぞ!」
「駄目です。許可なくぶっ放してはいけません」
「……はーい」
「てか、あのブレスは何時でも使えるの?」
「うーん……力を貯めるのに食事100回くらい」
「一ヶ月に一発かぁ……いやいや、禁止です。ところで、お婆様も出せるの?」
「お婆様が本気を出せば、あれが天を覆うくらい降ってくる!」
「あーなるほど、ふーん……戦わなくてよかったぁ……」
アドラーは、ブランカの祖母が見立てよりも遥かに強かったと知った。
黄金鳥号は、謎のがけ崩れによる転覆の危機を乗り切った。
大運河を抜けると、南西に舵を取る。
沿岸でなく海の真ん中を突っ切るのだ、もちろんサイアミーズ王国の妨害を避けるために。
迷う心配はない。
各地の大灯台から信号を受信して、現在位置を地図に示す魔法道具がある。
「GPSとまではいかないが、電波の位置測定器と同等だなあ」
ドゥルシアン船長が操舵室に入れて見せてくれた。
ドゥルシアン船長も、ファゴットと同じ一族で和平派の貴族。
目的を同じくする、また海賊を撃退したことで、アドラーの扱いは更に良くなった。
「海よー! 人魚よー! 見てアドラー、人魚が泳いでる!」
外洋に出るとマーメイドが姿を見せる。
リューリアは船旅でとてもご機嫌だった。
「ねえ、リュー。お姉ちゃん、まだ怒ってる?」
ミュスレアは、あの夜以来、機嫌が悪い。
「まーね。お姉ちゃんの怒りが三日も続くなんて、珍しい」
瞬間湯沸かしだが冷めるのも早いが、ミュスレアの特徴なのだが。
「とほほ。なあ、機嫌を直すようにリューからも言ってよ……」
服を褒めなかっただけ――キャルルに指摘されアドラーは気付いた――で、これほど怒るとは、アドラーは思っていなかった。
「その内直るわよ。ねえアドラー、これどう?」
空色のワンピースを着たリューリアが、舳先の近くでくるくると回った。
「ああ、危ないなあ。いや、とてもかわいい! よく似合ってるよ!」
アドラーは、直ぐに褒めるスキルを習得していた。
その頃、マレフィカは、船室の一つに閉じ籠もりエルフの魔法道具を調べていた。
アドラーが無理を言ってファゴットから巻き上げた、映像を記録する水晶球。
「マレフィカ、これを改良して猫でも扱えるようにしてくれ。いや、比喩でなくそのままの意味だ。解像度を上げて何十枚と保存出来るように」
「また無茶な要求だなー。けど、いいよやってみよう」
待ち受けるのが何にせよ、アドラーには情報も手札も少ない。
主戦派の首魁はスヴァルトの宰相。
政策顧問としてサイアミーズ王国から派遣され、そのまま居座った人族の切れ者。
戦場が宮殿の中では、アドラーに出来ることがない……のだが。
「バスティさん、出番だよ」
「にゃ?」
アドラーには、何処にでも入り込めて、言葉の分かる賢い猫がいる。
航海の最中、魚を食べると眠るを繰り返し、少し太ったバスティ。
アドラーは、その首輪に水晶球を取り付けた。
天候に恵まれ快速を飛ばした黄金鳥号は、六日の航海でスヴァルトの港へ入る。
いよいよ、エルフの国へ到着した。
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◇
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