朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
55 / 214
第四章

55

しおりを挟む

 アドラーが船室へ降りて行くと、ファゴットが剣を持って立っていた。

 その周囲には、六人の海賊が転がってうめき声をあげる。

「これは……大使殿が?」
 アドラーが尋ねると、ファゴットは曇り一つない新品の剣を横に振った。

「いえいえ、私はまったく。こちらのお嬢さんが」

 エルフ族らしく背の高いファゴットの向こうから、ブランカが顔を出す。

「弱かったぞ。手加減もしてやった」
 ブランカが褒めてくれと寄ってくる。

「良くやった良くやった。で、これだけ?」

「多分残りは……」と、ブランカが上を指差した。
 客室の上、甲板からは弓の弦が空気を弾く音が間断なく聞こえてくる。

 ドゥルシアン船長の指揮の下、エルフの船員達が本格的に反撃を始めていた。

「結構捕まえちゃったな。海軍が来る前に話を聞かないと」

 ここに転がる六人に加え、甲板にも十数人が倒れている。
 通報を受けた軍艦が来る前に、海賊親分から雇い主を聞き出す必要があった。

「さて、ファゴットさん。あなたにも聞きたい事があるのだが……」

 アドラーは、長身で顔の良い若手官僚風のエルフを信じかねていた。
 敵意がないのを示すかのように、ファゴットが先に剣をしまう。

「私ではありません。わざわざ呼んで海の上で、なんて面倒なことはしません。ただまあ……もう少し詳しくお話しする必要が……」

「あるよな?」
「はい、ございます」

 ファゴットが話すと約束したので、アドラーは先に親分を尋問することにした。

「ご一緒してよろしいですか?」
「殺すなよ? 剣を抜いたら腕を折るぞ」

「そんな事しませんよ。私は平凡で平和を愛するエルフですから」
 ファゴットは嘘くさく笑った。

 アドラーとファゴットが甲板に上がる。

 既に、二隻目の海賊船も逃げ出し、倒れた松明や放り込まれた火炎瓶の火を消すために、小さなサンドゴーレムが忙しく動き回っていた。

 普段は防火砂と書かれた樽の中で眠るサンドゴーレム。
 船に火がつくと、自動的に出てきて火の上に座って消火、終わると自分で樽に戻る優れた魔法道具の一つ。

「便利なものだなあ」
「凄いでしょう。あれも我が国の製品です。精霊を使った商品は、我がスヴァルトの特産です。ただまあ、その技術を狙う者……国もありまして」

 ファゴットが含んだ話し方をする。
 お家事情を詳しく教える気になったのだと、アドラーは思うことにした。

 鎖骨が砕けた親分へ、アドラーは単刀直入に聞いた。

「目的と雇い主を話せ。嘘だと判断したら……お前らどっちだ? ミケドニアの出身か? ならアビニシアに引き渡す」

 海賊は基本的には縛り首。
 だが自国の漁民の小遣い稼ぎは……少しは多めに見てもらえる。

 戦時となれば貴重な海上戦力に早変わりするからだ。

「ミケドニアに渡して貰えるんですかい?」
 肩を押さえた親分が聞き返す。

「話の内容次第だ。船長は矢の練習台にすると息巻いてるぞ、二十人は捕らえたからな」
 アドラーは嘘をついた。

「話す、話します。あっしらは殺しはやらない、優しい海賊なんでさ」
「賊に優しいも厳しいもあるか」

 アドラーには海賊に優しくしてやる理由がない。

「おっしゃる通りで。簡単な仕事だと聞いてたんでさ、化け物みたいな護衛が付いてるなんて聞いてませんでさ。義理もないんで全部話します」

「良いだろう」
 アドラーは、ようやく剣を腰に収めた。

「ガキを一人……金髪のエルフの子供をやってくれと、殺しの依頼で」

 アドラーは、アビニシア側に引き渡すことを検討し始めた。

「いやいや! さらって売れば良いと思ってたんで、本当ですぜ? 前金で全額ですし中型の帆船。小遣い稼ぎにはもってこいの依頼だったので、つい」

「それで、頼んだのはどんな奴だった? 直接会ったか?」
 ファゴットが質問した。

「依頼人は、何時もの仲介人ではなかったです。見たこと無い奴でした」

「エルフ族か?」
 ファゴットは自分の長い耳を強調するようにして聞いた。

「違います。間違いなく人族でさ、ただ訛りが南の方でしたな」

「貨幣は、何処の国のものだった?」
 今度はアドラーが聞く。

「ミケドニアの共通金貨でさ。依頼の理由は何も、まあわしらも聞きませんでしたが」

「それで、依頼は何時来た?」
 次はファゴット。

「二日前でさ。時間的にはギリギリですぜ、これ以上遅いと襲うのも間に合わない。あっしら、普段は漁とか水先案内とかやってるんですぜ?」

 二日前は、アドラー達がとっくに出港した後になる。
 この大陸の情報速度は驚くほど早く、ファゴットの側近から漏れた線は薄くなった。

 さらに幾つか質問を重ねたが、有用なものはない。

 親分は痛みをこらえて愛想笑いを浮かべていた。
 縛り首になるか、数年の重労働かの別れ際、嘘ではなさそうだとアドラーは判断した。

「運が良いなお前」と、アドラーは夜の海を親指でさした。
 闇夜を漕いで、大型の戦闘用ガレーが近づいてくる。
 マストには、ミケドニア帝国の旗があった。


「さて、大使殿。詳しく話してもらいましょうか」
 海賊どもを引き渡した後、アドラーはファゴットを問い詰める。

「実はですな。我が国は一枚岩というわけでなく……」
 エルフの役人は、分かり切ったことから話し始めた。

「まずは王党派。和平派と言ってもよく、オークとの会談成功を祈る者。そして主戦派。実は、サイアミーズ王国が軍を出すのでオークを叩き潰せと、煽り立ててまして」

「サイアミーズが?」

 サイアミーズ王国は、三大国のうちの最後の一つ。
 ミケドニア帝国の南方に広がり、中央集権の進んだ軍事強国。

「軍を借りてオークなど一掃すべしとの勢力も根強く、王子のご病気は奴らの呪いなのではとの噂まである程です」

「呪いねえ……」
 この世界の人々は、妙なとこで迷信深い。
 魔法と神の力を使いこなすのに、実態のない呪いやたたりも恐れる。

 いや、むしろ正しい態度なのかなと、アドラーは少し考えなおした。

「それで、あんたはどうなんだ。キャルルに害をなすなら……」
「もちろん私は和平派です! ほんとです! 信じて下さい、殺気をおさめて下さいってば!」

 裏の読めぬ役人は信用ならない。
 アドラーは、クォーターエルフの一家に手を出すなら、迷わず真っ二つにするつもりであった。

「え、えーっとですね。信じて貰えるかわかりませんが、今回の費用は私の自腹です。と言っても、父が出したのですが。父は外交事務を取り仕切る重臣で、和平派のトップです」

「外国と繋がってる立場じゃないか」
「だからですよ。サイアミーズの軍を国内入れればどうなるか、よく知ってます」

 とりあえずだが、アドラーは刀の柄から手を離した。

「ふぅー、分かって貰えて嬉しいです。もう一つ打ち明けますが、団長殿がお強いのも良く知ってます。調べましたので」

 ファゴットは青年に見えるが、エルフ族なら四十から五十年は生きている。

 その渾身のドヤ顔に、アドラーはいらっとしたが、今のところは大使を信用することにした。

 アドラーが船室に戻ると、ミュスレアがまだ起きていた。
 夜会で着る予定だった、裾の長いドレスを着ていた。

「どうかな?」と、ミュスレアが聞いた。

「ああ、ちょっと問題がある。あまり安全とは言えなくなった」

「そうじゃなくて!」
「えっ? スヴァルト国の事情でしょ?」

「もういい! 寝る!」
 ドレスの裾を踏みつけるかのように、ミュスレアは大股で女子部屋へ消えた。

 首をかしげたアドラーの寝室は、キャルルとの二人部屋。
 少年もまだ起きていた。

「兄ちゃん……今のはないよ……」
 年若いクォーターエルフが呆れた声を出した。

 長い夜になったが、無事に朝には大運河を抜ける予定であった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...