朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第四章

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 屋敷の中央にある、応接室と続きの間がアドラー達に与えられていた。

 部屋は広く、客人の扱いはとても良い。
 衝立で仕切ってふかふかの羽毛ベッドを並べ、食事はもちろん名物の温泉も提供する歓迎ぶり。

 部屋へ戻ったアドラーを、ミュスレアが起きて待っていた。
 
「アドラー、ブランカ、おかえりなさい。お疲れさま」

 キャルル達が寝て、アドラーがいない間はミュスレアが頼り。
 彼女は、ほぼ完全装備で警戒していた。

「どう、収穫あった?」

 ミュスレアは、普段は後ろで結ぶ髪を長く垂らしている。
 それだけでも、少し大人っぽいなとアドラーは感じた。

「あ、うん。予想以上に聞き出せたよ」
「それは良かったわね。わたしが聞いておくべき情報ある?」

「あるが、明日で良い。今夜はファゴットと話す」
「そう。なら、お風呂に入ってきますか! ブランカおいで」

 ミュスレアは、ブランカを連れて風呂場へ向かう。

「ほい! うーん……団長は一緒に入らないのか?」
「そ、そんなこと出来るわけないでしょ! 夫婦でもないのに!」

 慌てたミュスレアがブランカの手を引いて、部屋を出ていく。

「夫婦なら……良いのか……」

 結婚をしたことがないアドラーが、ぽつりと呟いた。

 だが、そんな事を考えてはいられない。
 アドラーは、夜番の家令を呼んだ。

「ファゴットと話したい。着替えたら行くと伝えてくれ。それと、これを先に渡しておいて」

 アドラーは、シャイロックから分捕った書類を数枚渡す。

「承知いたしました」

 家令は、主人はもうお眠りでなどとは言わなかった。
 アドラーがスヴァルトに付いてから、国の緊張は高まる一方なのだ。

 一応、ミュスレア達が風呂から戻るまでアドラーが番をする。

 バスティもキャルルもリューリアもマレフィカも、みな静かに寝息を立てていた。

「……残業から帰って子供の寝顔を見るって……こんな感じかな?」

 姉が二人のキャルルは、男のアドラーをすんなり受け入れた。
 女装させて替え玉にするという酷い扱いを受けても、まだアドラーのことを強くてカッコ良い兄ちゃん、と思ってるとアドラーは信じていた。

 リューリアも一時期の警戒を解いて、一室で寝起きすると決まっても文句を言わなかった。

「着替えるから、あっち向いてて」
 この一言のみで、安全の為にみんな一緒を受け入れた。

「ミュスレアさんは、分からないなあ……」
 彼女の最優先が、妹と弟なのは確か。

 その二人がアドラーに懐いたことで、長女のハードルがぐっと下がったことはアドラーにも分かる。

 ただ時々は、不可解な態度もあった。

「ふぅ、いいお湯だったわ。良い国ね、ここ」
 長女が戻ってきた。

 ブランカの銀色の長い髪を、ミュスレアが丁寧に拭いて整える。
 彼女は、妹分が一人増えてもまったく気にせず自然に面倒をみる。
 ブランカも「くすぐったい」と、嬉しそうに身を任せていた。

 寝間着になったミュスレアの白い首筋から目を逸しながら、アドラーは言った。

「少し、ファゴットと相談してくる」
「ご苦労さま、いってらっしゃい」

「えーっと、先に寝てて良いから。あと……なんだかいい匂いだね」

 ミュスレアからは、天然温泉に浮かべた柑橘系の果実と、石鹸の混じった良い香りがした。

 アドラーは先日の失敗を生かし、気付いたことを直ぐに褒めたのだ。

「……!? きゅ、急になにを!? 女の子に匂いの話をするなんて!」

 顔を真っ赤にしたミュスレアが右手を振り上げる。
 怒れる雄牛すら仕留めるといわれる、ライデン市が誇る女冒険者の一撃を避けるため、アドラーは部屋から飛び出た。

「な、なぜだ……褒めたのに…………」
 彼女は時々、アドラーには不可解な態度をとる。

 けたけたと笑うブランカの声に送られて、アドラーはファゴットの居室に行く。

 夜明けも近くなってきたが、アドラーまだまだ眠れない。
 ギルドの長とは、とんでもないブラック環境である。

 しかし翌朝、ミュスレアの機嫌はすこぶる良かった。

 布団にしがみつくアドラーを起こそうとするキャルルとバスティに対し、「まだ寝かせてあげなさい。昨夜遅かったんだから」と叱るくらいご機嫌だった。

 アドラーにとっては、世界の不思議がまた一つ増えただけだったが。
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