朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第四章

共に戦えば仲良くなるはず

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 キャルルの為にファゴットが用意した馬車は、鹿が引いていた。

「鹿車?」
「あえて言うなら、馬車です」

「いや、鹿だろこれ……」

 アドラーは言いたいことがあったが、馬車に乗り込んだ。

 エルク――寒冷地帯に住む大型の鹿。
 エルフは、エルクを捕まえたり繁殖させて日常に使う、もちろん戦にも。

 通常サイズでも肩まで二メートルはあり、頭までは三メートル。
 力はかなり強い。
 スタミナも抜群、地球のトナカイは一年に数千キロも移動するが、それと同じく広大な寒帯を走り回る。

「でけえ!」
「かっこいい!」
 キャルルとブランカの目がキラキラしていた。

 四頭引きで座席が三列、最大十二人が乗れる高級車が旅の足。
 静音と制動の魔法付き、対衝撃防御と重量軽減の魔法まで付けたリムジン級の”馬車”だ。

「張り込んだなあ……」
「必ず無事に返すのがお約束ですので」

 昨夜の話し合いを経て、ファゴットも覚悟を決めたようだった。
 予算の出し惜しみはなし。

 これで南のオークの集落へ向かう。
 途中でスヴァルトのわがまま姫と合流し、姫は国境手前の城館に籠もる。

 そこから先は、キャルルの細い肩にかかっていた。

「よし、出せ」
 ファゴットの合図で馬車が動き出す。
 四頭の鹿は、軽快な速度で走り出した。

「ファゴットと話した内容を皆にも話すね」
 まず最初に、アドラーは情報の共有をした。


 ――深夜、アドラーは屋敷の主人の部屋を訪れた。
 扉を叩くと直ぐに反応があった。

「悪いな、寝てたろ?」
「いえいえ。アドラーさんこそ、休みもなくすいません」

 ファゴットは、自分で運んできたキナ茶を差し出す。
 キナには渋い苦味があり目が覚める。

「それで、何か分かりました?」
「知った顔がいたので、裏切らせた。根こそぎ吐いたよ」

「それは何とも……顔の広いことで」
 ファゴットが驚く。

「たまたまだよ、ろくな顔ではなかったが。それはいいとして、緊急だ」
「伺いましょう」

「既に傭兵が八百ほど港に着いてる。手配した商人から直接聞いたそうだ」

「確認させます」
 ファゴットが人を呼ぼうとしたが、アドラーは止めた。

「まだだ、さらに傭兵千四百ほどが洋上で待機中だ」

「そんなに?」
「まだあるぞ」

 ファゴットが天を仰いでから、悪い知らせを聞く準備をした。

「サイアミーズ国の港には、正規の二個軍団が集結。総勢は一万二千以上」

「……やつら、我が国に宣戦布告するつもりですか?」
「いや、オークに襲われた友好国を救援する、という理由だろう」

「オークは野蛮で臭くて醜くて単純極まりない馬鹿ですが、海を渡った他国で戦争をするほど無礼ではない」

 ファゴットは、サイアミーズはオーク以下の礼儀知らずだと罵った。

「己の領域以外のところで戦争をする。この大陸にも、そういう時代が来たのさ」

 当たり前のように言ったアドラーの台詞に、ファゴットが不思議な顔をする。
 これまでのエルフの戦いとは、部族・種族が暮らすための土地を奪い合うものであった。

「失礼ながら、アドラー団長は軍事の経験がおありで?」
「以前いたところで少しな。ただし現場の指揮官止まりだ」

 アドラーは遊撃隊や少数の精鋭を率いた戦いを好み、実践してきた。

「例えばの話ですが、アドラー団長が我が国の司令官なら……どう対処しますか?」

「それはもう、掴んだ情報を生かすしかない。海軍を集め、エルフ自慢の弓兵部隊で上陸する前に沈めてしまう」

「それは痛快ですが、全面戦争ですよね?」
「まあそうなる。言っておくが、あくまで軍人ならどうするって答えだぞ? 俺は平和主義者だ」

 困ったという風に、ファゴットは頭をかいた。
 この仕草は、世界や種族を超えて共通であった。

「どうしましょう?」
 スヴァルトの名門生まれの大使は、何処の馬の骨とも知れぬ男に聞いた。

「それを考えるが、お前の仕事だろ」
「いやいや、エルフはこういった雑務には向いてないんですよ」

「雑務って、お前な……」

 接待する来賓の食事の好みを外交顧問にでも尋ねるかのように、ファゴットはにこやかだった。

「うーんとなあ……。とりあえず、傭兵部隊の目的はあきらかだ。オークと一戦を交える。襲われたと言いふらすのが仕事のはずだ」

「つまり?」
「オークに、うろちょろする人族に手を出すなって頼めば良い」

 ファゴットが大げさに天を仰ぐ。

「挑まれたら引かぬが美徳の戦闘種族に逃げてくれと? エルフに歌うなと言うようなものですな」

「だが、それはお前の役割だろ?」
 オークよりもヒトの方が余程好戦的だがな、の言葉をアドラーは飲み込んだ。

「そうですね、うんそうだ。和平会談がなれば、互いに何かしらの要求をしあう機会はあります。我が国には、オークも欲しがる産物があります。妥協点を見出せるかも知れません。いや、妥結しなければ!」

 ファゴットは、ようやく貴族のぼんぼんから、外交官らしい顔になった。

「いっそ、オークと同盟してしまえば良いのに」

 アドラーの本音に、青年官僚はありえないといった顔を作る。
 やはり、エルフとオークは仲が悪い。

 
 ここまでの内容を、ミュスレアとリューリアとキャルル、それにブランカに伝えた。
 マレフィカとバスティは、別の任務で首都タリスに残留。

 本来のアドラーのやり方は、チームやパーティで全ての情報を共有する。
 小さな部隊では全員のリソースを引き出すことが、何よりも重要なのだ。

 だが、今回は三姉弟に伝えてない話があった。


 ――夜明けも間近になって、アドラーは一つ質問をした。

「なあファゴット、聞きたいことがある」
「なんでしょうか」

「商人を問い詰めた時に、気になることを吐いた。キャルル達のことだ」

 アドラーは大使の顔色を伺った。
 流石に外交官だけあって、この程度では表情は動かない。

「奴ら、エルフの少年が会談の鍵だと知っていた。まあそれは良いが、役割が違う。スペアの鍵でなく、新しい鍵を呼び寄せたと言っていたのだが……?」

 ファゴットは、分かりやすく顔を変えてみせた。
 悩んだふりから、仕方がない貴方だけにはお話します、といった風に。

「商人たちは、具体的な証拠を持っていました?」
 ファゴットが尋ねる。

「いや何も。調べたが、確信は出なかったようだ」
「そうですか、それは良かったような悪かったような……」

 ほぼ一日中起きているアドラーは、少し短気になっていた。
「ぶっちゃけて話せ、ミュスレア達は……王家に繋がるのか?」

 シャイロック達は、和平会談に姫に代わって出席する王族を呼び寄せたと思っていた。

 それを聞いたアドラーは、『いったい何のことだ?』と思ったが、ミュスレアの祖父――エルフ族――の事は何も知らないと気付いた。

「その件は、私どもも調べました。何といっても、キャルル殿と姫様は瓜二つですので」

「疑うような根拠があるのか?」
 期待半分、怖さ半分でアドラーは聞いた。

 もしそうであったら、ミュスレア達はスヴァルトのお姫様……ギルドで働く必要もなくなる。

「九十年程前に、王子殿下と姫殿下のお父君が、数年ほどライデンで駐在武官を勤めたことがありまして……」

「……繋がるのか。なら直接聞けばどうだ?」
 アドラーは別れの覚悟をした。

「それがですね。そのお父君は、二十年前に亡くなられてるのです」
 
 今のスヴァルト老王は、王子や姫の祖父。
 ミュスレア達の父に話を聞ければ、答えを得られる可能性があるとだけ、ファゴットは告げた。

 この話は、これで終わった。
 不確かな情報で王族と認めるはずはないと、アドラーにも分かる。

『遺伝子検査が出来れば…』とは思ったが。

 ただし、依頼の難易度が跳ね上がったことで、アドラーは一つ新しい要求をして、ファゴットも受諾した。

 この国の平和が守られれば、三姉弟にスヴァルトの市民権を与えると。

「こんな事情だ。危険過ぎるので、引き上げようかと考えていた」
 アドラーは正直な意見を言った。

「そ、それは困りますよ」
 ファゴットも正直に答えた。

「戦争中の国の市民権を貰っても意味がない。だから協力しよう。もちろん、ミュスレアとリューリアとキャルルの為にな」

 大きな危険をはらむクエストになると分かったが、アドラーは引かぬと決めた。
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