朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第四章

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 道中、遂にキャルルと姫様が顔を合わせた。

 二人の姉もアドラーも、楽しみにしていたイベントだ。

「ふーん……あんたがキャルル? って、男の子じゃないの!?」

 シュクレティア姫は、早速爆発した。

「なんで? なんで、私の代役が男の子なの? 屈辱なんだけど!」
「こっちの方が屈辱だよ」

 並んで立つキャルルが、ニコリともせずに言い返した。

「なにか言ったかしら? よく見たらそんなに似てないし。耳も短いし、貧乏くさいし。こんなのバレるに決まってるじゃないの」

 シュクレティア姫は、なかなか良い性格をしていた。

「うるせーな、ブス」
 キャルルは、同じ顔をした女の子に遠慮なく言い放った。

 普段から姉と喧嘩する時は、ブスが弟の武器だった。
 ただしげんこつと引き換えの捨て身の技だったが。

「な、なんですって!? もう一度言ってみなさいよ!」
「何度でも言ってやるよ、ブスブスブース!」

「この無礼者! 同じ顔をしてるのに!!」
「ボク、男だもん。顔なんてどうでも良いし!」

 侍女頭が、アドラー達のところへやって来る。
 姫様らしからぬ口喧嘩は、気にしてないようだった。

「この度は、遠路はるばるのご足労を願い、ありがとうございます。姫様は……お生まれになった直後に父君を亡くし、わたくしどもも甘やかしたもので……」

 スヴァルトは、余り礼儀にうるさくなく、庶民的な王家だった。
 住む人も穏やかで、冬の寒さは厳しいが代わりに温泉がある。

「良い国ですね。会談の成功に尽力いたします」
 アドラーはお世辞でなく心から述べた。

 ミュスレアとリューリアは、弟にそっくりな姫様に興味津々だった。
 許可を貰って近付くと、こちらにはシュクレティア姫も丁寧に挨拶をする。

「あーあ、わたしも弟なんかより妹が欲しかったなぁ」と、リューリアが酷いことを言った。


 シュクレティア姫の兄、現在の王太子はリャーデルといった。

『名付けの法則が一緒だな……』と、アドラーは思った。
 エルフは、一族によっては二つ目の文字に特徴的な母音を使う。

 ミュスレアとシュレティア、キャルルとリャーデル。
 だがそれだけでは、何の証拠にもならない。

 アドラーは複雑だった。
 クォーターエルフの三姉弟が苦労するのは見たくないが、魔女の籠もる森の外れに住んでいたから、一命を取り留めることが出来た。

 もし別れる事になっても、彼女らには平穏に暮らして欲しいのだ……。


 五百のエルフ弓兵と三百のフュルドウェル騎兵の半分に守られ、アドラー達は無事にオークの集落に着いた。

 実務と調整の為の官僚団は、五日も前に到着して交渉を重ねている。

 王族であるシュクレティア姫が祝宴に顔を見せて『オークとエルフの新しき時代の為に』とスピーチすれば、万事が上手くいく予定である。

「それにしてもデカイわね……オークってのは」
 アドラーと二人で見学に出たミュスレアが呟いた。

 オークの女は背が高いと言える範囲だが、男達は山のように大きい。
 成人男性は、平均で220センチはある。
 腕も丸太のように太く、胸板は鎧など要らぬくらい厚い。

 アドラーが所属したアドラクティアの連合軍でも、オークが最高の戦士だった。

『ただし、プライドが高く従わせるにはコツが要るのと、個体数が多くないのが弱点』だとアドラーは知っている。

 しかし、一度味方になればこれ程頼りになる種族もない。
 オークは特に、死守やしんがりと言った命令を伝統的に最上の評価としている。

『隊長、そんな顔をするな。我が認めた強者の命令で死ねる、これほどの誉れはない。さらばだ、戦士の園で会おう』

 アドラーが覚えている、オーク族で最高の戦士の記憶はこれが最期。
 このオークが一人で塔の入り口を守り、アドラー達は中へ突入した。

「懐かしい雰囲気だ」
 集落を見たアドラーは思わず笑みがこぼれる。

「アドラーは、オークと会ったことがあるの?」
 ミュスレアが不思議そうに聞いた。

「ああ。一緒に戦ったこともある」
「へぇ……わたし、アドラーの事って知らないことばかりね」

「ついさっき、思い出したんだよ」
「そうなんだー……。ねえ、ライデンに帰ったら、その話聞かせてね?」

 アドラーの顔を、下からミュスレアが覗き込む。
 まだ、この国に残って平和に暮らせる可能性があると、アドラーは告げていなかった。


 歓迎会の最初の夜、オーク族が事件を起こした。
 とても彼ららしい理由だったが。

「えー、この度の会見にあたって、執拗に反対した者があったので、前祝いにスヴァルトの姫殿下の前で処刑いたします!」

 宴の乾杯の直後、オーク族の一人が立ち上がって宣言した。
 エルフ族はざわめき、キャルル姫は一瞬にして顔が真っ青になる。

『おっこのパターンか。北も南も、オークのやることは同じだなあ』
 オークは血など恐れないと、見せつけたいのだ。

「族長の息子、ダルタスをこれへ!」

 長の決定に逆らった息子、エルフへのインパクトはこれ以上のものはない
 優秀な戦士だが、オークはちょっぴり野蛮だ。

 引きずり出されたダルタスという名のオークは、立派な体格だった。
 アドラーでもなくても見ただけで分かる、地上の誰も敵わぬような筋肉の持ち主。

「おやめ下さい!」と騒ぐエルフの官僚など、オークは気にも止めない。

 キャルルが、アドラーを見つめていた。
『兄ちゃん、何とかして!』と訴えるかわいい瞳に、アドラーは応えることにした。

「お待ち下さい!」
 アドラーは、オーク語で喋った。

「そなたオークの言葉が話せるのか?」
「少しながら」
 族長が問うて、アドラーがオーク式のお辞儀を交えた挨拶を返す。

「これは我が部族の問題であるぞ」
「しかしながら、今宵は女子供もおります。血を見せるのは戦士の恥かと」

 意外なことにオーク族は、非戦闘員を殺すのを嫌う。
 女子供は戦いの外に置く。

「エルフとの和平、その障害であるが?」
 族長は、オークの習俗を知るアドラーと話すのが気に入ったようだった。

「ならば、戦斧の舞いを拝見しとうございます。オークの勇ましさを見るに、あれ以上のものはございません」

 思い切り持ち上げたアドラーの言葉に、列席のオーク達が膝を叩いて賛意を示した。

「ほうほう、よく知っておられる。ならばお見せしよう! おい、そいつは牢に戻せ」
 ダルタスとやらは、引きずられて退場した。

 若いオークが二人進み出て、演舞と思えぬ速度で斧をぶつけ合う。
 時折、火花が散る激しい舞いを披露する。

 怪我人が出ることもあるが、処刑よりは遥かにましな見世物だった。

 オークの族長が手招きでアドラーを呼んだ。
「酒盃を受けられよ、そなたは……」

「アドラーと申します」
 名を覚えた族長が、巨大な杯になみなみと酒を注ぐ。

 寒い地方に住むオークの酒は強い、口から火が出るほどだったが、アドラーは一気に飲み干す。

 宴は一層盛り上がった。

「ういーっす。いやー世界がぐーるぐる」
 アドラーは完全に酔い潰れていた。

「もう、しっかりしてよ……」
「だんちょー、酒臭い」
 ミュスレアとブランカが、立てぬギルドの長を何とか担いでいた。

 初日の夜は、何事もなく終わった……かに思われた。

 シャイロックの伝言を携えた使者が、夜を継いで集落へ到着した。

 一人はアドラーの元へ来たが、もう一人はオークの元へ行った。
 抜け目のない商人は、サイアミーズとアドラーだけでなく、オークとも繋がりを作ろうとしたのだった。
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