朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第四章

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 アドラーが目を覚ました。
 喉はからからだったが、爽やかで暖かい目覚めだった。

 暖かさの原因は直ぐに分かった。
 キャルルだけでなく、ミュスレアもリューリアも、団長に寄り添うにして寝ていた。

「あれ……みんな? というか、ここ何処だ……?」
 見覚えのない場所だった。

「よう、お目覚めかい?」

 知らない声がして、アドラーがそちらを向くと、鉄格子が目に入った。
 さらに通路を挟んだ鉄格子の向こうに、一人のオークがいた。

 アドラーは、自分を枕にしていたキャルルとリューリアの頭をそっと地面に置く。

 服を握っているミュスレアの指も、そっと外す。
 普段は剣や斧を振り回すミュスレアの指は細く綺麗で、アドラーは急に照れくさくなった。

 水の入った壺を見つけ、飲みながら鉄格子に近づいた。

「ここ、何処だ?」
「……牢屋だよ」

 オークが、呆れた声で答えた。

「なんで俺がここに居る?」
「知るかっ!」

 オークの口調は鋭かったが、声は小さかった。
 まだ寝てる子供達に配慮したのだと、アドラーにも分かる。

「お前さん、名前は?」
 アドラーは、気の良さそうなオークに尋ねた。

「自分から名乗るのが礼儀だろうが!」
 オークが小さな声で怒鳴った。

「それはそうだな。俺はライデンの冒険者アドラー。”太陽を掴む鷲”の団長だ。ここへは、姫の護衛で来たのだが……」

「酔っ払って捕まる護衛とは、楽な仕事だな」
「返す言葉もない……」

 昨夜は飲みすぎたことを、アドラーはようやく思い出した。

「そういや、お前の顔は昨日見たな。歓迎会の席で」
 牢屋のオークは、処刑の見世物にされそうになった男だった。

「俺も貴様のことは覚えているぞ。余計な茶々を入れてくれたな」

 アドラーは、処刑を止めたことも思い出す。

「ああ、確か族長の息子の……ダルタスだったか?」
「そうだ」

「何故、エルフとの和平に反対した?」
「俺は自分より強い者にしか従わぬ。だからだ」

「和平だぞ? 従うも逆らうもないだろ」
「俺はこの部族で最強の戦士だ。戦わずして引くなど出来ぬ」

「さすがオークだ。話が通じない」
 アドラーは諦めた。

「それにしても……俺たちが牢屋に居ると言うことは、会談は失敗か。ダルタス、お前はなぜ解放されない?」

 ダルタスは、己の武勇を誇るかのように肩の筋肉を盛り上げる。

「俺の罪は、戦いを求めたことではない。親父、いや族長と長老の決定に納得いかずに殴り込み、止めようとした奴らを十人ほど叩きのめしたことだ。ついでに親父も殴ってやったわ!」

 ダルタスは愉快そうに笑う。
 エルフがオークを騙そうとしたのでダルタスの主張は正しくなったが、それでは助からない。

「オークの刑罰は過激だからな……」

 極圏にも住むオークは、乱暴ではあるが掟は厳しい。
 族長を殴れば息子といえど恩赦はないかもと、アドラーは思った。

「お前、ここで死ぬのか?」
「刑死は望まぬが、死は恐れぬ」

 典型的なオーク族の男であった。

「せっかく一度は救ったのに、もったいない。お前は強そうだしな」

「誰も頼んでおらんわ! それに、戦となれば出さざるを得ない。俺はこの一族で一番の戦士だからな」

 そういうものかと思いながら、アドラーは鉄格子を見渡す。
 洞穴だろうか、岩をくり抜いた牢に腕ほどの太さがある格子。
 オーク仕様の牢屋だった。

「しばらく待つか……」
 アドラーは横になったが、入れ替わりにリューリアが起きた。

 きょろきょろと見回したリューリアは、大きな緑の目をぱっと開くと、アドラーに襲いかかった。

「アドラー! 起きて大変なのよ!!」
 素晴らしい回転力でアドラーをばしばし叩く。

「リュ―! 痛い、痛いよ! 起きてるから!」
「あらそう。ほんと大事な時に泥酔して……って、それどころじゃないの! 奴らの狙いは王子と姫よ!」

「なんだって!?」
 アドラーは再び飛び起きた。

 昨夜の出来事と、扉に挟まっていた伝言を全て聞き終えたアドラーは、泣きそうな次女に謝ってから、お向かいさんに聞いた。

「おいダルタス。この部族にオルタスはいないのか?」
「気安く呼ぶな……それに、なぜにその名を知っている?」

「以前にな、その名を持つものを倒し、オークを率いたことがある」
「なっ!? 嘘をつけ!」

 本当であった。
 遙か古代から伝わる、オーク族の大英雄オルタス。

 世界を旅してオークの武勇を各種族に示し、その最期も壮烈。
 オークの集落に迫った巨人族をただ一人迎え撃ち、立ったまま息絶えたという。

 アドラーの予測では、二つの大陸の種族は数万年以内に共通の祖先がある。
 南北のオークに、同じ伝承があったとして不思議はない。

「オルタス名を継いだ勇者を従わせれば、一族も従うのだがな」
 オークは、ことのほか武勇を尊ぶ。

「……オルタスの試練ならば、我らにもある」
「あるのか? なら話は早い。おい、誰かいないのか! 話がある!」

 アドラーは、大声を出して牢番を呼んだ。

「貴様、正気か? あれは戦いなどではない。素手で斧を持った戦士とひたすら戦う、ただの惨殺だぞ!?」

 この試練を通過すればオルタスの称号を得るが、それだけの戦士は滅多にいない。

「心配するな、俺はそれをくぐり抜けた男を知っている」
「し、心配などしておらんわ!」

 このオークは悪いやつではなさそうだと、アドラーは思った。

 やって来た牢番は、アドラーの申し出を聞いて驚く。
 何百年も行われていない試練を、小柄でひ弱なヒト族が受けると言い出したのだ。

「ほ、本気かね?」
 牢番は聞き返す。

「ああ、もちろん。冗談でこんなことを言えば、英雄への侮辱だろ」
「ならば、族長や長老に伝えてみよう。罪を明かす為に試練を受けるとな」

「よろしく頼む。ついでに、急ぎだから直ぐやってくれと伝えてくれ」

 オークの門番は、首を捻りながらも出ていった。
 アドラーの申し出が正気とは思えなかったのだ。

 門番と入れ替わりで、小さな影がやってくる。

「だんちょー……」
 心配そうな声で呼びかけたのはブランカ。

「お、無事だったのか。良かった良かった」
 檻越しに頭を撫でる。

「リューリアがあたしだけも逃げろって。はい、これ!」

 ブランカが、アドラーの剣を差し入れる。

「わざわざありがとな。けど、こいつはしばらく使わないかな。いや、ちょっと下がれ」

 ブランカを鉄格子から遠ざけて、アドラーは彼女の牙を埋め込んだ剣を抜いた。

 凄まじい音を立て、丸太のような鉄の棒が一斉に転がる。
 アドラーの剣は、鉄格子をまとめて五本ほど切り倒していた。

「中へおいで。一緒に朝ごはんを食べよう」
「あい!」

 ブランカが、出入り自由になった牢屋に入る。

 五人全員が揃ったことで、アドラーは安堵していた。
 あとは牢番が食事を持ってくるのを待つだけ。

 しばらくして、牢番が族長らを連れて戻って来る。

「貴様がオルタスの試練を……って、なんじゃこれは!?」
 使い物にならなくなった牢を見て、族長が声をあげた。

「逃げても良かったが、大事が起きた。オークの力を借りたい。試練に挑む力があることは、それで分かるだろ? 剣がなくとも、俺は強いぞ」

 族長は最初にアドラー、次に腰の剣、それからアドラーの顔を見ていった。

「ふははははっ! 面白い、今どき変わった奴め! よかろう、オルタスの試練を執り行う! おい、朝メシを出してやれ!」

 オーク族は、強い奴なら種族を問わずに好きなのだ。

「さあご飯だ、みんな輪になって」
「はーい」

 キャルルとブランカの声が綺麗に揃った。
 ミュスレアの目は『また無茶をするの?』と聞いていたが、アドラーは笑顔を返した。

 団長が酔いから覚め、何時もの調子に戻った”太陽を掴む鷲”の一行は、牢屋の中で食事をとる。
 だが、不安な顔をする者は一人もない。
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