朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
67 / 214
第四章

67

しおりを挟む

 朝飯のあと、アドラーはブランカに頼んだ。

「ブランカ、ちょっと取ってきて欲しいものがあるんだ」

 アドラー達の手元にあるのは、リューリアがずっと着けている翠石の髪どめと刀くらい。

 他の者が牢を出れば脱獄だが、ブランカは勝手にやってきた。
 出入りは自由である。

 牢番も、出て行く白い尻尾をちらっと見たが何も言わない。
 オーク達の興味は既に、このあとのオルタスの試練に移っている。

「オークって適当ねえ……」

 食後のお茶を飲みながら、ミュスレアが牢番にも聞こえるように喋る。
 牢番の強面オークは、恥ずかしそうに頭をかいた。

「まあ……そこが良いとこなんだがね。エルフ族だってかなり適当だし」

「そんなことないわよ!」とリューリアが反応したが、姉と弟を見て意見をかえた。

「そんなとこもあるかもね」

 オークの寿命は二百年以上、エルフは三百年以上。
 几帳面な人族とは時間の感覚が違う。

 それに、長い寿命の分だけ子を残すわけでもない。
 多産でサイクルの早い人類は、他種族を圧倒し始めているのだ、この大陸では。


 祭りの準備は整っていた。

 和平会談の為に主な部族が集まり、観客も戦士も揃っている。
 
 昨夜の大盤振る舞い――エルフの姫の歓迎会――から一転、最高の出し物である殺し合いが見られるとあって、オーク達はやんやと盛り上がる。

 常設の闘技場は満員御礼。
 ファゴットら役人に護衛隊長など、エルフ族の主だった面々まで席を与えられる。

「他の兵士は?」
 アドラーがファゴットに聞いた。

「何の抵抗もなく全員捕まって……すいません。ところで、これ何ですか?」

「うーん、まあ友情の儀式だよ」
 アドラーの返事に、エルフ族の友人は首をひねる。

「ところで、相談があるんだが……」
 ファゴットと高官に、アドラーの持つ情報を伝える。

 首都でクーデターが起きるとの話に、ファゴット達は慌てふためいた。

「ど、どうしましょう?」
「それを考えるのがお前の仕事だろ? だが、名案がある」

 アドラーは、短い時間でエルフ族から名案の了承を取り付けた。
 もう他にろくな選択肢もない。

 オルタスの試練が始まる前、闘技場に太い鉄の棒が一本置かれた。
 これを切れとばかりに、アドラーに自分の刀が渡される。

「良く分からんが……っと!」
 アドラーは、地面に立てた鉄塊を上段から真っ二つにした。

「おおおおおっ!」
 見つめるオークから歓声が上がり、足をドンドンと踏み鳴らす。
 どうやら受けたようだ。

 アドラーの剣は回収され、代わって族長が出てくる。

「見ての通り、この者はヒトにしてはそこそこやる。しかもこの者は、素手で試練に臨むと宣言した! この者を……アドラーとかいったかな、倒した戦士にはこやつの剣も与えるぞ!」

 族長が勝手に約束する。

「ま、まて! いや、待たなくて良いや。俺は命と名誉と剣を賭ける。こっちの望みも聞いてもらえるか?」

「なんなりと申すがよい! 死する男の願いだ、なんでも良いぞ」

 族長の言葉に甘えることにして、オーク語で喋り始めた。

「勇敢なる戦士諸君!」
 アドラーは、オークの好む呼びかけから始めた。

「今、エルフの国に危機が迫っている! 諸君らも住む森と雪の大地に、土足で踏み込んだ者共がいる。奴らは大軍で、新しい兵器を持っている。これを北の海へと追い落とすのに、諸君らの力が必要だ。俺は、オークとエルフの同盟を要求する!」

 普段は、騒ぐか怒鳴るかしないオークが、低くざわついた。

「そしてだ!」
 アドラーは観客席を指さす。

 そこには、着け髪に衣装、化粧に装身具を整えたキャルルがいた。
 ブランカが牢屋に持って来た物である。

 キャルル演じるシュクレティア姫は、涙目でオークに訴えた。
「あの、みなさん! わたし、命を狙われてます! 助けてください……!」

 オークの趣味は、オーク族の女。
 背は190前後、胸も尻も格別に大きく、よく働いて情が深い。
 オークの雄は、貧相な多種族の雌など見向きもしない。

 それでも小柄な美少女エルフの訴えは効いた。

 見守る数万のオークが歓声と共に足を踏み鳴らし、何かしらの反応を起こす。
 手を広げて静めたアドラーが、最後に付け加えた。

「貴様らが従うに相応しい戦士か否か、ここで証明してみせよう! 我こそはと思うものはかかってこい!」

 どっと沸くと同時に、一人のオークが進み出る。
 鎧は無いが手には巨大な斧。

「西の一族のバイオスだ! その首と剣は俺が貰う!」

 問答無用の戦斧をアドラーに叩きつけるが、次の瞬間、バイオスは地面に膝をついた。

 左手だけで斧の柄を受け止めたアドラーは、右手でオークの腹を強く突いていた。

「こんなものか? メガラニカのオークはひ弱だな」と言いつつ、顎を蹴飛ばして気絶させる。

 直ぐに、次の挑戦者が出てきた。

 アドラーは、昨夜の歓迎会で着ていたエルフ風の正装。
 薄い布を何枚も重ね、着物のように帯で留める。
 足元は革のサンダルで、短めの茶色い巻き髪が動く度に小さく揺れる。

「だんちょー! がんばれー!」
「兄ちゃん、頑張ってー!」
「アドラー、やれ! 殺せ!」

 物騒な応援はミュスレア。
 リューリアは見ていられないのか、目を閉じて姉にしがみ付く。

 次々に現れるオークの挑戦者を、アドラーは倒す。
 手加減はしない、いやオーク相手では出来ない。
 大半の者は、腕か足の骨、または首か背骨を折った。

「リューリア、ちょっと良いかい?」
「……うん。ぐすっ」

 本格的に泣きそうな次女に、アドラーは頼み事をした。

「こいつらの怪我、治してやってくれ」
「……どうして?」

「この後、一緒に戦うからさ」

 治療を頼んでから、アドラーは闘技場の中央に戻る。
 既に、十八人のオーク戦士が戦闘不能になっていた。

「流石にタフだな、こいつら」
 長期戦に備えて、アドラーは二つの強化を交互に使う。

 元々、優れた冒険者の素質があるアドラーの戦闘力は高く、経験も豊富。
 三倍程度に跳ね上がれば、一対一で遅れを取ることはない。

「三十!」まで数えたあたりで、アドラーが勝った時にもオークの足踏みが激しくなる。
 アドラーのことを認めた証だった。

 それでも挑んでくるオークの数は減らない。
 なぶり殺しを好まぬ戦士達も、強者に挑み始めたのだった。

 アドラーは、敵が武器を落としても拾ったりしない。
 体温が上がり、上着は下衣一枚になったがスピードで翻弄する。

 先に攻撃させて避けるか止めるかして、膝や肘を砕く。
 大型の二足種族を相手にする時の、正攻法で片付けてゆく。


「ふう、六十七人目!」
 遂に、東の一族で最強と語ったガレアスを退ける。

 アドラーは三時間以上も戦い続けていた。
 ほんの僅かだが、次のオークが出てくるまで間が出来た。

 その隙を見逃さずに、アドラーが族長に提案した。

「族長、ダルタスを出してくれ。奴が勝てば自由を、俺が勝てば奴を貰う。少しくらい、おまけしてくれても良いだろ?」

 しばし悩んでいたが、族長は認めた。
 ダルタスが出てくるまでの間、闘技場はしばらくの平穏が訪れた。

 リューリア以外にも、治癒魔法を使える者が集まり手当てをしているが、転がったオークはまだ二十人ほどいる。

 牢番に連れられて出てきたダルタスは、素手だった。
「礼は言わぬ……いや、戦いの機会を与えてくれたことを感謝しよう」

 ゆっくりとアドラーとの距離を詰めて、互いが同時に殴りかかる。

「やはり、こいつ、ずば抜けて強いな!」

 ダルタスは強かった。
 アドラーは呼吸の限界まで拳を繰り出す。

 大きく息を吸い込む間際に、右の拳がダルタスの顔面を捉える。

「ぐおっ!」
 ダルタスがほんの半歩下がった瞬間、アドラーは呼吸を整え、渾身のストレートを打ち込んだ。

 顎が砕けた手応えがあった。
 しかしダルタスは、膝も手もつかぬ。

 半開きの口からはオークの牙が見えるが、戦意は失わない。

「ダルタス」
「……」
 
 アドラーの呼びかけに、顎が砕けたオークは返事をしなかった。

「お前の身柄は俺に預けると、族長は約束した。新しい戦場を用意してやる、俺に従え」

 闘志の衰えぬオークの前で、アドラーはこの日初めて二重の強化を使う。

「……そ、それほどか……」
 ダルタスが地面に膝をついて、降伏した。

 次の挑戦者は、現れなかった。
 勝者と敗者を称えるオークの足踏みが、ひたすら大地を揺らしていた。


 アドラー達とエルフの解放を族長が約束する。

「どうじゃ? わしとも一戦やらぬか? 勝てば娘を一人やるぞ!」

 族長が指した娘は、はち切れんばかりの胸を持った若いオーク娘だった。

「わ、悪くないですなあ!」
 社交辞令で答えたアドラーの後頭部に、ミュスレアとリューリアの拳が炸裂した。

「うむむ、貴公でも避けれぬとは、エルフもやりおるのぅ……」

 試練を見届けた族長は、オーク義勇軍の編成と指揮をアドラーに許可した。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...